巻第一 横笛
【第一】鴉兄弟及び鷺父子の事
今は昔、祇園林にカラスの兄弟アリけり。
兄は
剣術槍術は云うに及ばず武芸全般に長じ、古武道
弟は名を
真玄とは腹違いの、歳の離れた兄弟なればまだ幼く、開いた翼の幅はリンゴ5個分の幼鳥にございました。
趣味もまた武勇に興を惹かれる兄とは対照的で、茜に移ろう
さてこの兄弟、先祖を辿れば熊野三山の使わしめでございましテ、
さらに申せバ、真玄の女房殿の家系も熊野から生じており、その父君は、かの京極中納言もくりかえし歌に詠んだ歌枕「生田の森」の
むろん家名というものは個人の——や、
然れどモ、「親の苦労子知らズ」とも申せば、さような苦労など殿様育ちの真玄は知る由もございません。加えて申しますれバ、家名が上がれば上がるほど太鼓持ちは増えるもの… 残念なことにこのカラス、叩かれる太鼓が多ければ多いほど舞い上がる性分にございました。舞い上がるなら己のみならず家名まで舞い上げたいと、弟君には生田の森に勝るとも劣らぬ名家の姫との縁談を企んでいたのでございまス。
とは云え、都近隣を見渡せば、岩神の森のカラスの姫は
——さもあれば仕方なし… この際、ゼイタクなど云ってはおれヌ。家名にハクをつけてくれるのであれば多少翼の色が違かろうと、くちばしの先がシャクレていようと、落ちてるモノを拾って食おうと、空さえ飛べれば御の字じゃ——
伎芸に秀で、美しさにおいてもならぶ者ナシと評判の、さる
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また、中鴨の森に一羽のシラサギありケリ。
このサギ、
羽衣は薄明に浮かぶ新雪がごとく
またこのシラサギ、文武にも秀で、『春秋』や『新潮』を読んでは、
さて、この正素には三羽の子サギがございました。
嫡男たる上の男児は、名を
下の男児は
最後に一番下の娘ですが、生年13歳、楊貴妃の鼻を1cm高くしたような切なげな面立ち、たおやかで雪のなかの早梅の薫りを思い起こさせるたたずまいは、目にした者ならヒトでさえも歌に詠まずにおかない麗しさにございまス。さればこの姫、透明感のある羽衣がまるで新雪のようで、美しさが衣を通して輝いたと云う
然れどモ、姫のチャームポイントは姿形の麗しさばかりではございません。詩歌管弦にも優れ、和歌を詠めば葦辺のツルも叶うことがなく、歌声の愛らしさは『少年アシベ』のゴマちゃんにも劣ることナシ——
可憐な白翼の奏でる琵琶は、唐の奏者・
おまけに書の腕前につきましても評判で、筆運びは古筆に倣い、紫式部か日ペンの美子ちゃんかと讃えられるほどにございまス。
然しテ、この雪透姫こそが、祇園林の殿様のメガネに適うこととなる姫君なのでございまシタ。
【第二】につづく——
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