黒白戦記(『鴉鷺物語』より)
否きよし
【前口上】
さても一座の皆様方ッ——
而して思考せば——黒松の木立ちに騒ぐカラスの声は、阿弥陀如来の法を説くコトバなりと申しますれば、
ふと耳を澄ませば、見め麗しき地下アイドルのスカ屁に念仏を囁く声を聞き、じっと眼を凝らせば、白磁のごときオヤジのハゲ頭に霊験の映ずるを見ル… 仏道に曖昧と判じるところなく、仏法の投ずる真理は鼻クソやチンカスのごとく、世の中のアッチャコッチャに在るのでございまス。
先人の語り遺したところによりますと、悟りを得たる者にはなんら特別なさまがないそうでございまして、
いわンやその姿、遠・近・乱視、老眼のいずれを以ってして、ヒト以外の何者をも認むること
その心は、時にマイ・スイート・ハートへのヤキモチや未練にモヤモヤしたとて、情念の
そもそも、
されバとて、人の心は
やがて周の時代に到り、千年の泰平は砂上の楼閣に、道理や規範は水を抜いた稲田のごとく枯れ、王道はすっかりスカ屁果てて——や、
民を治め、世を治めるには、『文=理知』ヲ左ニ、『武=兵法』ヲ右ニスとこそみえたれ、
とは申シましても、世の中が平和なら『武』はどうあっても余剰となるほかございませン。戦のない世にあって、『文』に重きがおかれ『武』が軽んぜられるのは当然のこと——その逆もまた然りでございまス。
さレど、翼の軽重が左右いずれかに傾けば、鳥は飛び立つことも叶いません。傾いた側には慢心が
そもそも、『文』と『武』とは反発しあうのが常でございまして、それぞれが睨みあい枷となることで、それぞれの慢心が防がれるのでございまス。然るニ、『文』が慢心すれば陽だまりのなかで
李さん
いまや
心卑しき者らは君子を嘲り、君子もまた心卑しき者らを蔑ム… 愚者が智者を嫉めば、智者は愚者を疎んズる… 君臣官民いずれも道理に背き、万引き、ネコババ、親不孝、児童虐待にインサイダー取引、オレオレ詐欺からパー券販売による裏金づくりに到ルまで、誰も彼もが悪事を犯すことお構いナシ——
然ルあいだ、飛禽走獣、天翔けるハヤブサから地を駆るオオカミ、オカメインコからオカチメンコに到るまで、血肉を賭して争う世と相成らン!
かくして、
その発端を、クレタ島の迷宮でアリアドネの糸玉にネコがじゃれるがごとくニャゴニャゴニャ~ゴゴロニャ~ゴと紐解けば、さるカラスの若君とシラサギの姫君との淡く幼き恋物語にアリとぞ受け給ハル——!
【第一】につづく——
◆底本——※全話共通
作者不詳「鴉鷺物語」『新日本古典文学大系54 室町物語集 上』所収、岩波書店 1989年
◆参考文献
王崑崙「布袋和尚
塚本虎二 訳『新約聖書 福音書(電子書籍版)』岩波文庫 2018年
埴谷雄高『死霊Ⅲ』講談社文芸文庫 2003年
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