【第三】※筆者註
※「アンチ男根信仰」に批判的な方と、女性の「オーガズム」に関心のない方は読み飛ばして【第四】へ——
●アマサギの乳母
「月清尼」「月御前」の呼び名は筆者がつけた。底本には「
ところで本段では、花見のシーンにおいて、雪透姫が川水に戯れるのをアマサギが河の外から見守るさまを描いたが、それはなにも微笑ましい風情を伝えようとしたわけではない。そもそもアマサギは、サギ類には珍しく水辺にあまり近づかない習性がある。この種は田園地帯で行動することが多く、ウシやウマなどの周りを歩き、その動物の体についたハエや、それらが歩くのに驚いて草むらから飛び出してくるバッタなどの虫を捕まえて食べる。
彼女が水に浸からなかったのも、住まう場所を田園地帯の大原としたのも、以上の習性から着想した。
●七羽のコチドリ
七羽が被る烏帽子、赤・橙・黄・緑・藍・青・紫は虹の七色に対応させている。蛇足だが、この色の並び順を崩せば崩すほど、ふしぎと虹には見えてこなくなる。
ちなみにコチドリの名は、本段で紹介した「
●「ボクの44マグナムで天国に逝かせて上げるよ~」
筆者の悪ノリである。反省している。
そもそも「.44マグナム」は
でなくとも、こんな男根主義的傲慢を「知るらめや…」の歌に込める意図は、在原業平にはなかったに違いない。
膣オーガズムを経験した女性が一割に満たない事実(※デイヴィッド・フレデリックらによる2018年発表の研究データ)からしても、業平が己の男根のみで、性行為を交わした相手を満足させていた可能性は低かったものと思われる。なにしろ女性が男性との性交でオーガズムを感じる割合は65%——前出の研究データによれば、これはレズビアンやバイセクシャル女性との性交でオーガズムを得られる割合より低い(前者86%、後者66%)。つまり男根を持たない同性との性交のほうが、女性はオーガズムを得られる確率が高いのだ(『動物のペニスから学ぶ人生の教訓』より引用)。
業平においては、3,733人の女性と関係し、そのすべてを満足させたとされ、みずから「知るらめや…」のような歌を詠むような人物でもあった。であれば、かれには女性をオーガズムに導くことで、自らも満足を得たいという想いがあったはずである。
ところで、未だその全容は未解明ながら、女性器周辺の性感帯の大部分はクリトリス由来とされる。外性器としての「陰核」はクリトリスの先端部分(頂部)に過ぎず、それにつづく本体(体部)は内部上方の骨盤内に伸びて尿道と密接に結びついている。さらに二股に分かれた脚部は次第に先細りながら5~9㎝ほど伸び、膣の筒部分を挟み込んでいる。そしてこの「驚くほど敏感な器官」にはマイスナー=パチーニ小体と呼ばれる特殊な感覚細胞が密集しており、女性のオーガズムに強い影響を与えている。
女性のオーガズムが、男根のサイズと縦方向の単純運動だけでは達成できないことは明らかである。男根そのものにそこまでの力はない。3,733人もの女性を昇天させた業平が、そんな「男根信仰」の虚妄に気づいていないはずはないだろう。
以上のことから、かれが
◆参考文献
叶内拓哉・安部直哉・上田秀雄『山渓ハンディ図鑑7 新版 日本の野鳥』山と渓谷社 2016年
エミリー・ウィリンガム『動物のペニスから学ぶ人生の教訓』(的場知之 訳)作品社 2022年
キャサリン・ブラックリッジ『ヴァギナ 女性器の文化史』(藤田真利子 訳)河出文庫 2011年
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