【第十八】七夕の因位の事
——むかァしむかし、
ふたりが
ほじゃけど、しあわせなじかんというのは、とくしゅそうたい
ところでこのふたり、たいそう
それでも、
そんなある
ところがこまったことに、あまの
おもうあいてをむこうぎしに
ほんで、この
ほじゃから、
どっぺんぱらり——
*******
——と、以上が鴨大夫が真玄に語った「カラスとサギの由緒話」にございます。
鴨大夫曰く——
「漢王が伝えてござる、「烏鵲、橋のほとりに
されど真玄、頸を傾げて申しまス。
「遊子伯陽の物語はそれがしも知るところでござった。されど、大夫殿のされた物語とはいささか話が違い申す。それがしが知っておる物語では、橋を架けるはカササギばかりで、カラスもアオサギも出番がござらん」
鴨大夫、真玄の疑問を払うがごとく手羽を振り——
「古い物語には異聞が付きものじゃ。『日本紀』にも「一書に曰く」と其処かしこに異聞が付されてござろう。それが海の遥か彼方の物語なれば猶のこと… いま
「されど、それではカラスとカササギの橋でござろう。アオサギはどこに出てくる?」
鴨大夫、真玄が自問するのに答えて曰く——
「うん… 近頃のお若い方は御存じないか知らぬが、ここで申す『
「ホッホオ!」とキジバトのごとき声を上げ、真玄は手羽をたたいて悦んだ…「カササギがアオサギとは、わしの不勉強じゃった。や、サギが白うないのはじつに惜しいが、たしかにこれは鴉鷺の「奇縁」… さっそく山城守にもこの由緒話を知らせ、冬若とシラサギの姫との縁談を進め申そう!」
せっかちな真玄のこと、さっそく中間の鵜吉に墨と紙とを持って来させます。あまりの性急に、鴨大夫はカモが豆鉄砲を喰らったような貌になり、「待たれい、待たれい」とあわてて真玄の筆を止めさせる——
「世間から見れば、鴉鷺の縁談など世の倣いに外れたことじゃ。何事も因襲を破ろうとする者には世の風当たりは冷とうなるもの… 真玄殿が大原のアマサギを避けるのもそのためじゃろう?」
「おお… たしかにそうじゃが、ではどうせよと仰せか——?」
鴨大夫、答えて曰く——
「さればこその『鳥歌合』じゃて… 世間の耳目の集まるなか、鴉鷺の由緒話を歌に詠みこんでみせ、『烏鵲の橋』の誤伝を糺すのじゃ。ひいては東市佐殿の見識の広さを知らしめ、お高くとまった渉禽どものカラスを見る目を変えさせるのじゃ。わしが知る山城守も、かような博識には眼がないでの。兄君を見る目が変われば、冬若殿と姫との縁談も考え直しもしようというものじゃ」
「なるほど…」と真玄は感心し、「ではまず『鳥歌合』についてのみ、書状を返し申そう」と云ってふたたび筆をトリましてございます。
*******
さて、鴨大夫が糺の森に帰る段となり、真玄の中間、
「ハタで聞いておってどうじゃった? 云い忘れたことなどなかったかノ?」
ハシブトガラス答えて曰く——
「はあ… 天の川で水浴びするのも、七夕に善法堂へお参りするのも、弁天様ではのうて
「ぐゎぐゎぐゎ…」
中間のシャクに障る云い回しに鴨大夫、貌をしかめて喉を鳴らしますが、とうのハシブトガラスは気にする様子もなく失言をつづけまス。
「案ずることはござらン。うちの殿様も勘佐殿も大してモノを知らぬゆえ、バカ正直に信じるじゃろうテ。冬若様に知れたら怪しむか知れんが、逢坂山のニワトリにでも相談せぬ限り心配ござらん」
「般若林は御存じというわけじゃナ…」鴨大夫は据えかねる腹の中味を抑え込んで申します。「されば、上人殿に伝えよ、鴨大夫は使命を果たしたと… ゆめゆめ、わしとの約定をお忘れなきように、と——」
【第十九】につづく——
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