【第五】※筆者註

※関心のない方は読み飛ばして【第六】へ——


●シャクシギ

 「カタツムリ」「デンデンムシ」という名のついたしゅがないように、「シャクシギ」と云うトリもいない。いるのは「コシャクシギ」「チュウシャクシギ」「ダイシャクシギ」などである。すべてシギ科の渡り鳥。

 ちなみに「カタツムリ」「デンデンムシ」は殻を持つ陸棲巻貝の通称で、それぞれの種はたいてい「○○〇〇マイマイ」と云う和名がついている。

 ところで、ネコもシャクシギも坐禅は組めない。カタツムリも組めない。


●杜宇弧雲/梅原好声

 底本に登場するホトトギスの名は「特牛鳥こといどり平内へいうち五郎ごろう車持くるまもち武春たけはる」である。本作では「般若林の禅僧」という設定を付加したことから「杜宇弧雲とうのこうん」という僧名をつけた。ちなみに底本にある「特牛鳥」と、筆者が名づけた「杜宇」は共にホトトギスの異称である。僧名「弧雲」は「一声杜宇弧雲上」いっせいのとう、こうんのうえという禅語から引いた。

 ホトトギスが僧堂を構える般若林は京都の相国寺内にある松林がモデルで、その養父のウグイスが住まう鴬宿梅は相国寺塔頭・林光院の庭園に現存する梅木である。天暦年間(947-956)に御所の清涼殿の梅が枯れてしまい、代わりにこの梅が林光院から移植された。それを惜しんだ紀貫之の娘が歌に詠み、それを短冊に書いて枝に掛けておいたところ、帝の慈悲で植え戻されたと云う。その時の和歌が、梅の銘の由来との由。

 弧雲禅師が梅原うめはら好声よしなの養い児と云う設定は底本にはなく、ホトトギスの多くがウグイスの巣に托卵すると云う習性から、筆者が創作した。


●サンショウクイ

 スズメ目サンショウクイ科の夏鳥。一部留鳥。高木の高い場所に止まることが多く、低木に止まることも巣の材料を集めたり採餌する時などに限られ、地上に降りることはほとんどないと云う。

 ちなみに、このトリは虫食性では喰わない。啼き声が「ピリリリリ」と聞こえることがあり、「山椒は小粒でピリリと辛い」の語に掛けて、この名がついたと云う。


●宗教の腐敗について

 本段では室町期の臨済宗の堕落について書いたが、この時代の宗教の腐敗はなにも臨済宗だけに限ったことではない。最たるは比叡山延暦寺で、鎌倉期末頃から祠堂銭を都の富家などから集め、それを支配下にあった洛中の酒屋・土倉に預け、いまで云う闇金まがいの高利貸しをさせて悪どく儲けていたのはよく知られたところ。

 また、比叡山の所謂「山徒」と呼ばれる僧兵は、対立する他宗の仏閣をよく焼討したので、庶民から畏怖されると共にひどく恨まれてもいた。

 比叡山の僧と法華門徒が宗論を闘わせた所謂「松本問答」を発端として起った「天文法華の乱」では、山徒が都の七口を抑え、逃げ場を失った法華門徒と激突、下京全域が灰燼と化した。その被害は応仁の乱での被害を上回ったと云う。



◆参考文献

 叶内拓哉・安部直哉・上田秀雄『山渓ハンディ図鑑7 新版 日本の野鳥』山と渓谷社 2016年

 槇野修 著、山折哲雄 監修『京都の寺社505を歩く(上)——洛東・洛北(東域)・洛中編』PHP新書 2010年

 水上勉『一休』中公文庫 1978年

 五来重『先祖供養と墓』角川選書 1992年

 脇田修/脇田晴子『物語 京都の歴史——花の都の二千年』中公新書 2010年

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