【第十九】※筆者註

※関心のない方は読み飛ばして【第二十】へ——


●鳥歌合番付

 本編「巻二」の底本『鳥歌合』では、登場禽物(登場人物)それぞれの個禽名(個人名)について、判者のウグイスに「判者はんじゃ菅原朝臣梅園黄鶯すがはらあそんばいゑんくわうあう」とあるだけで、あとはしゅの名が付されているのみである。そのため本編では、『鴉鷺物語』と種が重複するトリに関しては、原則同一禽物(同一人物)として利用し、あとは筆者が名づけることとした(※判者についても『鴉鷺物語』のウグイス「梅原好声」とする)。

 ただ、『鴉鷺物語』に登場するトリはオスばかりで、雌ドリについては、シトドにかろうじて「巫女鵐みこしとど」という、個禽名ともいえぬような名が付されているのみで、あとは「かの姫」や「乳母めのと」などと呼ばれるばかりである。このままではあまりにオトコ臭くむさくるしい物語になりそうなので、『鳥歌合』にのみ登場するトリについては、なるだけメスとするよう


鶺鴒せきれいの一宮淡路いちのみやのあわじ

 底本『鴉鷺物語』のなかで、セキレイは「鶺鴒せきれい」として見られるのみである。そのため、ここでは筆者が新たに雌流歌禽めんりゅうかきんとして創作した。

 セキレイは「国産み神話」でイザナギとイザナミに性交の仕方を伝えたとされる。イザナギとイザナミを祀る「伊弉諾いざなぎ神宮」は淡路一宮なので、そこから「女房三十六歌仙」のひとり「一宮紀伊」を模して、この名とした。


●詩歌同人誌『ほとゝぎ’S』

 詩歌同人『ほとゝぎ’S』の同人誌。俳句雑誌とは関係ない。編集長は弧雲禅師だが、サークルの実質的リーダーは同人名誉顧問の比叡山の定覚上人。かれはこの同人のパトロンであり出資者スポンサーでもある。同人メンバーは主に郭公家、猛禽、一部の水禽(特に潜禽)のセレブ。


●ゲーリー・グッドリッジ

 PRIDEの「門番」、もしくは「番人」。トリニダード・トバゴ出身の元総合格闘家、アームレスリング世界チャンピオン。腕に「剛力」のタトゥーがある。

 とくにホトトギスのイメージがあるわけではない。


山鳥赤染やまどりのあかぞめ長尾女ながおのむすめ

 『鴉鷺物語』には「山鳥判官やまどりのほうがん赤染長尾あかぞめながお」の名が見える。ヤマドリの羽の色から女流歌人・赤染衛門あかぞめえもんになぞらえた姓になっており、せっかくだから女頭領として登場させるするつもりだったが、「長尾」という名が邪魔になった(※ヤマドリのメスは尾が短い)。それでも多少力業ながら、「赤染あかぞめ長尾ながおのむすめ」として女性化させた。


鶉沙弥尼うずらのしゃみに

 『鴉鷺物語』に「鶉九郎うずらのくろう犬養いぬかい両行もろゆき」の名がある。底本には、とくに註は付されていないが、「犬養」はウズラ狩りにちなんだ姓だろう。「両行」はなにに掛かっているのかつかめなかった。

 はじめ「巻二・鳥歌合」では、このまま雄流おんりゅう歌禽かきんとして利用するつもりだったが、沙弥尼の「うづらりにし里の秋萩を…」の歌を偶然知り、ピンと来て「鶉沙弥尼」とした。「沙弥尼」は、一般名詞では「まだ具足戒を受けていない女性」(『広辞苑』第七版)とあり、「プロフィール」に反映させた。


雁金大納言かりがねのだいなごん苅田朝臣かりたのあそん持文もちぶみ

 『鴉鷺物語』にも名がある。底本ではおそらく「マガン」として設定しているものと思われる。広辞苑にも「雁金(雁が音)」は「①ガンの鳴き声。転じてガンのこと(後略)」としてある。しかし、「カリガネ」というガンカモ科のトリも実在する。マガンに似るがくちばしが短く、からだも一回り以上小さい。本作では名のほうに従い、あえてこの「カリガネ」を雁金大納言と設定する。

 「郵便事業」は、前漢の名臣「蘇武そぶ」が匈奴に捕われ永らく抑留された際、「かり」に手紙をつけて消息を報せた故事からの連想。底本にもある「持文」の名もこの故事に因む。


鳰近江におのおうみ

 名は「鳰の海(琵琶湖の別称)」から発想して、「女房三十六歌仙」で国の名を女房名とした「伊勢」や「相模」を模した。

 「フィジークの選手」としたのは相変わらずの悪ノリだが、渡りのまえに消化器官を発達させて吸収効率を上げ、いざ渡りがはじまる段になると消化器官を縮小し、そのぶん筋肉が増強される——というカイツブリの身体的特徴から発想した。「ボディビル」でなく「フィジーク」としたのは、女性競技者の割合が多いという筆者個人のイメージによる。趣味を「ダイビング」にしたのは、もちろんカイツブリの習性からである。


●いずれも小さき渉禽の眷属

 チドリもシギもチドリ目。

 底本に登場するチドリは名がなく、「千鳥足」から連想して「造酒司」の設定を付し、「浜千鳥」に因んで筆者が「浜次」と名をつけた。一応、シロチドリを想定している。シギに関しては、「鴫矢次郎田辺朝臣秋沢」の名が底本にある。これは西行の和歌、「鴫立つ沢の秋の夕暮れ」に因んだ名だと思われる。詠まれたのが神奈川県の大磯らしく、そこから本作ではイソシギを想定している。



◆参考文献

 木下勝俊『鳥歌合』風々齋文庫(Kindle版) 2018年

 叶内拓哉・安部直哉・上田秀雄『山渓ハンディ図鑑7 新版 日本の野鳥』山と渓谷社 2016年

 松原始『カラスは飼えるか』新潮文庫 2023年

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