【第十三】※筆者註

※関心のない方は読み飛ばして【第十三】へ——


●「臭いぞクソ漏らし…」

 冬若丸が兼門勘太郎を罵って云ったセリフ。

 【第十一】とその「※筆者註」でくりかえし述べたとおり、鳥類の排泄は総排出腔から糞尿取り混ぜてなされるため、この場合、「臭いぞ尿漏らし!」と云うのが正しい。

 これも先述したことだが、トリには歯がない。そのため呑み込んだ食べ物は、まずそのまま「嗉嚢そのう」に送られる。嗉嚢は一時的な貯蔵庫で、食べ物はここで柔らかくなる。つぎに食べ物は胃に入る。トリの胃は「前胃ぜんい」と「砂嚢さのう」に分かれている。前胃はヒトの胃と似た器官で塩酸などを含んだ胃液を分泌し、食べ物の消化を行う。砂嚢は所謂「砂肝」のことで、これは強靭な胃壁でできていて、一部のトリはここに小石を呑み込み、硬い食べ物を粉砕している。

 トリの腸は吸収効率が高く、哺乳類よりも短い。トリの体は空を飛ぶため、徹底的な軽量化が図られている。腸が短いのも、食べた物をできる限り早く排泄して、体重を軽く保つためである。トリの排泄物に未消化のものが混じっていることが多いのはこのためである。


●「葬礼の作法と申せば風葬が常でございまシタ」

 カラスどもを弁護するため、逢坂山のニワトリが発したセリフ。

 民俗学者の五来重氏は、「死者に対してあまり手を加えない風葬と水葬を」「自然葬法と呼んで」いるとのこと。これに対して、「火葬」や「たいへん手間のかかる」「古墳といわれる高塚の墳墓」などを「文化葬法」と呼ぶ。というて、高塚の墳墓に屍者を葬るまえにおこなわれる「殯」は風葬と変わりない。それにまた「文化葬法」が「自然葬法」より優れているということでもない。

 与論島では「昭和三十年代まで、風葬の一種である樹上葬が残っていたといわれる」。当時を知る島民の「(死者を)土に埋めることは、犬や猫じゃあるまいし、亡くなった父や母に対してたいへん申し訳ない」というコトバがある。愛犬家や愛猫家には反感を持たれるかも知れないが、このコトバにふしぎと共感を憶えるのは筆者だけだろうか——?


●西は化野あだしの、東は鳥辺野とりべの、北は蓮台野れんだいの

 京都の三大葬送地。

 鳥辺野の入り口にある珍皇寺には、小野おののたかむらが冥界を行き来するのに使った井戸があり、そのためこの寺の門前は六道の辻と呼ばれている。

 蓮台野は、現在の京都市上京区にある「千本せんぼん閻魔えんまどう」こと、引接寺いんじょうじのある辺りの地名。小野篁が建てた「閻魔堂」という小堂を、寛仁年間(1017~21)に定覚というお坊さんが寺にしたのが現在の引接寺だという。地名の由来は、この定覚が大念仏をおこなったところ、蓮の花が化生けしょうしたことから、この名がついたという。


●「鶏家けいけの御先祖はキサリ(竜頭)持ち(…)雁氏がんじハハキ(箒)持ち(…)カラスどもの御先祖は宍人者ししびとを務め…」

 漏刻博士が、やはりカラスの弁護のため語った、『日本書紀』にあるアメワカヒコの殯葬におけるトリたちの役割を述べたセリフより。

 『日本書紀』「神代巻」にある。詳しくいうと、「持傾頭者きさりもち及び持帚者ははきもち」は「川雁」の為した役割である。ただ本段では、「かけを以て持傾頭者と為し、川雁を以て持帚者と為す」という、「一に曰く」とある異聞から採用した。カラスについても「一に云う」の「烏を以て宍人者と為し」という異聞から採っている。

 この「一に云う」には、ほかにも「そびを以て尸者ものまいと為し、雀を以て舂女つきめと為し、鷦鷯さざきを以て哭者なきめと為し、とびを以て造綿者わたつくりと為し…」とあり、アメワカヒコの殯にそれぞれ関わっている。「キサリ」は「葬式道具の龍頭たつがしらに当たるもので、これに四本幡しほんばたのようなものを下げ」「霊魂を招き寄せる」のだそうだ。「ほうき(箒)」は「霊魂に対する防衛的な意味」で立てる。

 「鴗」とはカワセミの異称で、「尸者」は「イタコとか巫女に当たる」。

 「舂女」は米を搗くおんなのことで、「人が死んだら大急ぎで米をついて、三合の枕飯を炊く」役割の者をいう。

 「鷦鷯」はミソサザイの古称——このトリが担った「哭者」は「泣女」のことで、石川県能登地方には太平洋戦争ごろまでこの風習が残っていたという。「お金次第で泣き方が違ったよう」だ。また「韓国では、今でも泣き女を付けた葬式を」するそうだ。

 これらは五来重氏の『先祖供養と墓』に書かれてあることだが、鵄の担った「造綿者」については「よくわかりません」との由。「霊を祭るための布を幣帛へいはくという場合があり」それを作る者だと考えられるという。



◆参考文献

 陳湘静・林大利『鳥類学が教えてくれる「鳥」の秘密事典』(今泉忠明 監修、牧高光里 訳)SBクリエイティブ株式会社 2023年

 高橋繁行『土葬の村』講談社現代新書 2021年

 五来重『先祖供養と墓』角川選書 1992年

 脇田修/脇田晴子『物語 京都の歴史——花の都の二千年』中公新書 2010年

 

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