第31話 真莉のマルチタスク

 コラボ配信が始まった。


 今回の主役である瑞稀が主導権を握って、メンバーを紹介していく。


「どうもー。瑞稀でーす。今回は上野ダンジョンにヴァンパイア・ロードを狩りに来ているのですがー、なんとDライブ・ユニットのお二方、要さんと秀仁さんと電撃コラボすることになりましたー」


「どうもー要でーす」


「秀仁だ。よろしくな」


 要と秀仁がベテランらしく落ち着いた態度で挨拶する。



 ・瑞稀ちゃん、こんちはー

 ・うおっ。要と秀仁!?

 ・えらい大物が来たな。

 ・この2人が電撃コラボって珍しいな。

 ・こいつらは鉄鬼旅団の配信を荒らしたカス共

 ・いや、あれは鉄鬼旅団が悪い



「皆さん、驚いているようですねー。ですが、今回はこれだけではありませんよー。今、勢いのある新人配信者、本城真莉さんと駒沢天音さん。このお2人ともコラボしちゃいまーす」


「真莉でーす」


「天音と申します」



 ・真莉ちゃんキタァー

 ・真莉ちゃん、今日もギャルだ

 ・天音ちゃん、こんちはー

 ・天音ちゃんは今日も礼儀正しい

 ・この5人がコラボとか胸熱

 ・この5人まとめるの大変そう

 ・ごった煮感溢れる面子だなw



「そして攻略ガイドのクマさんにも引率してもらいます」



 ・クマさんキタァー

 ・このクマを見に来たw

 ・クマさんの攻略ガイドは参考になる



 瑞稀がコラボメンバーを紹介している間、悟はマップでダンジョン内の探索者の動向を見ていた。


 今のところ特に不審な動きをしている探索者はいない。


(蓮也が何か工作している形跡はない。今回の仕込みはこの2人だけで終わりか)


 前回の鉄鬼旅団は十中八九、蓮也の仕込みだ。


 悟はそう気づいていた。


 細かいやり取りは不明だが、鉄鬼旅団にダンジョン配信で炎上する行為、他配信者の戦闘中に乱入をさせて再生数を稼ぐことを同意させた。


 鉄鬼旅団の場合は、裏でのやり取りだからあのような無茶苦茶な行為がまかり通ったのだ。


 正式なコラボ相手にあのような行為をするとは考えにくい。


 先ほどの瑞稀とのやり取りからして、瑞稀が何かしら仕掛けてくるとも考えにくい。


(となると、本当に真莉・天音とコラボしたくて来たということか。コラボしただけで炎上すると思っている?)


 いずれにしてもそこまで深い考えがあるわけではなさそうだ。


(となれば、あとは真莉と天音がこの2人にダンジョン探索の実力で勝てるかどうかだな。頼むぞ2人とも)


 悟は真莉と天音の方をチラリと見る。


「では、早速、行きましょう!」


「「「「おおー」」」」


 瑞稀が先頭に立って墓地を進む。


 5人とクマは見かけ上一致団結してダンジョンを進んだ。




 上野ダンジョンは見渡す限り墓標が広がるダンジョンだ。


 空は夕暮れの薄暗がる時が永遠に続いていて、紫とオレンジが混ざり合った不気味な空模様はこの世の終わりを想起させる。


「ダンジョン開始時でのヴァンパイア・ロードの遭遇には気を付けてください。聖力が低い状態で遭遇するといきなり詰みます。おっと。早速、先に進んでいた探索者が遭遇したみたいですね」


 少し先の方で紫色の波動が迸っている。


 悟のマップから先を進んでいた探索者の反応が消える。


「瀕死になったようです。ヴァンパイア・ロードが去るまでしばらく待ちましょう」


 6人はその場に足踏みして、ヴァンパイア・ロードが行き先から離れるのを待った。


 だが、このダンジョンでは進むのを止めると、すぐにモンスターが現れる。


 墓標が倒れたかと思うと、地中からゾンビが現れる。


 さらには、どこからともなく一つ目の狼が現れて、襲ってきた。


 敵襲に全員鋭く反応する。


 それぞれ自分のスキルが活かせそうな敵を選んで、戦い始める。


 秀仁は錬金術用のハンマーを地面に振り下ろした。


「むんっ」


 正面の地面が砕けたかと思うと、剣山のように盛り上がってゾンビ達を串刺しにする。


 倒したゾンビ達からは薬草がドロップされた。


 これが秀仁の得意技、〈地砕針ちさいしん〉である。


 雑魚敵を一気に倒せるため、掃討戦時に効率のいいスキルだった。


 特に素材アイテムをドロップする雑魚敵であれば、錬金術も捗るため一石二鳥である。


 緻密さと集中力の求められる技だが、その分成功した時の見返りは大きい。


 ゾンビ10体を倒して、薬草3つを手に入れた。


(ゾンビ10体で薬草3つか。まあまあだな)


「ゾンビ1体を倒して、薬草3つ手に入れたよー」


 真莉の明るい声が聞こえてくる。


(なにっ!?)


 秀仁が目を向けると、確かに真莉の傍には一体のゾンビが倒れている。


 手には3つの薬草が持たれている。


(ゾンビ一体で薬草3つだと? このドロップ効率、運勢のステータスか!)


 真莉はドローンに向かって愛想を振り撒いている。


「ねぇねぇ。これって凄くなーい?」



 ・すごいよー

 ・真莉ちゃん、偉い!

 ・いきなりレアゾンビ引き当ててワロタw

 ・流石真莉ちゃん。今日も豪運だね

 ・効率よすぎやろ



(ふ。だが、モンスターは俺の方が多く倒している。貢献度では俺の方が上だな)


 秀仁はそんなことを考えながら、必ず真莉の鼻っ柱をへし折ってやろうと心に決めるのであった。




 一つ目狼に対しては要と天音が対応していた。


「いくぜっ」


 要は10本の指すべてに巻きつけた鎖を一つ目狼に放つ。


 鎖は蛇のように伸びていき、障害物の墓標を潜り抜けて敵に絡みつく。


 素早さの高い一つ目狼でもかわしきることはできない。


 瞬く間に3体の一つ目狼を配下に加えた。


「いよっし。一つ目狼、3体ゲット!」


 要が得意とするのは、複数モンスターのテイムと遠隔操作リモートコントロール


 複数のモンスターを広範囲において使役することにかけて要に敵う者はいなかった。


(一つ目狼は状態異常の解除アイテムの素材をドロップする。遠隔操作リモートコントロールすれば更なるアイテムの獲得も可能! これで天音ちゃんに一歩リードだな)


「ねぇねぇ。天音ちゃん。見なよ、これ。いきなり一つ目狼テイムしちゃったぜ。ん?」


「皆様、早速、3匹の一つ目狼を狩ることができました」


 天音は要を無視して、ドローンに話しかける。


 天音はフェンリルを召喚して、一つ目狼にあたらせていた。


 フェンリルはその大口に3匹の一つ目狼を咥えている。


「一つ目狼の目玉や牙は、状態異常を解除する薬の素材になります。祓魔師エクソシスト瑞稀さんをサポートするために必須です」



 ・流石天音ちゃん。

 ・安定のフェンリル先輩!

 ・召喚スピード速っ



(なんだ。天音ちゃんもちょうど3匹捕まえてたか。ま、いいや。テイムした分俺の方がポイント稼いでるでしょ)


 要はそう考えて悦に浸るのであった。


「ヴァンパイア・ロードが立ち去ったみたいだ。今のうちに進もう。みんな気を付けてね。ヴァンパイア・ロードの通った後には、吸血コウモリが出現するよ」


 悟達はダンジョンの先へと進んだ。




 6人が周囲を警戒しながら進んでいると、薬草がたくさん生えている地帯にたどり着いた。


 〈毒消し草〉、〈しびれとり花〉、〈火傷剥がしの根〉、〈癒しの葉〉、〈呪い消しの蔓〉。


 秀仁と真莉の出番だ。


 2人は早速、錬金術に取りかかる。


 秀仁が薬草を吟味していると、〈混沌石〉が転がっているのが目に入る。


(〈混沌石〉か……)


 秀仁は一瞬、目を止めたがすぐにそっぽを向いた。


 〈混沌石〉は少ない魔力でレアなアイテムを引き当てられる可能性もあるが、ハズレを引いて魔力の無駄遣いになることも多い。


(今回のターゲットは〈万能薬〉。関係のないアイテムは無視だ)


「わー。〈混沌石〉だ。叩いちゃお」


「は!?」


 真莉は〈混沌石〉を叩く。


 すると、〈錬成鍋〉が錬成された。



 ――――――――――――――――――――

 〈錬成鍋〉

 ――――――――――――――――――――

 材料を入れるだけで自動で錬成してくれる鍋

 。

 アイテムボックスに入れた状態でも錬成し続

 けることができる。

 ダンジョンから出た時、錬成鍋は普通の鍋に

 変わる。

 ――――――――――――――――――――



「わーい。〈錬成鍋〉ができたよー。これで薬草を大量生産できるね」


(こいつ。当たりを引いたからいいものを。ハズレだったらどうする気だ)


 秀仁は拳をワナワナ震わせながらどうにか怒りを抑える。


 あとで必ずドヤしてやろうと心の中で決めながら、先へ進もうとするが、それではすまなかった。


「よーし。それじゃあもう一回いってみよう。この鍋に〈混沌石〉を入れてみるよ」


「は!?」


 真莉は〈混沌石〉を鍋に放り込んで蓋をする。


 すると自動で鍋の内部で錬成反応が起こり始める。


(おいおい。せっかく引いた錬成鍋をそんな風に使っていいのか? このダンジョンで必要なのは状態異常を解除するアイテムだぞ?)


 錬成鍋は魔力なしで錬成することができる一方、通常より錬成に時間がかかった。


 その間、鍋は使えない。


「みんな! 戦闘準備だ」


 敵の接近に気付いた悟が、警戒を促した。


「バジリスクが近づいてる」


「「!!」」


「材料採取と錬成急いで!」


 悟もそう言いながら、近くの薬草を手当たり次第掴み取り始める。


 バジリスクの吐く息に当たると、毒状態か麻痺状態、火傷のいずれかになる。


 その上、火の息も吐くので薬草を焼き尽くされかねない。


(ほれ見ろ。言わんこっちゃない。〈混沌石〉なんて錬成してる場合じゃないんだよ)


 秀仁は内心で舌打ちをしながら急いで〈痺れ取り花〉を3つ摘んで錬成し始める。


 毒と麻痺、火傷のすべてを防ぐことはできそうにない。


 ならば、麻痺だけでも防ごうというわけだった。


「おっと、バジリスクが近づいて来たようです。〈毒消し薬〉、〈痺れ取り薬〉と〈火傷剥がし薬〉全部一気に錬成しちゃうよー」


 真莉は〈毒消し草〉、〈しびれとり花〉、〈火傷剥がしの根〉を同時に叩いた。


(何ぃ?)


 秀仁は仰天する。


「おい、ふざけるなよ。3つ以上の錬金術を同時にだと? そんなことできるわけないだろ」


 しかし、そんな秀仁の注意を他所に真莉の叩いた薬草は、すべて錬金術によって薬効のある部分が分解され、擦り合わされ、薬になっていく。


 時間と範囲を間違えれば台無しになる緻密な作業を3つ同時にこなしてみせる。


 真莉がドローンの方に目をやるとコメントが来ている。


「えっ? サボってる? サボってませんー。ちゃんと真面目に錬成してますー」


「おい、まさかコメントに返事しながら、錬金術をするつもりか? 暴発したらどうする気……うっ」


 真莉が秀仁に向かってハンマーを振りかぶったかと思うと、秀仁の脚に噛みつこうとしている吸血コウモリを叩いて払った。


「危ないよ? ちゃんと足下警戒しないと。人に説教する前にまずは自分のことに集中したら?」


(こいつ、錬金術とコメントを見ながら、俺の足下も警戒していたのか。なんて視野の広さだ……。一体どれだけマルチタスクできるんだ?)


 結局、真莉の方が先に〈毒消し薬〉、〈痺れ取り薬〉、〈火傷剥がし薬〉を錬成し、バジリスクを迎撃した。

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