第27話 レスバトル
配信を終えた蓮也は、上機嫌で自宅へと帰った。
鼻歌を歌いながらシャワーを浴びる。
今日は久しぶりに何もかも上手くいった日だった。
榛名も炎上させたし、鉄鬼旅団も上手く転がして炎上商法からDライブ・ユニットの売名も成功した。
マイナスの炎上もプラスの炎上も上手くいったというわけだった。
いつもならパソコンの前に齧り付いてせっせとネット工作している時間帯だが、今日はエゴサや自演よりも入浴や飲酒を優先して、いつになくゆったりとした余暇の過ごし方をする。
(さて、今日の配信はどのくらい伸びてるかな? そして榛名はどのくらい登録者落ちてるかな?)
蓮也はワインのボトル片手にパソコンの前に座った。
ダンジョン配信専門サイトDストリームのランキングページを開く。
「…………えっ!?」
総合1位に榛名のチャンネル。
そして2〜8位にいつもの大手配信チャンネルが名を連ねており、9位に真莉のチャンネル、10位に天音のチャンネルが載っていた。
11位から20位にはあまり見ないチャンネルが名を連ねる。
そこからさらにだいぶ下にいって、51位になるとようやくDライブ・ユニットがランキングされている。
(なんでディーライがこんなに低いんだ? いや、それよりも榛名がなぜこんな上位にいる? 榛名は炎上中のはず)
首を傾げた蓮也は、Dちゃんねるまとめサイトを巡回してみた。
すると以下のようなタイトルがヘッドラインに並んでいる。
・今日の榛名の配信wwwwww
・炎上前榛名「登録者70万人」炎上後榛名「登録者100万人」←これwwwwwwwww
・ディーライ信者「榛名はディーライにつきまとうな!」→夕方「榛名とディーライ、ホントは仲良い。アンチは対立煽りするな!」
・榛名「炎上したけど登録者100万人到達しました! みんなありがと ☆(ゝω・)vキャピ」←蓮也ブチギレwwwwww
(どういうことだ? なぜ俺が煽られている? いや、それよりも榛名の炎上がおさまっている!?)
蓮也が昨日爆弾を投下した匿名掲示板の該当スレッドにいくと、荒れた雰囲気はすっかり消え、本日の配信について和気藹々と語るレスが多く付いていた。
(何やってんだよこいつら。勝手に炎上終わらせてんじゃねーよ)
蓮也はワインボトルを片付け、代わりにエナジードリンクを机に山積みしてネット工作を開始した。
・お前らこんな女のどこがいいの? 榛名はディーライのメンバー全員とセフレになりたがってる色情狂だぜ?
蓮也がこのようにレスすると、一瞬スレッドの流れが止まる。
が、すぐに再開した。
・榛名とディーライの炎上ってプロレスじゃないの?
・それ思った。榛名とディーライ、本当は仲良いよね
・つか、そもそも榛名とディーライの件ってソースとかあんの?
・ないよ。騙されてんのは、情弱ディーライ信者と頭おかしい榛名アンチだけ
・蓮也が匂わせツイしてたんだっけ?
・榛名によると付き纏ってるのは蓮也の方らしいけどな
・ワイは榛名の方を信じるで!
・ワイも榛名の味方や
・榛名のネガキャンはちょっと自演くさい
・炎上系配信者と可愛い女子高生。どちらの味方するかなんて考えるまでもないやろw
・今日の榛名たんめちゃカワやった
・千鶴とのコラボよかったよな。もっとコラボして欲しいわ
・いやいやいや。榛名のあのキレ方は図星付かれた時のそれやろ。お前ら女のヒステリー信じるとか童貞か?
・榛名のキレ方はともかく、最近のディーライはなぁ
・ちょっと見てられないよね。メンバーは面白いと思ってんのかなあれで
・企画やる奴変わったらしいな
・最近どころか、割と昔から怪しかっただろ。変なところで企画意図理解してなかったり
・にわか乙。ディーライが昔おかしかったのは、機密漏洩した裏切り者がいたからだから
・そもそも機密漏洩する時点でおかしいやろ。どんな管理しとんねん
・だからそれも雪代悟が悪いんだって。
・ひどかったよな。悟の悪行の数々。あいつのせいで配信だけじゃなく、社内もだいぶ引っ掻き回されたわ
・なんや君、随分内部事情に詳しいな
・ディーライ内部の人かな?w
・内部の人チィーッスwww
・俺はディーライの人間じゃねーよ。中立だ。雪代が機密漏洩してたことくらいニュース見てれば分かるだろ情弱どもが!
・ふーん。それで君は何ライブ・ユニットのメンバーなん? Dか? Dか? それともDか?
・まーた内部情報流出してんのかディーライは
・裏切り者まだおるやんw
・もう終わりやねこの箱
蓮也は煽り返そうとして、キーボードに文字を打ち込もうとしたが、思い止まった。
これ以上脊髄反射でレスを続けると、流石に色々バレてしまうかもしれない。
まとめサイトでまとめられればいらぬ憶測を呼んでしまう恐れもある。
仕方なく別の方向から攻めることにした。
榛名ファンを叩くスレッドを作成する。
榛名のファンになるのは恥ずかしいことだという風潮を作るのだ。
・榛名のファン、流石にキモくね?
・ディーライへの嫌がらせ擁護したのは流石に引いたわ
・どうせおっさんだろ。いい歳こいて女子高生追っかけてるキモいおっさん
・うっわ。キッツ
・悪いところは悪いってきっちり言うのが本当のファンだよな
蓮也は複数IDを駆使して上記のようなレスを投稿し、流れを誘導しようとした。
が、思い通りにはいかなかった。
・なんやずいぶん必死やな君達
・榛名のアンチ必死すぎやろw
・女子高生なんだから色恋沙汰くらい大目に見てやれよ。榛名はワイらの電気代安くしてくれてんねんで
・昨日から榛名アンチの工作露骨すぎやろ。まあ、ちょっと落ち着けよw
・榛名の人気に嫉妬するのはわかるで。わかるけど……、まあちょっと落ち着けよw
・ディーライのファンも大概やろw
・ディーライファン冷えてるかー?w
・ディーライファンは榛名の同接超えてから文句言おうな?
・涙拭けよディーライファンw
・やめたれw
・榛名1人でディーライ倒して偉いやん
・榛名の配信はおっさんだけじゃなく女も見てるで。ソースペター
蓮也は深夜3時まで複数IDによる工作を続けたが、結局、榛名を叩く流れには持っていくことができなかった。
そればかりかディーライのメンバーが榛名のスレを荒らしている疑惑が湧いてしまう。
「クソが!」
蓮也はキーボードに両拳を叩きつけた。
机の上には空になったエナジードリンクの缶が10本以上転がって山になっている。
目はすっかり赤く充血していた。
(ダンJ民どもが。犯罪者予備軍の分際で俺のレスに逆らいやがって)
仕方なく、一連の荒らしが由紀であることを仄めかすレスを大量に投稿しておくに留めた。
・それよりもこの榛名って娘。若いだけで別に可愛くないよね
・それ思った。由紀さんの方が100倍可愛いよね
・由紀より榛名選んでる奴、童貞だよな
これらのレスをわざとID切り替えせずに投稿した。
すると狙い通りダンJ民は食いついてきた。
・本人かな?
・ID切り替えミスってんぞw
・まさかの本人降臨www
・無理すんなよババアw
・見損なったぞ由紀君
・私は由紀じゃありません。勝手に決めつけないでください。
・てことは、由紀やな
・やめたれw
・いや、流石にこれはおっさんやろw
・いや、流石にこれはおっさんやろ(震え声)
その後、ダンJ民は一連のレスが由紀本人によるものか由紀ファンによるものか、あるいは愉快犯によるものかで論争する流れになった。
蓮也の
しかし、蓮也の興奮はおさまらなかった。
目を赤く充血させて画面を見つめ続ける。
自分より人気の配信者が苦しんでいないと気が済まなかった。
(女子高生の配信を見てるロリコンのクズどもが。正義のために戦っている俺の邪魔ばかりしやがって。今に見ていろよ。榛名、必ず潰してやるぞ。だが、どうする?)
榛名ファンの忠誠心が固い以上、炎上させればさせるほど、荒らせば荒らすほど、榛名のチャンネル登録者数は減るどころか増える一方だった。
蓮也は足を組み、腕を組んで貧乏ゆすりしながら必死で考える。
(何か。何かいい方法はないのか)
爪を噛みながらブツブツ言っていると、頭の中に真莉と天音の姿が浮かんできた。
(そうだ。あの2人。榛名の友人に違いない。あの2人。まずはあの2人を叩いてみるのはどうだろうか?)
将を射るにはまず馬から。
まだ配信者として未熟なあの2人を潰すことで間接的に榛名に打撃を与えられるかもしれない。
蓮也は頭を高速回転させて、真莉と天音を燃やす方策について知恵を巡らせた。
こういう時、蓮也の頭は冴え渡るのだ。
彼が考えるのをやめて床についた時、時計の針は深夜の4時を優に越えていた。
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