第30話 それぞれの思惑

「ちょっとどういうことですか」


 悟は菊花騎士団の村木に抗議していた。


「話が違うじゃないですか。今回はウチとそちらのコラボという話だったでしょう? なんでディーライの2人がいるんですか」


 悟が真莉と天音を連れて、菊花騎士団のメンバーと最後の打ち合わせをしようとダンジョン前に集まった時、しれっと要と秀仁が加わってきた。


 そういうわけで悟は現在、菊花騎士団のマネージャー村木に抗議しているというわけである。


「そんなこと言われましても。うちにも付き合いというものがありまして」


「攻略プランはこちらに任せてくれるという約束だったでしょう? あの2人が加わったら、せっかく立てたプランが台無しになるじゃないですか」


「今回のコラボ、当初はディーライの方々とやる予定だったんですよ」


「!?」


「ところが、先方が条件を出してきて。そちらの真莉さんと天音さんが参加してくれるならコラボしてやってもいいと言われて……」


(どういうことだ? 蓮也の奴、真莉・天音と要・秀仁をコラボさせるなんて。何を考えているんだ?)


「というか、雪代さんとディーライってまだ揉めてるんですか? てっきり和解したと思ったから、今回のコラボに至ったと思ってたんですが」


「そういう問題じゃ……」


「ちょっと! いつまで揉めてんのよ!」


 今度は菊花騎士団の祓魔師エクソシスト鈴蘭瑞稀すずらんみずきが苛立った様子で悟に抗議してきた。


「攻略プランまでそっちの提案に合わせてるんだから、コラボの1人や2人増えるくらい我慢しなさいよ」


「こっちにも事情があるんだ。少し待っていてもらえるかな」


「ならもういいわ。コラボしたくないっていうんなら、真莉と天音は帰ってくれる? 私は要・秀仁と潜るから」


「それは困るな」


 秀仁が割り込んできた。


「今回のコラボはあの2人が来ると聞いたから、俺達も参加することにしたんだ。あの2人がコラボしないというなら、俺達も帰らせてもらう」


「はあ? 何それ。あんたら私とコラボしたいから声かけてきたんじゃないの?」


「まあまあ、落ち着いて瑞稀」


 村木が割り込んで瑞稀を宥める。


 要はそんな村木の様子を見て苦笑する。


(ったく、蓮也の奴も無茶振りしてくれるぜ。こんな風に強引にコラボ企画ねじ込むなんてよ)


 まさか登録者数70万人の自分がこんな飛び込み営業紛いのことをさせられるとは。


(ま、しのごの言ってらんねーか。榛名の勢いが凄い今、確かにこれ以上悟を野放しにはできねーよな)


「悟、そうカリカリすんなよ。瑞稀ちゃんが困ってんじゃん」


「なんだと?」


「もう、SNSで告知しちゃったんだろ? 瑞稀ちゃんとコラボするって。ここで撤回したら瑞稀ちゃんが体面を損ねることになるぜ」


「君達とコラボするつもりはない」


「はぁ? 俺らだって引くつもりはねーよ? もう告知しちまったしよ」


 要はTwiXツウィックスを見せる。


 そこには要と秀仁が菊花騎士団と電撃コラボする旨の呟き、そして瑞稀によるリツウィックスといいねを済ませて承認している様まで映っていた。


 すでに先手を打たれていたようだ。


「ちょっと、雪代さん。困りますよ。事を荒立ててもらっちゃ」


 村木が2人の間に入る。


「うちだってDライブ・ユニットさんとの付き合いがあるんですから。ここは穏便に事を運んでくださいよ。これを機に仲直りすればいいじゃありませんか。ねっ?」


「そうそう。みんなで仲良くすればいいんだよ。な、瑞稀ちゃん?」


「私は……別にコラボできればなんでもいいわよ」


「ま、成り行きでこうなっちまったもんは仕方ない。お互い昔のことは水に流して仲良くしようぜ」


 要は悟の胸元を拳でポンと小突こづく。


 悟はこれ以上話し合っても埒が明かないことを悟った。


 諦めて、真莉と天音の元に説得にいく。


「どういうことですか、悟さん」


「なぜ、あの2人がいるんです? まさかあの2人とコラボするつもりですか?」


「すまない。僕のミスだ。まさかこんな不意打ちみたいな形でコラボをねじ込んでくるとは。だが、これはチャンスでもある」


「チャンス?」


「あの2人は腐っても登録者数50万人を超えるチャンネルの持ち主だ。配信での集客を期待できる。つまりあの2人の配信を見ているリスナーをこちら側に引き寄せることができるかもしれない。これはディーライに直接打撃を与えるチャンスだ」


「「!!」」


「それにたとえあの2人が加わるとしても当面の目標に変わりはない。瑞稀とコラボして100万再生を狙う。そして瑞稀のチャンネルを伸ばして蓮也に圧迫をかける。幸い、菊花側はこちらの攻略プランに合わせると明言してくれている。こちらのペースに巻き込めば、あの2人がいても充分再生数は稼げるはずだ」


「蓮也は何が狙いなんですか?」


「わからない。おそらくあの2人を使ってなんらかのくさびを僕らに打ち込むつもりなのだろう。だが、そう簡単に僕らの絆を壊せると思っているのなら大間違いだ。僕らの絆は蓮也のくだらない策略で崩せるほどやわじゃない」


「「……」」


「蓮也の策略を真正面から打ち破って、自分達の目標を達成しよう。それだけの力が君達にはあるはずだ」


 真莉と天音は顔を見合わせたあと、頷き合った。


「わかりました。やってみます」


「悟さんのプランを信じて、きっと配信を成功させてみせます」




「上野ダンジョンにはヴァンパイア・ロードが数体出没している。攻略の鍵は言うまでもなく祓魔師エクソシストのステータス、聖力だ」


 悟はドローンのプロジェクター機能で壁にマップを映しながら言った。


 階層化されたダンジョンの図面に移動するヴァンパイア・ロードの所在が示されている。


「ヴァンパイア・ロードを倒せるのは祓魔師エクソシストの聖力のみ。上野ダンジョン内でステータス聖力を得られるアイテムは主に2つ。〈聖なる十字架〉と〈聖火瓶〉。〈聖なる十字架〉はダンジョン内に点在している宝箱から取得できる。一方、〈聖火瓶〉は黒獅子くろししを倒さなければ取得できない。こう聞くと、〈聖なる十字架〉を急いで回収するのが上策に思えるがこれは罠だ。ダンジョン内にはアイテムに呪いを付与できるモンスター呪術師がいる。焦って〈聖なる十字架〉を回収しようとすると、宝箱にかけられた呪いを受けることになる。他にもダンジョンでは毒や麻痺などの状態異常を繰り出してくるモンスターが多数出現する。そのため状態異常を解除するアイテムやモンスターを手に入れる必要がある。そこで重要なのが錬金術師アルケミスト調教師テイマーの役割だ」


 悟はマップを切り換えた。


 状態異常を解除するアイテムの素材とモンスターを表示する。


「重点アイテムはここに映っている通りだ。これらの素材アイテムとモンスターを所定の階層に到達するまでに集めること。覚えておいて」


(ふむ。相変わらずわかりやすい説明だな)


 秀仁は悟の説明を久しぶりに聞いて感心した。


 ここ数週間、感じなかった安心感と懐かしさすら覚える。


「なんだよ。アイテム現地調達しなきゃいけないのか。じゃあ、枠空けとかないとな」


 要はアイテム枠を埋めていた装備を外した。


「村木さん。これ預かっといて」


「俺も頼む」


「あ、はい」


 村木は要と秀仁からアイテムを預かった。


(相変わらず何にも調べずに来てるんだな)


 悟は悟で2人の杜撰ずさんな準備に一種の懐かしさを覚えるのであった。


「よし。プランはこれでいいわね。それじゃ行くわよ」


 瑞稀が立ち上がって、先頭を切って歩いていく。


 瑞稀はここ数ヶ月、焦りを感じていた。


 瑞稀が配信者として登録者数を伸ばせたのはひとえにレアジョブ祓魔師エクソシストを使えるからだ。


 滅多に発現しないこのジョブのおかげで自分より登録者数の多い配信者と頻繁にコラボすることができた。


 この明確なアドバンテージを頼りに、登録者数15万人まで上り詰めた瑞稀だが、ここにきて再生数が頭打ちになっていた。


 登録者の伸びも著しく鈍化。


 同接数は明らかに減少していた。


 どうにか登録者数を維持しているものの、年度を重ねていくにつれ、新しく祓魔師エクソシストとして覚醒する新人配信者が参入してくる。


 このままでは収益低下から配信業の引退までありうる。


 そんな彼女にとってDライブ・ユニットとのコラボは願ってもないチャンスだった。


(大手配信者グループとのコラボ。自分の名前を売るチャンス。このコラボ、絶対に成功させるわよ)




「要。目的を忘れてないだろうな」


 秀仁が釘を刺すように言った。


「俺達の目的はあの2人を引き抜くこと。あまり、悟のペースに乗せられるなよ」


「分かってるって。せっかく悟が重要アイテムを教えてくれたんだ。真莉ちゃんと天音ちゃんより先にアイテムを取って、2人に貸しを作るぜ」


 こうして三者三様の思惑を持つ者達によるコラボ配信が幕を開けるのであった。




 ※追記

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 書き溜めが切れたので今後は隔日連載となります。

 今までよりお待たせしてしまうかもしれませんが、最低でも週1話は更新する予定です。

 今後ともよろしくお願いします。

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