第23話 蓮也への返答
駅で悟と別れた3人は、学校へ向かい授業を受けた。
慣れない早起きと朝練ですっかり頭は疲れていたので、授業の内容はまったく入ってこなかったが、どうにか昼休みまで乗り切る(榛名は普通に全授業眠ってしまい、先生に怒られた)。
(くぅー。どうにか乗り切ったぜ)
休み時間、榛名は背伸びして体を
(さてと昨日の私の動画どうなってるかな?
榛名はトレンドに自分の名前が載っているのに気付いた。
それも不穏なキーワードと一緒に。
「なんだこれ? 私が淫乱? ストーカー? 酷いトレンドだな」
調べるとすぐに当該スレッドと蓮也の例の呟き「最近、調子乗ってる女配信者、鬼電ウザすぎ。勘違いすんな」にたどり着いた。
さらに榛名のアカウントにもDライブ・ユニットのファンと
・あなたがディーライのメンバー全員に色目を使っているというのは本当ですか?
・蓮也さんに付き
・なんでディーライの配信を邪魔するんですか?(怒り)
(はあー? なんだこいつら。こんな根も葉もない噂を信じてんのか?)
榛名は即座に呟きで対抗した。
「私はストーカーなんかしていない。私に付き纏ってるのはお前だろ、蓮也!」
榛名がこの呟きを投稿すると、リプライが大量につく。
・てことは色目使ってるなのは本当なのかw
・とりあえず、年上を呼び捨てにするのはよくないと思いますよ
・やっぱ、蓮也が言ってたのってコイツだったんだな
・蓮也はお前の名前出してないだろ! マナー違反だぞ
・榛名ちゃん、その言い方はアカンで!
榛名のアカウントは炎上した。
「そのトレンドはおそらく蓮也が作ったものだろう」
昼休み、榛名、真莉、天音の3人は悟とテレビ電話をして会議していた。
議題はもちろん、榛名の炎上について。
「断言はできないが、まず間違いない。今回は蓮也に上手くやられたね」
「ちっ。
榛名は苛立ちを隠し切れない様子で言った。
「榛名。わかってると思うが、これは挑発だ。これ以上乗るなよ。蓮也の思う壺だぞ」
「わかってるよ。わかってるけどさぁ」
「どうにか炎上をおさめることはできないのでしょうか」
天音が懇願するように言った。
「今のところ、余計なことをしないのが1番の上策だね。この件については変にアクションを起こせば、また蓮也に逆手を取られる。今は、みんなが他の話題に向かうのを待つしかない」
「そう……ですか」
天音はシュンとする。
「そう落ち込まないで。別に榛名のチャンネルに致命的な傷がついたわけじゃない。これから取り戻せばいいだけさ」
「あんにゃろ。次、会ったらただじゃおかねーからな」
「榛名。今は、抑えろ。蓮也は陰険な人間だが、立ち回りと口の巧さ、演技力は本物だ。突っかかれば突っかかるほど、泥試合に持ち込まれる。挑発に乗らずに淡々と動画を投稿していこう」
榛名はなおも納得がいかなそうな顔をする。
「榛名、リーダーである君がこんなことで狼狽えていては、グループ全体が浮き足立つことになるぞ。ディーライを超える箱を作るんだろ? この程度の嫌がらせで台無しになってしまっていいのか?」
「……そうだな。悪い。熱くなってしまって」
「蓮也より登録者数と再生数を増やせば、いずれみんな忘れるさ。配信に集中していこう」
「ああ。わかったよ」
榛名はそう言いつつも
蓮也は榛名の投稿を引用して呟いていた。
「なんだコイツ。自意識過剰すぎんだろ」
この投稿により蓮也のアカウントも燃えたが榛名のアカウントはますます燃え盛る。
榛名は苛立ちを募らせずにはいられなかった。
放課後になった。
榛名、真莉、天音の3人は、迎えに来てくれた悟の車に乗って、ダンジョンへと向かう。
「榛名。今日は渋谷ダンジョンだ。企画書は見たかい?」
「ああ。『雷力で渋谷ダンジョンを制覇する配信』。回避値の高いリザードマンが多数いるダンジョンだから、火力値よりも雷力値を上げなければならない。燃費値も意味がないから、5階層までに雷力を50以上にしなければならない」
「雷力50じゃない。100だ」
「ん? あれ? そうだっけ? あ、本当だ」
「榛名。……大丈夫か?」
「大丈夫だって。ちょっと数字間違えただけじゃん」
(榛名、平気な顔をしているが、やはり気が立っているな。注意力が散漫になっている。普段はこういうの絶対に間違えないのに)
悟は渋谷ダンジョンのマップを見てみた。
ダンジョン内には探索者が100名ほどいる。
「今日は人が多いな」
そう呟くと、榛名の方に向き直った。
「榛名。今日は僕と一緒に入ろう」
「えっ?」
「ほんとは一緒に入るつもりなかったけど、どうもイレギュラーなことが起きそうだ。一緒に入ろう」
「う、うん。わかった」
「そういうわけですまない真莉、天音。今日はマップガイドのサポートなしでダンジョンに入ってくれ」
「分かりました」
「承知しました」
2人はすべてを察したかのように即座に同意した。
渋谷ダンジョンに着いた後も榛名はピリピリした様子だった。
悟は車の中で手早く真莉と天音の企画を手直しして、2人のドローンにデータを送った。
探索範囲と企画規模を下方修正したものだ。
これなら悟のサポートなしでも、充分達成できる内容だろう。
その分、再生回数は減るかもしれないが。
「2人とも、データを送っておいた。この内容なら僕のサポートなしでも十分こなせるはずだ」
悟はそう言うと、俯いた。
「済まない。2人ともこれからって時に……」
「全然大丈夫ですよ」
「悟さん、今、攻撃を受けているのは榛名なんですから、榛名のことを助けてあげてください」
「天音……」
「悟さん、榛名のことよろしくお願いします。強い子だけど、気を張り過ぎるところがあるから。いつも威風堂々としているのに、今日はずっとピリピリしていて。今の榛名に一番必要なのは、悟さんのサポートなんだと思います」
「真莉」
(榛名はいい仲間を持ったな)
「2人ともありがとう。必ず榛名のことを守り切ってみせる。命に代えても」
榛名と悟はダンジョンに入った。
が、榛名の表情はまだ固いままだった。
今期の渋谷ダンジョンは、洞窟風のダンジョン。
ジメジメした陰気な雰囲気が、探索者の暗い気分をより重くさせる。
榛名はドローンを起動させて配信を始めた。
「あー、えっと。榛名です。配信始めます。今日は渋谷ダンジョンに来ています」
・キター
・待ってました
・ん? なんか表情固い? どしたん?
・蓮也との件じゃね?
・バカ。言うなよ
(ぐっ。やっぱみんな知ってるか)
榛名は蓮也の名前についつい反応してしまう。
(蓮也も見てんのかな?)
「蓮也も見てるかもな」
悟が榛名の心の内を見透かしたように言った。
「えっ?」
「蓮也のファンも見てるかもしれない。蓮也の見てる前で、堂々とリスナーを奪ってやれ」
そう言うと、榛名の瞳に光が宿り、煌々と輝き出した。
蓮也への怒りをダンジョン攻略に転化させる。
リザードマンが現れた。
二足歩行の巨大なトカゲは、剣を取り出し、襲いかかってくる。
(見ていろ蓮也。これがお前に対する私の答えだ!)
榛名はゴブリンに最大火力を叩き込む。
燃費値もMPに変えて、全て注ぎ込んだ最大火力だ。
ゴブリンは消し炭となった。
・榛名たん!?
・うおっ。いきなり最大火力か
・どうしたんだいったい?
「ふー」
深く息を吐いた後、榛名はいつも通りの榛名に戻っていた。
晴々とした瞳をカメラと悟に向ける。
(いつもの榛名に戻った。それでいい。君はどんな相手にも正々堂々と戦うのが一番だ)
「みんな。ごめん。今日はいつもよりちょっと熱くなるかも」
そう言った後、すぐにハッとする。
「どうしよう悟。こんなところでMP全部使っちゃった」
(冷静さも取り戻したな)
「よし。それじゃ、プラン変更だ。こっちのルートに苦戦している人がいる。助けて、魔力も分けてもらおう」
※追記
昨日はコメント欄にて様々なご意見いただきありがとうございました。
なろうの方で「クズ度がどうこうより、主人公がやられても適度にやり返さないのがフラストレーションなんじゃ?」といった声があって、確かに作者的にも主人公がやられっぱなしで倍返ししないのが問題なように思えてきました。
なので、悪役のクズ度は据え置きで、今後は悪役の自滅を待つだけでなく、主人公の方から積極的に報復していく、具体的には悪役のリスナーをゴリゴリ奪っていく方針でいこうかなと思います。
いろいろ至らない点はあるかと思いますが、今後ともよろしくお願いします。
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