第24話 回避値と〈雷弾〉
今期の渋谷ダンジョンにはリザードマンというトカゲ型モンスターが徘徊していた。
リザードマン自体はそこまで火力に弱いというわけではないが、ダンジョンの至る場所に燃費の獲得できる〈魔力炉〉が落ちており、ダンジョンニュースでは火力系魔法を取得できる装備を推奨していた。
だが、悟はそれを罠だと考えていた。
ダンジョンの至る場所に回避値をあげるアイテム〈
リザードマンが〈
どれだけ燃費と火力を上げても〈炎弾〉をかわされては意味がない。
そうして案の定、ダンジョンの罠にはまっている探索者が1人。
「ハァハァ。くっ」
腕から流れた血をもう片方の手で庇いながら、リザードマンと対峙している。
(くっ。どうなってるんだ?)
千鶴は配信者に憧れる永良高校の女子高生。
今期の渋谷ダンジョンでは、リザードマンが徘徊しており、〈魔装銃〉を持って、〈魔力炉〉をいち早く取得することさえできれば楽勝というのが各種サイトでの情報だったが……。
(話が違うじゃないか)
学校帰りにダンジョンに寄って、ダンジョンの入場の列にいち速く並ぶことができ、首尾よく〈魔力炉〉を手に入れることができたのだが……。
目の前のリザードマンはどれだけ〈炎弾〉を浴びせてもすべて回避してしまう。
まるで何か見えない力が働いて、〈炎弾〉が発射される前に弾道から体をずらしているかのようだった。
逆にリザードマンの斬撃はすべて千鶴にダメージを与えている。
(もう回復薬がない)
腕に攻撃を受けてしまったせいでもはや銃を構えることもできなくなっている。
リザードマンは剣を突きの構えをしながら接近してくる。
(くっ。やられる)
致命傷を負っても生命維持装置が発動して一命を取り留めることはできる。
だが、公共のカプセル回収サービスを利用することになるので10万円を支払わなければならない。
学生にとって10万円の出費は痛すぎた。
とても自分のお小遣いで支払える額ではない。
恥ずかしいが、両親に土下座して肩代わりしてもらうしかない。
千鶴は目をつぶったが、その時雷のような爆音が響き渡った。
千鶴がおそるおそる目を開けると、リザードマンが雷撃を受けてもがき苦しんでいる。
やがて、リザードマンは消滅して〈魔力炉〉をドロップした。
(〈重雷弾〉? いったい誰が……)
「大丈夫か?」
声の方を見ると、艶やかな黒髪、凛々しい瞳の美少女が語りかけてきた。
有名配信者、坂下榛名だ。
(うそ。もしかして榛名? やば。好き。かっこいい。サイン欲しい)
「大丈夫か?」
榛名はもう一度聞いた。
「はい。大丈夫です」
「腕を怪我してるじゃないか」
「あ、これはさっきリザードマンに斬りつけられて。でも大したことはないです」
「ちょっと魔力に困ってるんだ。回復薬をあげるから、一緒にコラボしてくれないかな?」
「えっ!? そんなの……いいんですか?」
(回復薬ももらえて、榛名とコラボできるなんて。メリットしかないじゃん)
「ああ、君の力が必要なんだ」
「はい。喜んで」
「私は坂下榛名。よろしくな」
「伊東千鶴と申します。よろしくお願いします」
「話はついたみたいだね」
榛名の後ろから悟が現れる。
千鶴はそれを見て、ギョッとした。
(この人って雪代悟!? 元ディーライの……)
「あの。この人ってディーライを裏切った人じゃ」
「ああ、その件、悟は悪くないんだ。だから君は気にしなくていいよ」
榛名はウィンクした。
それだけで、千鶴はときめいてしまう。
「わかりました。気にしません」
悟は榛名の言うことはあっさり聞く千鶴に複雑な気分にならずにはいられなかった。
(凄いな。これが有名配信者のオーラか。有無を言わさぬ説得力)
「オホン。それじゃあ、これからのことだけど……」
悟は仕切り直すように咳払いをして、喋り始める。
「千鶴もおそらくさっきの戦闘で感じたと思うけど、このダンジョンのリザードマンには、回避値の高い個体がいる」
「えっ!? そうなんですか?」
「うん。〈陽炎の護符〉を所持しているリザードマンがいるんだ。回避値を著しく上げるアイテムだから、どれだけ〈炎弾〉を放っても当たることはない。このマップを見てくれ」
悟はダンジョン内のマップを表示した。
「ガンナーが回避値の高いリザードマンを倒すには、雷力値とスキル〈雷弾〉を入手する必要がある。雷力値を手に入れられるアイテム〈発電機〉をドロップする可能性のあるリザードマンの分布はこんな感じ」
悟がマップを操作して、該当するリザードマンにピンを立てる。
どのリザードマンが〈発電機〉をドロップするのか一目瞭然だった。
「〈発電機〉を手に入れるまでは、なるべく回避値の低いリザードマンを倒した方がいい。だからこのルートを通っていくのが一番だと思う」
悟がルートを線で示した。
「最初のうちは魔力のある千鶴が〈発電機〉を扱うのがいいだろう。魔力を補充するまで榛名は千鶴が〈雷弾〉を撃ちやすいよう囮になるんだ」
千鶴はまた眉を顰めた。
(何言ってるのこの人。回避値の高いリザードマン? 雷力? そんなのダンジョンニュースには書いてなかったけど……)
「どうかな?」
「オッケー。それでいこう」
「あ、はい。私もそれでいいです」
千鶴は榛名が即採用したのを見て、自分も追従した。
「よし。それじゃあ、2人のドローンにルートをインストールするよ」
悟は2人のドローンにルートデータをインストールした。
2機のドローンはすぐにデータに沿って、2人をガイドし始める。
再び3人の行手にリザードマンが現れた。
通路の先の部屋で何かを探すようにキョロキョロしながら徘徊している。
先ほど苦戦した千鶴はつい緊張に体を強張らせてしまう。
「まだだよ」
悟がそっと千鶴の肩に触れて制止する。
「榛名がアイツを引きつけるまで待つんだ」
榛名はリザードマンに向かって先ほどのリザードマンの持っていた短剣を投げ付けた。
リザードマンが榛名に気付いて襲いかかってくる。
榛名は切れ込むような鋭い動きで一瞬で高く盛り上がった岩の上にジャンプした。
リザードマンはつい榛名の動きに目を奪われてしまう。
榛名が銃を構えたのでますます釘付けになる。
(すご。これが榛名の〈
榛名の動きをいつも動画で見ていた千鶴だが、生で見ると改めて凄まじい動きだった。
「今だ!」
悟に肩を押されて、千鶴は隙だらけのリザードマンに〈炎弾〉を放つ。
リザードマンは〈炎弾〉の連射にあえなく倒れた。
(倒せた。初めてモンスターを倒せた)
「よし。よくやったよ千鶴」
「ドロップアイテムはっと…………。ありゃ。ハズレか」
榛名は〈回復薬小〉を拾いながら言った。
その後も3人はダンジョン内を進んでいった。
榛名が囮の動きをして、千鶴が仕留める。
そうして3体目のリザードマンを倒すと、ついに〈発電機〉が手に入った。
(本当に〈発電機〉がドロップした)
千鶴は、電力を発する機械の入った瓶、〈発電機〉をアイテムに登録する。
――――――――――――――――――――
〈発電機〉
――――――――――――――――――――
レア度:B
雷力 :+50
――――――――――――――――――――
このアイテムを登録した者はスキル〈雷弾〉を
取得する。
ダンジョンから出た時、〈発電機〉は消滅す
る。
余剰の雷力値は〈雷黄石小〉に変わる。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
〈雷弾〉
――――――――――――――――――――
攻撃力 :雷力値
消費MP:10
――――――――――――――――――――
稲妻迸る弾丸。
このスキルは回避値でかわすことができない。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
【伊東千鶴】
ジョブ:ガンナー
HP :50/10sp
MP :50/10sp
敏捷 :30(×2)/10sp
火力 :130/10sp
燃費 :50/10sp
雷力 :+50(NEW!)
【アイテム】
〈魔装銃〉(メイン装備)
〈エア・シューズ〉(メイン装備)
〈魔力炉〉×1
〈発電機〉×1(NEW!)
【スキル】
〈炎弾〉
〈
〈雷弾〉(NEW!)
――――――――――――――――――――
「さあ、ここからは千鶴。君に戦ってもらうよ」
「は、はい」
「頼んだぜ」
回避値の高いリザードマンに遭遇する。
先ほどはどれだけ〈炎弾〉を放ってもかわされていた。
しかし、今は……。
(〈雷弾〉があるっ)
千鶴の銃の先から稲妻のような弾丸が飛び出した。
リザードマンは回避ステータスを発動して、咄嗟に身を翻して高速回避するも、弾丸からはじけた稲妻はそんなリザードマンにすらダメージを与える。
「ギッ」
リザードマンは黒焦げになって消滅する。
後には〈陽炎の護符〉と〈発電機〉をドロップした。
あと一つ部屋を抜ければ、魔素の充満している部屋に辿り着けそうだった。
だが、その前には5体ものリザードマンがいる。
(うう。5体もいるよ。〈雷弾〉1発に必要なMPは10だからギリギリ1発足りない)
悟はどうすべきかすぐに見出したが、あえて言わず、情報だけ提示してみることにした。
榛名がどう出るか見てみたかったからだ。
「榛名、千鶴、あの中に3体回避値の高い個体がいるよ」
「3体か」
榛名は少し思案した後、千鶴に耳打ちした。
「千鶴。今回はこれを使おう。アイテム〈重雷弾〉」
榛名が先ほど道中で拾った〈重雷弾〉を手に持つ。
――――――――――――――――――――
〈重雷弾〉
――――――――――――――――――――
レア度 :B
使用回数:1回
――――――――――――――――――――
雷撃を発する爆弾。
半径5メートル以内に雷力50のダメージを負
わせる。
――――――――――――――――――――
「私がこれであいつらの数を減らすから、残りを千鶴が仕留めてくれ」
「う、うん。わかった」
いい傾向だな、と悟は思った。
榛名が人を使うことを覚え始めている。
この配信は思いの
榛名はリザードマン達の前に躍り出て短剣を投げつけた。
案の定、リザードマン達は榛名に向かって一斉に駆け寄る。
榛名は〈
そうして狭い通路に誘き寄せたところで、榛名はリザードマンの群れに〈重雷弾〉を投げ込む。
範囲ダメージを与える〈重雷弾〉によって複数のリザードマンは同時にダメージを受けた。
1匹だけ、ダメージを逃れ榛名の乗っている壁を這って登り、榛名の方に詰め寄せてくる。
「千鶴、頼む!」
「はいっ!」
千鶴は壁登るリザードマンに向かって〈雷弾〉を放った。
あえなく残っていた1体のリザードマンも消滅する。
「ナイス。千鶴」
「はい」
2人はハイタッチする。
コメント欄は2人の連携への称賛で溢れかえった。
千鶴は夢みたいな気分だった。
憧れの榛名と一緒に戦っている。
そうして複数体のリザードマンを倒した3人は5階層、魔素の多い部屋までたどり着いた。
(こんなに上手くいくなんて。5階層まで来れたの初めて)
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