第25話 ステータスの節約

 榛名と千鶴は魔素からMPを補充する。


「よし。魔力の補充完了。これでようやく私も〈雷弾〉を撃てる!」


 ついでに〈魔力炉〉を1つ手に入れて、燃費値も加算されていた。


 そうして態勢を立て直した榛名だったが、悟の表情は険しかった。


 榛名のステータスを見てみる。



――――――――――――――――――――

【坂下榛名】のステータス変動

 最初 :500

 現在 :580

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(ここまでのステータス変動は計+80。10階層までに強化率100%まで持っていくにはあと+420分の強化アイテムが必要だ)


 そしてさらに10階層に辿り着くまでにMPを50消費する目算だった。


 そうなれば、合計で+470分のステータス加算が必要になってくる。


「〈マッピング〉」


 悟は5階層以降のマップ情報を確認してみた。


 5階層以降は回避値が高いだけでなく、炎を吐くフレイム・リザードマン、氷を吐くブリザード・リザードマンも現れる。


 それぞれのHPは80〜90。


 一撃で倒すには雷力100が必要だ。


 当初の予定では、5階層までに榛名の雷力は100になっている予定だったが、千鶴と50ずつ分散する羽目になってしまった。


 どのように補給しながら、ステータスを強化していくか。


 そして分散した雷力をどのように運営していくか。


(5階層以下では、すでに〈魔力炉〉も〈発電機〉も他の探索者にほとんど採り尽くされている。となれば、これしかない。〈陽炎の護符〉)


 〈陽炎の護符〉は回避値を上げるアイテム。


 回避値は文字通り敵の攻撃を回避できるステータス。


 ただし、回避値が発動すれば、受ける予定だったダメージ分、回避値も削られる。


 逆にいえば、ダメージを受けなければ、回避値は維持できる。


(なるべく回避値を貯めながらダンジョンを攻略していく。あとは榛名にどうやってこれを伝えるかだが……)


「悟。このあとどうする?」


「えっ?」


「予定通りの強化ができなかった。プランを変えなきゃだろ?」


(榛名の冷静さは消えてない。これならいけそうだな)


「よし。それじゃあここからの作戦を話すよ。少しルートとターゲットを変えようと思う」




 榛名と千鶴、悟の3人は、ジリジリと警戒しながら、ダンジョンを進んでいた。


 千鶴は悟からの説明を思い出しながら、ダンジョンを進む。



「すでに5階層で〈発電機〉と〈魔力炉〉は採り尽くされてしまった。雷力100以上の探索者が少なくとも3人はいる。彼らに今から追い付こうとするのは無理だ。そこで、ターゲットのアイテムを変えようと思う。ターゲットは〈陽炎の護符〉をドロップするリザードマン」



 岩陰から炎が瞬く。


 フレイム・リザードマンの火炎攻撃だった。


(相手に先手を取られた! この場合は……)



「リザードマンに先手を取られたら、迷わず〈雷弾〉だ」



(〈雷弾〉!)


 千鶴は〈雷弾〉を放った。


 飛んでくる炎が頬を掠めるが、HP1を削られるだけで済んだ。


 逆にフレイム・リザードマンは、〈雷弾〉をかわせない。


 雷撃のショックを受けている隙に、榛名が追撃弾を叩き込む。


 フレイム・リザードマンは消滅した。


 〈陽炎の護符〉をドロップする。


「よし。〈陽炎の護符〉一枚目!」


 榛名が〈陽炎の護符〉をアイテムボックスに登録した。



「〈陽炎の護符〉を手に入れたら、榛名が装備すること。そして回避値を維持するよう努める」



 次に現れたのは、ゴブリンだった。


「千鶴! 頼む」


「はい」


 榛名が囮の動きをして、千鶴が〈炎弾〉でゴブリンを倒す。


 榛名はゴブリンのドロップした〈魔石小〉と棍棒を回収する。



「リザードマン以外のモンスターが現れたら、千鶴の〈炎弾〉で倒す。燃費値のある千鶴なら、MPを消耗せずに倒すことができる。そしてもしリザードマンに対して先手を取れそうなら……」



 道の先に青いリザードマンが徘徊していた。


 榛名と千鶴は素早く目配せする。


((ブリザード・リザードマン! 先手を取れる!))


 榛名は棍棒を投げ付ける。


 棍棒はかわされるが、ブリザード・リザードマンは榛名の囮の動きに釣られて、冷気の弾丸を吐き出す。


 榛名は回避値を削がれないように〈空中遊歩エアリアル〉でかわす。


 そうして千鶴が榛名とリザードマンに対して90度の位置に陣取り、死角から〈炎弾〉を放つ。



「そしてもしリザードマンに対して先手を取れそうなら、榛名が引き付けて、千鶴の〈炎弾〉で敵の回避値を削るんだ。90度の角度を意識して。互いの弾丸に当たらないように、相手からは防ぎにくいような位置取りを意識して」



 榛名と千鶴は連携しながら、ブリザード・リザードマンの回避値を削っていく(回避値は効果を発揮するたびにダメージ分削られていく)。


 やがて千鶴の〈炎弾〉が直撃し、体勢を崩したところに榛名が〈炎弾〉でトドメを刺す。



「とにかく最優先は回避値を節約すること。次に相手の回避値をなるべくMPを消耗せずに削ること。この2つを意識して戦うんだ」



 ブリザード・リザードマンは〈陽炎の護符〉をドロップした。


(凄い。もう〈陽炎の護符〉2枚目。また、悟さんの言う通りになった)


(MP10消費で回避値200を獲得! さっすが悟。この強化効率なら余裕で間に合う!)


(2人ともいい感じだな。榛名は仲間を使う戦い方を覚えつつある。千鶴も上級者に合わせることで伸びるタイプだ。榛名の動きによくついていってる)


 そのうちに嬉しい誤算が起こった。


 競争相手だった3人の探索者、先に雷力100以上を達成した探索者達が脱落したり、足踏みしたりし始めたのだ。


 どうやら、回避値の高いリザードマンと低いリザードマンを見分けることができないため、MPを無駄遣いしたようだ。


 運よくキーアイテムを手に入れることはできたものの、このダンジョンの攻略方法の要点については理解していないようだった。


 榛名と千鶴が探索の先頭に立って、ダンジョンに残っていた〈発電機〉と〈魔力炉〉に先着することができた。


 10階層の目前には、〈陽炎の護符〉6つ、〈発電機〉2つ、〈魔力炉〉1つ、MP400分の魔石を新しく手に入れていた。



――――――――――――――――――――

【坂下榛名】のステータス変動

 初期値:500

 現在値:1430

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【伊東千鶴】のステータス変動

 初期値:160

 現在値:890

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(榛名も千鶴も余裕で強化率100%以上! これでDストリームのアルゴリズム要件はクリアした)




 そして3人は10階層のボスの間にたどり着く。


「この先にいるのは、リザードマン・キング。HP500で回避値も150。おまけに広範囲攻撃を仕掛けてくる。でも、大丈夫。2人はすでに自分よりも回避値とHPの高い相手との戦い方を身に付けているはずだ。自信を持って行っておいで」


「「はい!」」


 榛名と千鶴は扉を開けて、ボスの間へと侵入した。


 普通のリザードマンよりも2回りは大きいリザードマンが天井から降り立ち、開口一番、その大口から複数の〈炎弾〉を放ってくる。


((敵に先手を取られたら、〈雷弾〉から!!))


 榛名と千鶴は〈雷弾〉を放ち、リザードマン・キングとステータス消費を分け合った後は、二手に分かれて撹乱する。


 敵の攻撃を回避しながら、〈雷弾〉と〈炎弾〉を使い分けて攻撃した。


 〈炎弾〉で回避値を削りながら、攻撃を受けそうになったら、〈雷弾〉で敵の動きを止める。


 2人は危なげなく、リザードマン・キングを倒し切る。


 リザードマン・キングを倒した後には大量の魔石と、〈蜥蜴とかげの王冠〉、そして地上への転移魔法陣が残った。




(うわ、すっごい数のコメント。登録者数も1万人超えてるし、再生数も10万超えそう)


 千鶴は自身のチャンネルを見て、信じられない思いだった。


 昨日まで再生数100いけば大成功だった自分のチャンネルが凄まじい勢いで伸びまくってる。


 残念ながら、回避値を削られたのと、火力値・燃費値をMPに回さなければならなかったため、強化率100%を維持することはできなかったが、それでもダンジョン内の資源を上手く使っていたことと、10階層までいけたことで、Dストリームからの評価はかなり高く、おすすめ動画欄での表示順位はかなり高かった。


(それもこれも全部榛名とコラボできたおかげだ。それに……)


「千鶴お待たせ」


「あっ、悟さん」


「千鶴、榛名。これ君達の取り分だよ」


「サンキュー」


「すみません。配信どころか、アイテムの売却までお世話になって」


「いいよ。千鶴にはダンジョンでたくさん助けてもらったしね」


「そんな。私なんて。悟さんの指示に従うばかりで」


「ははは。初めてであれだけできれば充分だよ。榛名なんて最初は全然指示に従わなかったし」


「あ、なんだよそれ。ダンジョンでは私の火力に頼りきりのくせに」


 榛名は悟の肩をポコポコパンチする。


 馴れ合い程度のものだったが、千鶴にも2人の絆の深さが窺い知れた。


(悟さんのおかげでダンジョンクリアできたんだ)


「じゃあ、そろそろ僕らは行かなきゃいけないから。あ、そうだ」


 悟は名刺を取り出して、千鶴に渡す。


「一応渡しておくよ。もし、よかったらそこにあるアドレスに連絡入れといて。もし、またコラボとか頼みたくなったら、連絡させてもらうよ」


「コラボ楽しかったぜ千鶴。また、一緒に配信しような」


 千鶴は感激のあまり飛び上がってしまいそうだった。


「はい。ぜひ!」


「それじゃ、またね」


「またなー」


 2人は千鶴に手を振りながら、立ち去っていく。


(悟さん、優しくてかっこいい)

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