第22話 持ち味とチームワーク

「由紀が裏切っているだと? 一体どういうことだ? なぜそんなことを?」


「わからん。だが、確かなことだ」


 蓮也は昼間、要達に聞かせた話にちょっぴり味付けして阿武隈に話した。


 榛名のマネージャーが悟だったこと。


 榛名とその周辺にいる配信者達がディーライの配信企画と瓜二つのものを配信してPVを稼いでいること。


 由紀が妙に悟と親しげにしていたこと。


 これらの事実から由紀が悟のスパイとして行動し、ディーライを裏切っているに違いないと結論付ける。


 蓮也の話を聞いた阿武隈は、怒り心頭に発する。


「あの女狐がぁ。裏でそんなことやってたのかよ」


「クビにした方がいいんじゃないか?」


 蓮也がそう言うと、阿武隈は流石にたじろいだ。


「いや、それは流石に……証拠もなしにクビにするのは……ちょっとな。逆に何か証拠とかないのか?」


「俺も話を聞いただけだからなぁ。ただ、裏切っているのは間違いない」


「そうか。どうしたものか……」


 阿武隈は腕を組んで考え込んだ。


「社長の考えはわかった。とりあえずは俺も様子を見ておこう。ただ、由紀の言うことにはなるべく耳を傾けないようにしてくれ」


 それだけ伝えると、蓮也は社長宅を後にした。




 蓮也が自宅に辿り着いた時、時計の針はすでに12を越えていた。


 しかし、彼はまだ眠りにつかない。


 パソコンの前に座ると、匿名掲示板に複数のIDアカウントを駆使して投稿し始めた。


 Dライブ・ユニットの内部事情や機密情報、特に由紀の周辺に関する情報、由紀しか知らないはずの情報を重点的に投稿する。


 あるいは予約投稿する。


 いずれも由紀のファンとアンチに対する煽りを入れて、拡散されやすいようにする。


(とりあえずはこんなところか)


 そうしてようやく今日の活動を終えたかに思われたが、蓮也はすぐにまだ消すべき相手がいることを思い出した。


 坂下榛名。


 蓮也からのありがたき提案を無碍にして退けた唾棄すべき低脳女。


 あの女も消さなければ。


 蓮也はしばらくの間、じーっとパソコン画面を睨み付けたが、すぐにいい考えを思い付いてパソコンを操作し始める。


(榛名をヤリ◯ンということにしよう)


 そうして、榛名がディーライのメンバー複数に粉をかけていたことを仄めかす内容を投稿した。


 蓮也自身のSNSでも「最近、調子乗ってる女配信者、鬼電ウザすぎ。勘違いすんな」と投稿した。


 そして掲示板にリンクを貼り、すぐ様IDの切り替えを多用して、スレッドの流れを誘導する。


 ・どうしたんだ蓮也?

 ・珍しく気が立ってるな

 ・蓮也が言ってる女配信者って誰だ?

 ・あの思慮深い蓮也がキレるってことはよっぽどタチ悪いんだろうね

 ・最近、調子乗ってる女配信者といえば……榛名じゃね?

 ・いやいや、榛名はそんな鬼電とかするタイプじゃないだろ

 ・わからんぞ。配信中と素で性格が違うとかよくあるし

 ・そういや別スレでも榛名がディーライメンバー全員に粉かけてるって投稿があったな


 蓮也はこれらの書き込みをID切り替えを用いながらして、まるで複数人で会話しているかのように見せかけた。


 するとスレッドの住民は反応して、議論が始まる。


 蓮也の書き込みに賛同する派と反対する派に分かれたが、蓮也は反対する書き込みに対して、複数のIDを用い威圧的に反論することで、言論を誘導した。


 1つ榛名を擁護する書き込みがあれば、10個以上の反論レスが投稿される。


 そうしているうち、徐々に蓮也の書き込みに賛同する書き込みしかされなくなる。


 蓮也は自分以外のユーザーが賛同し始めたのを見て、ようやく自分の中に漂っていた靄が晴れていくのを感じた。


 布団に入って深い眠りにつく。




 榛名、真莉、天音の3人は朝5時に起きてダンジョンの前に集合していた。


「よーし。朝練だー」


「榛名、あんたなんでそんな元気なの」


 真莉は寝惚けまなこを擦りながら言った。


「この時間帯はまだ眠いですねぇ。ふぁ」


 天音もついあくびが漏れ出てしまう。


 昨日、ファミレスでDライブ・ユニットを超えることを誓い合った4人は、今後、放課後の配信に加えて朝練もすることにした。


 そこで早朝5時に集まったというわけである。


「なんだ2人ともだらしないぞ」


「榛名が元気すぎんのよ」


「みんな集まってるみたいだね」


「あっ、悟さん!」


 悟が現れると、真莉はそれまでの眠そうな表情から一転、すぐにいつもの明るい表情に戻った。


「おはよう。真莉、朝早いけど、辛くなかったかい?」


「もう、ぜんっぜん平気です。朝は超得意なんですよ私。悟さんの企画のためだったら、どれだけ朝早くでも駆けつけますから。なんならあと1、2時間早くてもいいくらいですよ」


 榛名は真莉の変わり身の速さに眉をしかめた。


「さて、それじゃあ朝練を始めようか。と言いたいところだけど、まずはこれを見てくれ」


 悟はドローンのプロジェクター機能でとある表を壁に映し出した。


 3人はまじまじと見つめる。



 ・100万再生以上のステータス合計

 スタート時  10階層到達時

 配信者A  30     130

 配信者B  120    240

 配信者C  200    450


 ・100万再生未満のステータス合計

 スタート時  10階層到達時

 配信者D  90     110

 配信者E  120    220

 配信者F  400    490



「これはとあるダンジョンで行われた配信のうちで、100万再生に到達した配信者と到達しなかった配信者のステータスを表にしたものだ。ダンジョンの性質、スタートした時間、SNSでの拡散度など諸条件は一緒だよ。どうかな? 何か気づくことはない?」


 3人は数字の羅列を前にして首を傾げた。


「ステータス合計130で100万再生の奴がいる一方で、合計490でも100万再生に達していない奴がいる?」


「スタート時点が重要なのかな?」


「けれどもスタートが120で同じなのに100万再生いく人といかない人がいますね。何が違うのでしょう?」


「逆に考えてみよう。100万再生以上と未満どちらも共通していることは何かある?」


 悟にそう言われて3人は共通点を探す。


「みんな最終的にステータス100を超えてる?」


「あと、みんな10階層まで到達してるー」


「みんなステータス100越えで10階層まで到達してるのに、100万再生いく人といかない人がいますね。どうしてでしょう?」


「うん。その通りだ。じゃあ、こうするとどうかな?」


 悟は少し手を加えた表を出す。



 ・100万再生以上の強化率

 配信者A  +333%

 配信者B  +100%

 配信者C  +125%


 ・100万再生未満の強化率

 配信者D  +22%

 配信者E  +83%

 配信者F  +22%



「ああ。わかった。100万再生以上の配信者はステータスが100%以上プラスになってる」


「逆に100万再生に届かなかった人は、100%未満の上昇率に留まっているということですね」


「そう。まさしくその通りだ。Dストリームはダンジョン探索者の育成と普及を目的にして作られたサイト。必然、なるべくダンジョン内の資源を上手く使う配信者、ステータス上昇幅の高い配信者の動画がおすすめ欄の上に来るようにアルゴリズムが組まれている」


「へー。そうだったんだ」


「あれ? でも、じゃあわざと低いステータスでダンジョンに入った方が簡単に再生数稼げるんじゃないですか?」


「そうでもない。高いステータスの方が強いモンスターと遭遇しても瀕死になる確率は低いし、アイテムの取得で先行しやすい」


「あ、そっか」


「あと、最終的な総合ステータスが100以上、10階層以上に到達するというのも重要な条件だ」


「そう考えると、初期ステータスはいたずらに高過ぎても低過ぎてもダメってことか」


「じゃあ、どのように初期ステータスを準備するのが最適なのでしょう?」


「そこでみんなに意識して欲しいのが、自分の初期ステータスと相性のいい強化アイテムを取得するということだ。例えば、高火力、高機動の榛名は火力効率・敏捷を上げるアイテム。錬金術で応用力、対応力の高い真莉は、錬成・素材回収効率を上げるアイテム。テイマーの天音は、モンスターの召喚効率を上げるアイテム。それぞれの持ち味をより活かし、役割に特化することでダンジョン探索効率も上がり、ステータスの上昇効率も上がるというわけだ」


「なるほどー」


「でも、そんなに都合よく自分と相性のいいアイテムを取得できるのでしょうか?」


「そのための〈マッピング〉さ。僕の〈マッピング〉でみんなと相性のいいアイテムの入手経路を特定し、その地図情報を基にダンジョン攻略と配信を企画・立案する」


「おおー。なるほど」


「凄ーい。頭いい」


「そこまで考えられていたとは。流石悟さん」


「3人と相性のいい強化アイテムの情報はすでに取得済みだ。それぞれのドローンに情報とルートを入れるから参照してみてくれ」


 3人はそれぞれに送られた地図データを見る。


 データには、初めはそれぞれバラバラにアイテムを収集して、その後、5階層の特定ポイントで集合し、10階層まで3人で力を合わせて行く、というルートが示されている。


 データの必要な情報を頭に入れた3人はダンジョンへと向かった。


「よし。それじゃあ行くぞみんな!」


「「おおー」」


 榛名の掛け声に真莉と天音が応えた。




 そうして意気揚々と入っていった3人だが、帰ってきた時にはすっかり疲労困憊していた。


「ううー。ただいまです。悟さん」


「おかえり。どうだった?」


「一応、10階層まではいけたんですが……」


「私と真莉はステータスを維持できませんでした」


「それだけじゃないって。2人ともたどり着くの遅すぎ」


「えー、だってー。榛名が速すぎるんだよー」


「申し訳ありません」


「真莉は錬金術するのに時間がかかるとして。天音はなんでこんなに時間かかってんだよ。フェンリルに乗れば、人間より足速いはずだろ?」


「うう。申し訳ありません。フェンリルさんが、通り過ぎたモンスターに反応して追いかけてしまううちに、トラップにはまってしまいました」


「真莉は敵との戦闘避けすぎ。余力あるのに私と天音に押し付けてただろ」


「あはは。バレた? いやー。リスナーのコメントがないとモチベあがんなくってさぁ」


(3人の課題はだいたい分かってきたな。真莉はモチベーションにムラがある。天音は柔軟さに欠けて、臨機応変な対応が苦手。榛名も早速、刺々とげとげしい態度が目立ってきた。こりゃ癇癪を起こすのも時間の問題だ。早めに軌道修正しておかないとな)


「榛名。そう、キツく当たるな。君も最初は似たようなもんだっただろ?」


「んー。まあ、そうだけど」


「そうめげることないよ2人とも。初めてにしては全然上出来だよ」


「わ、本当ですかぁ?」


 真莉はあっさり元気を取り戻して笑顔になった。


「うん。10階層にたどり着くだけでも、5年以上かかる人がほとんどだし。それを考えれば、2人とも十分だよ。あんまり気負いすぎずに頑張っていこう」


「よーし。じゃあ、明日も頑張っちゃお」


「きっと悟さんの期待に応えられるよう頑張ります」


「それじゃ反省会はここまでにして、悪かったところばかり見ても仕方がない。それぞれよかったところを見てみよう」


 悟は録画していた3人の探索シーンを再生した。


「まず、榛名。君の持ち味は何といっても速さだ。決断の速さ、始動スピードの速さ、見切りの速さ。6階層でのこの場面、素早くオーダーしていたところはよかったよ。見切りも指示出しも上手いんだから、もうちょっと仲間を使うことを意識していこう」


「おう」


「次に真莉。君の持ち味は対応力だ。変化への柔軟な対応力は不測の事態にも余裕を持って対処することができる。7階層のここで、ステータスを諦めてルートを切り替えたのはいい判断だったよ」


「はい」


「あともう少し戦闘に意欲を出せれば、ステータスの目標も達成できる。モチベーションを高める方法、一緒に探していこう」


「えへへ。頑張ります」


「最後に天音。君の持ち味は献身的なところ。ここでみんなのために自分を犠牲にしたのはいい判断だったよ」


「はい」


「君の思いやりの深さがみんなを救う場面は必ずやってくる。自信持っていこう」


「わかりました」


「3人とも今回の練習でダンジョンでの連携がいかに難しいかよくわかったと思う。練習を通して少しずつ意思疎通を深めていこう」


「「「はい」」」


 3人は学校への道すがら、悟から出された課題と持ち味を反芻してどうすれば自分の持ち味をチームのために活かせるか考えるのであった。




※追記

どうも。いつもお世話になっております。

最近、クズ描写が読んでて疲れるという感想をいくつかいただきましたので、少し方針転換しようと思っています。

もうすでに書き溜めた分については、そのまま投稿しますが、28話辺りからクズ描写控えめで糖分多めの方向性でいこうかと思っています。

色々至らぬところがあるかとは思いますが、よろしくお願いします。

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