第6話 蓮也の敗走
蓮也達は〈魔装銃〉のゴブリンを追いかけて路地裏に足を踏み入れていた。
逃げ回っていたゴブリンは、やがて路地裏の壁を背にして蓮也達に囲まれる。
足下には宝箱がある。
「ハァハァ。やっと追い詰めたぞ」
「手こずらせやがって」
だが、ゴブリンはニヤリと笑って宝箱から〈魔石〉と〈転移魔法陣〉を取り出し、床に敷く。
そして、魔法陣の上に足を置いて、光と共に姿を消した。
「なっ。消えた!?」
「くそっ。転移魔法まで使えるのかよ」
その時、後ろから魔法音と共に悲鳴が聞こえてきた。
後ろから付いてきた探索者達の悲鳴だ。
(まさか……罠!?)
先ほどのゴブリンは蓮也達を引きつける囮だった。
探索者達はまんまとゴブリンの陽動作戦に引っかかったのだ。
「ぎゃあああ」
「助けてっ」
「蓮也さん、助けてください」
やがて、襲われた一団が蓮也達の方に助けを求めて雪崩れ込んでくる。
一行は大混乱に陥った。
四方八方から魔法音が聞こえてくる。
ダンジョンの奥深くまで誘い込まれた彼らは、すでに包囲されていた。
今度は彼らの方が逃げ回る番である。
蓮也達とは別のルートで深層に到達した悟と榛名は、ゴブリン潜むゴーストタウンを前にしてステータスを再確認していた。
「ゴブリン15体とオーク5体討伐で火力310燃費250。素晴らしい強化効率だ。これほど短時間でここまで強化できたのはひとえに君の戦闘センスの賜物だよ」
「いやー。照れるなぁ」
「それはそうと榛名」
「ん?」
「いつまで遊んでる気だ?」
榛名は一瞬カエルのように顔を固まらせたかと思うと、不敵な笑みを浮かべた。
「バレたか」
「僕の目を誤魔化せると思ったか? 射撃精度も威力も不自然にバラバラだ。一体どういうつもりだ? 遊びでやってるんなら帰るぞ」
「そう。怖い顔すんなって。悟の腕が
「……」
「わかった。わかったって。こっからはちゃんと本気でいくから。機嫌直してよ。ねっ」
榛名が珍しく可愛い仕草をした。
腰を屈め、ウィンクしながら、顔の近くに手を添え、唇をすぼめて投げキッスするような仕草。
リスナーには榛名が腕を組んだクマさんに向かって可愛い仕草をしたように見える。
・榛名たんかわヨ。
・おい、クマさん、そこ代われ!
・クマさん裏山。
・流石にもう戻った方がええんちゃうか。ディーライも苦戦してるで。
悟はため息をついてから組んでいた腕を解く。
「まあいいや。〈マッピング〉。榛名、これを見ろ」
悟はゴブリンの位置とアイテムの位置を映した。
「ゴブリンがこの場所に誘い込みたがっているのが分かるか?」
「にゃるほど。ここに突っ込んだところで包囲しようってわけね」
「もうわかってると思うが、この階層のゴブリンは相当知能が高い。敵の誘いに乗ってはダメだ。こちらの有利な場所に誘い込むか。敵が逃げても追いかけない。もしくは……」
「瞬殺すればいい。だろ?」
物陰からゴブリンが飛び出してきた。
盾を構える仕草を見せたが、榛名はそれを許さず一瞬で頭を撃ち抜く。
威力、精度、射程、照準を合わせる速さ、魔力を練る速さ、いずれもこれまでとは桁外れだった。
ダンジョンを進んでいくと、物陰からゴブリンが飛び出して、魔法銃を放ってくる。
榛名は〈
まんまとやってきたゴブリンを即座に射撃する。
・出たー。榛名たんの高速バックステップからの射撃。
・いつもながら凄い身のこなしだなw
・今日の榛名たんはいつも以上に切れ味鋭いぜ。
・強化アイテム盛り盛りやからね。
・大人向けダンジョンでも全然いけるやん。
・新宿ダンジョン初挑戦で普通に通用するのは凄い。
・しかも深層。
・↑もうプロやん。
ダンジョンを進むとまたゴブリンが出てきた。
壁に隠れながら、〈炎弾〉を放ってくる。
今回は後ろに下がる動きを見せても、前に出てこない。
(誘いに乗ってこないな。それなら……)
榛名は敵としばらく撃ち合って、相手の魔力が切れるのを待った。
ゴブリンは榛名の火力に怯えて、無駄弾を撃ちまくる。
そしていよいよ魔力切れとなった。
敵の魔力切れを見て、榛名はここぞとばかりに距離を詰めようとする。
しかし、それがゴブリンの狙いだった。
ゴブリンは後方に隠しておいた魔石のところまで戻り、補給して、迎撃しようとする。
しかし、そこにはすでに悟が先回りしていた。
ゴブリンの隠していた魔石を押収している。
ゴブリンはギョッとする。
榛名は囮だったのだ。
「陽動はお前らだけの専売特許じゃないってことさ」
〈
ゴブリンの頭に当てられた銃口から火が吹く。
「榛名。魔石だ」
「おう。サンキュ」
榛名は悟の投げた魔石を受け取った。
・さっきからこのクマさん地味に凄くない?
・派手に凄いよ
・ダンジョン攻略ガチ勢の俺にはわかる。こいつ只者じゃない
・↑自称ガチ勢さんチィーッスwww
・一体何者なんだ。ゴクリ。
榛名と悟が好調に深層を進む頃、蓮也達はひたすらダンジョンを逃げ回っていた。
ゴブリンによる包囲からの遠距離射撃に対して防戦一方だった。
反撃しようにも距離を詰めれば逃げられる。
(ちいっ。魔法攻撃に囮作戦。どんだけずる賢いんだよ。この階層のゴブリン共は!)
「由紀。何してる。さっさと回復魔法をかけろ」
「やってるわよ。でも、自分の回復で精一杯!」
「大吉。ヒーラーが狙われてるだろ。ちゃんと
「分かっている。だが、こうも四方八方からかわるがわる攻撃を受けてはヘイト集めもままならんのだ」
「秀! なぜ遠距離武器を錬成しないんだ」
「もう弾切れだ。材料がない」
「要! テイムしたオークはどうしたんだ!」
「もうとっくにやられたよ」
(クソが。なんで誰も対策を用意してねーんだよ。こういう時、普段なら
蓮也は舌打ちせずにはいられなかった。
背後からまた悲鳴が聞こえてくる。
どうやらまた誰かがやられたらしい。
「ぎゃあああ」
「蓮也さん助けてください」
「やばいぜ蓮也」
要が蓮也に耳打ちする。
「このまま後ろの奴を庇ってたら、俺達まで全滅しちまう」
(ええい。どいつもこいつも使えない)
「もういい。逃げるぞ」
「後ろの奴はどうするんだ」
「知るか! ほっとけ!」
蓮也達は自分達についてきたフォロワーを見捨ててスタコラさっさと逃げ出した。
「ディーライの奴ら逃げていくぞ」
「俺達を見捨てるのか!?」
「見損なったぞ蓮也」
「ディーライの名声は地に堕ちたな!」
「ちくしょう。何が最強配信者だ。この程度の奴らだったとは」
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