第5話 魔法を使うゴブリン

 街角の店に入ると、今日もダンジョン配信を追いかけるのに夢中の若者達が会話しているのが聞こえてくる。


「新宿ダンジョンをガンナーの装備で潜ってる配信者がいるらしいよ」


「どこの命知らずだ。そいつ」


「それがさ。結構、好調に進んでるみたいなんだよね」


「マジ? どのチャンネル?」


「この榛名って配信者」


「すげ。同接数2000越えてるじゃん」


「まだ免許取ったばかりの女子高校生みたい」


「いったい何者なんだ?」




 榛名は3つ目の〈魔力炉〉を手に入れていた。


 ・〈魔力炉〉3つ目!?

 ・てことは……。


 〈魔封じの盾〉持つオークが通路の向こうから突進してくる。


 榛名は〈沼の魔法陣〉も〈空中遊歩(エアリアル)〉も使わず、炎弾を放った。


 アイテムボックスの中にある3つの〈魔力炉〉が運転してオレンジ色に瞬き、榛名の火力効率を高める。


 榛名は〈炎弾〉を放った。


 〈魔封じの盾〉は火力140未満の魔法を弾くことができる。


 逆にいえば、140以上の火力魔法を前にすると、耐え切れない。


 榛名の放った炎弾は、〈魔封じの盾〉を粉々に砕いた。


 そのまま、オークも倒してしまう。



――――――――――――――――――――

【坂下榛名】

 ジョブ:ガンナー

 HP :50/10sp

 MP :50/10sp

 敏捷 :70(×2)/10sp

 火力 :210/10sp

 燃費 :150/10sp


【アイテム】

 〈魔装銃〉(メイン装備)

 〈エア・シューズ〉(メイン装備)

 〈沼の魔法陣〉×2

 〈魔力炉〉×3

 〈グリフォンの羽〉×2


【スキル】

 〈炎弾〉

 〈空中遊歩(エアリアル)〉

――――――――――――――――――――



 ・うおお。オークを火力で圧倒したぁぁ。

 ・ゴブリン10体倒して火力210、MP50、燃費150!!

 ・強化効率良すぎんだろw

 ・最強火力のタイトルに偽りなし!

 ・こんにちは。初めてこのチャンネルに来たんですが凄いですね。どうすれば新宿ダンジョンでこんなに火力伸ばせるんですか?

 ・↑巻き戻して見ろ。

 ・↑10:24辺りやで


(榛名。腕を上げたな。射撃の精度、身のこなし、アイテムの使い方。いずれも出会った頃とは桁違いに向上している)


「あ、外した」


 榛名はなんでもないゴブリンに対して〈炎弾〉を外し、しかもMPを消耗した。


 悟はガクリと膝から崩れてしまう。


(まだ所々集中力の途切れる場面があるな)


「悟ー。魔力無駄撃ちしちゃったよー」


「しょうがない。ちょっと寄り道しよう。〈マッピング〉」


 悟が〈マッピング〉で近辺を調べると、魔素の多く充満している部屋があった。


「少し戻ったところに魔素の多く充満している部屋がある。そこで魔力を貯めよう」


「オッケー」


(流石は悟。クビになったっていうから心配してたけど。ガイド能力全然衰えてないじゃん)


 榛名は悟のサポート能力が衰えていないのを見て、嬉しくなるのであった。


 その後も悟と榛名は順調にダンジョンを進み、特定のゴブリンを倒し続け、〈魔力炉〉を獲得し続けた。


 悟は探索しながら、榛名の到達階層とステータスを彼女のSNSアカウントに投稿するのも忘れなかった。


 すると、即座に拡散され、同接数が伸びる。


 動画配信サイト、Dストリームのアルゴリズムも榛名のステータスと階層の上昇に反応して、榛名のライブ配信をトップページのより目立つ位置に掲載した。


 同接数は2500に達した。




 5体のオークが肩を並べ、地響きを立てながら、突進してくる。


 その巨体で細い通路を閉ざし、逃げ道はない。


 巨大な猪が鎧盾と剣を構え、道を塞ぎながら突っ込んでくるようなものだ。


 複数の重量級モンスターの突撃を阻むことのできる者などいない。


 誰しもそう考えそうな場面だった。


 だが、オーク達の前にふらりと1人の男が立ち塞がる。


 オーク達はその聖剣を持った革ジャンの男に一斉(いっせい)に斬りかかった。


 複数の刃をその身に受けて、男は平然と立っていた。


 逆に手に持った聖剣で反撃する。


「〈聖刃(ディバインブレード)〉」


 その男、蓮也の剣先から聖なる光の刃が迸(ほとばし)った。


 光の刃は、オーク達の盾と鎧を粉砕し、薙ぎ払う。


 ・スゲェェェエエ

 ・流石蓮也さん

 ・ディーライ最強! ディーライ最強!


 蓮也以外のメンバー、要や秀仁、由紀、大吉もそれぞれオークを倒していた。


 オークの大部隊は完膚なきまでに撃破されたのだ。


 悟と榛名のいる階層から少し先に進んだ場所、新宿ダンジョンの9階層で、Dライブ・ユニットのメンバーは、快進撃を続けていた。


 蓮也達の後ろからついてきた探索者達もDライブ・ユニットの力に息を呑む。


「流石蓮也だな。桁違いの威力だ」


「数いる聖騎士(パラディン)の中でも頭1つ抜けている」


「あれで回復スキルも持ってるんだから反則だよな」


「他のメンバーも蓮也と遜色ない実力だぜ」


「さすが、アイテムなしでダンジョン攻略できる唯一のグループと言われるだけのことはある」


 倒されたオークの後にはアイテムがドロップする。


 蓮也達はドロップしたアイテムの中から目当てのものを拾っていった。


「魔石と回復薬と……。おっ、〈土の宝珠〉みっけ」


 ――――――――――――――――――――

 〈土の宝珠〉

 ――――――――――――――――――――

 レア度:C

 腕力 :+20

 ――――――――――――――――――――

 このアイテムはダンジョンから出た時点で消滅

 する。

 ――――――――――――――――――――


「〈グリフォンの羽〉はどうする?」


「ほっとけ。このダンジョンでは意味がない」


 蓮也達は〈グリフォンの羽〉をその場に放置して通り過ぎる。


 すると後ろから付いてきた探索者達が我先にと群がり、アイテムを取り合う。


 先ほどからこの繰り返しだった。


 蓮也達が敵を撃破して、要らないアイテムを放置すると、後ろの者達がおこぼれに預かろうと群がる。


「浅ましい奴らだな」


 要がニヤニヤしながら蓮也と秀仁に耳打ちした。


「ふん。底辺探索者共にはお似合いさ」


「そう言ってやるなよ。俺達を慕って付いて来てくれてるんだからよ」


 そう言いつつも蓮也は、彼らの姿をカメラに映すのだけは忘れなかった。


 コメント欄では、キッズ達が画面に映った探索者達の意地汚さを詰(なじ)って、はしゃいだ。


(やはりこのダンジョンで俺達は最強! 誰も俺達を止めることはできない)


 ディーライのメンバーはその後も腕力強化のアイテムを重点的に拾っていった。


 やがて、メンバー全員オークを一撃で倒せるくらいに打撃力が強くなった。


 ・腕力強化に偏りすぎじゃないか?

 ・いいんだよオーク対策だから

 ・素人がなんか言ってら

 ・お前、ディーライより深層に潜れんの?

 ・ゴブリンは素早いぞ。大丈夫か?

 ・ゴブリンが素早いとかwww

 ・ゴブリンがオークより素早いとかwwwどこ情報すかwww

 ・にわかは黙って見とけ!

 ・ディーライ最強! ディーライ最強!


 10階層に到達した蓮也たちは、ダンジョンによってステータスが再登録された。



――――――――――――――――――――

【暁月蓮也】

 ジョブ:パラディン

 HP :100/100sp

 MP :100/100sp

 腕力 :100+90/100sp

 耐久 :100+30/100sp

 敏捷 :100/100sp

 回復 :100+30/100sp


【アイテム】

 〈聖剣〉(メイン装備)

 〈聖騎士の首飾り〉(メイン装備)

 〈ガントレット〉(メイン装備)

 〈聖騎士の手袋〉(メイン装備)

 〈土の宝珠〉×3

 〈回復薬小〉×3

――――――――――――――――――――



 総ステータス750!


 腕力に至っては単独で190!


 世界広しといえども、これほどステータスの高い聖騎士パラディンはそういない。


 おまけに各ステータスにsp100が登録されている。


 これでダンジョンの外に出て強化アイテムが消滅しても、全ステータス100までは持ち帰ることができる(総数にして600のステータスを持ち帰ることができる)。


 10階層には地上への転移魔法陣があったが、蓮也達はそれをスルーして先へと進む。


 自分達は15階層にいる〈魔剣持ちのゴブリン〉を狩りに来たのだ。


 ここで帰っては意味がない。


 後ろから付いてきたDライブ・ユニットの追従者達も蓮也達についてきた。


 そうして蓮也達はいよいよ11階層へと到達するのであった。


(これは……)


 11階層の景色はそれまでとはまったく異なるものだった。


 ゴーストタウン。


 そんな言葉が真っ先に思い浮かぶ。


 人気のない寂れた家がそこかしこで軒を連ねている。


「ずいぶん景色変わったねー」


「まあ、こっからは深層だからな」


「みんな気を付けろよ。どこから敵が飛び出してくるかわからんぞ」


「ぷっ。気を付けろってお前、マップ情報忘れたの? こっからはゴブリンが多くなるんだぜ」


「あ、宝箱だ」


「開けてみようぜ」


 大吉は不審に思った。


 その宝箱は道路の中央に配置されている。


 普通、宝箱は道の脇や倉庫など見つけにくい場所に安置されているものだが。


 これではまるで探索者が宝箱を開けることを期待して、誰かが道の真ん中に置いたかのようではないか?


 その不安は的中することになる。


 宝箱の中身は空だった。


 そして蓮也達が宝箱を開けたその瞬間、突然、道路脇の建物2階の窓からゴブリンがボウガンを手に姿を現れた。


 蓮也達に向かって矢を射かけてくる。


「うわっ」


「なんだ?」


「ボウガンを持ってる」


「ゴブリンがボウガン?」



――――――――――――――――――――

【ゴブリン】

 ジョブ:アーチャー

 HP :50

 MP :0

 敏捷 :50

 器用 :50


【アイテム】

 〈ボウガン〉

――――――――――――――――――――



「くそっ。器用値が高いゴブリンなんてっ」


 突然のことに蓮也達は防戦一方になる。


 ゴブリンから矢を次々に射られるも反撃できない。


「落ち着け。大した威力じゃない。弾切れを待つんだ」


 蓮也達は微細なダメージを負ったものの弾切れまで壁に隠れてやり過ごす。


 そして、やがてゴブリンの矢はなくなった。


「このやろっ」


「手こずらせやがって」


「飛び移ったぞ」


「回り込めっ」


 蓮也達は家に入ってゴブリンを追いかけるが、ゴブリンは壁に開いた小さな穴、廃棄物の密集した細い通路、小さな子供でなければ入れないような排水溝などを通って逃げ回る。


 こうなってみると、ゴブリンの小柄な体は逃げ回るのに有利だった。


 壁や階段、排水溝、廃棄物の入り組んだ逃げ道を身軽にくぐり抜けることができる。


 下手に体の大きいオークよりも数段動きが速く感じられた。


「くそっ。どこいった?」


「あっちだ」


 やっとのことで道路まで追い詰めたかと思うと、ゴブリンは道路の溝に隠していた宝箱から武器を取り出した。


 宝箱の中から出てきたのは〈魔力炉〉と〈魔装銃〉だった。


「何っ!?」



――――――――――――――――――――

【ゴブリン】

 ジョブ:ガンナー

 HP :50

 MP :0

 敏捷 :50

 器用 :50

 火力 :+50(NEW!)

 燃費 :+50(NEW!)


【アイテム】

 〈魔装銃〉

 〈魔力炉〉

――――――――――――――――――――



 銃口に魔法陣が灯り、炎弾が発射される。


「ぐあっ」


「なんだっ!?」


「ゴブリンが魔法!?」


「由紀、回復をっ」


 突然の魔法攻撃に蓮也達はただただ取り乱すばかりだった。


 体勢を立て直した頃にはゴブリンは炎弾をすべて撃ち尽くして、撤退していた。


 結局、蓮也達はダメージだけ受けて、ゴブリンを取り逃してしまう。


「くそっ。逃げやがったか」


「どうなってるんだ。あいつ魔法を使ってたぞ」


「なぁ。やばくねぇか」


 要が蓮也に耳打ちする。


「火力系の魔法は何も用意してない。このまま相手にダメージを与えられないまま、消耗を強いられたら……」


 蓮也の額に嫌な汗が流れる。


 耐久値は全員100を超えている蓮也達だったが、防げるのは物理攻撃のみで、魔法攻撃には脆い。


 蓮也達の計算は大きく狂い始めた。




「なぁ、悟、今の見た? ゴブリンが魔法を使ってたぜ」


「まさか火力魔法を使ってくるゴブリンがいるとはね」


「たまげたなー。ゴブリンなんて棍棒振り回すだけの奴かと思ってたよ」


「だが、作戦に変更はない。敵を遥かに凌ぐ火力と機動力で圧倒する」


「よっし。こっからが本番だぜ」


 榛名は眼光をギラつかせながら銃を構える。


 足下には一撃で仕留めたゴブリンが、魔法銃と一緒に横たわっていた。


 榛名の火力は300を越えていた。



――――――――――――――――――――

【坂下榛名】

 ジョブ:ガンナー

 HP :50/sp100

 MP :50/sp100

 敏捷 :90(×2)/sp100

 火力 :310/sp100

 燃費 :250/sp100


【アイテム】

 〈魔装銃〉(メイン装備)

 〈エア・シューズ〉(メイン装備)

 〈魔力炉〉×5

 〈グリフォンの羽〉×3


【スキル】

 〈炎弾〉

 〈空中遊歩エアリアル

――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る