第9話 新しい仲間
榛名の配信、【最強火力で新宿ダンジョンを攻略する】は、動画サイトにアップ後1日も経たないうちに100万再生を突破した。
美貌の女子高生が果敢にダンジョンにトライしている姿がウケたのもあるが、魔王討伐に関する新情報やエルフとの邂逅、ガンナーで新宿ダンジョンを攻略するという独創性、並外れた強化効率を実現したことなども大きかった。
特に近接戦の求められる新宿ダンジョンは、ガンナーでは10階層まで潜れないというのが定説だったため、〈魔剣持ちのゴブリン〉が10代のガンナーによって討伐されたというニュースは、各種メディアにおいて驚きを持って伝えられた。
配信のアーカイブだけでなく、悟が榛名のチャンネル内にてアップしたセルフ切り抜き動画、〈魔力炉〉のドロップ、謎のガイドクマさんによる導き、〈魔剣持ちのゴブリン〉との戦闘、エルフとの邂逅などもことごとくバズって、配信アーカイブへの導線となった。
同業他社からの反応もあった。
榛名に憧れたり、2匹目のドジョウを狙おうとしたりした配信者、そしてすでに登録者数100万人越えの有名配信者までもがこぞって榛名のスタンスを模倣した配信を行う動きを見せた。
それらの配信に興味を持ったリスナーはやがて榛名のチャンネルに行き着くため、榛名のチャンネルの勢いは止まることを知らない。
ただし、模倣者の中で榛名と同じことができた者はいないが(どの配信者も〈魔力炉〉をドロップするゴブリンが特定できずそこで詰まるのだ)。
一方、30人近い団体でダンジョンを探索していたにもかかわらず、ステータスを大暴落させ、挙げ句の果てには追随者を見捨てて逃げ出したDライブ・ユニットは、否が応にも榛名と比較され、その攻略の不手際を揶揄されるのであった。
お風呂上がりの榛名は、自室のベッドの上で髪を乾かしながら、再生回数をチェックしていた。
(おおー、私の動画100万回再生突破してる。さすがは悟の企画)
榛名がご機嫌で髪を乾かし続けていると、スマートフォンに着信がくる。
(おっ、悟かな?)
榛名はその着信を見て喜んだ。
それは悟からのものではなかったが、悟に電話する格好の口実になるものだったからだ。
悟は自宅で榛名のチャンネル管理と次回の企画のための情報収集を終えたところだった。
(さて、そろそろ休むか)
そんなことを考えて風呂に入ろうとすると、スマートフォンに着信が入った。
(ん? 榛名からか)
「はい。もしもし」
「あ、悟? 今、時間ある?」
「うん? まあ、大丈夫だけど」
「よかった。前言ってた友達と配信グループ作ろうとしてるって話覚えてる?」
「ああ、もちろん」
「その友達がさぁ。私の動画見て、早く悟に会いたいって言ってんの。これから駅の近くのマッシュで打ち合わせしようって話になったから今すぐ来てよ」
「え? 今から?」
悟は思わず時計を見た。
すでに時計の針は21時を回っている。
「じゃ、よろしくね」
「は? ちょっ、おいっ」
榛名は悟の返事を待たず電話を切ってしまった。
榛名のことだ。
今から電話をかけ直したところで、すでに家を出て自転車を漕いでいるに違いない。
仕方なく、悟はいそいそと上着を着て、玄関に向かうのであった。
彼女に巻き込まれれば、
まるで嵐のような娘だった。
駅前のビル、というか駅に直結したショッピングモールビルの2階にマッシュドナルドというハンバーガー屋は店を構えていた。
自動ドアをくぐって、店に入り、榛名の姿を探す。
メッセージアプリにはすでに友達と3人で店の奥の席で待っていると連絡が入っていた。
(えーと、奥の席、奥の席……うっ)
女子高生の屈託なくはしゃいでいる声が聞こえてきて、悟は普段感じない空気に身構えてしまう。
(な、なんだこのキャピキャピした空間は……。まさか榛名もここに)
女子高生達のキャッキャした声の中から、榛名のサッパリした声が漏れ聞こえてくる。
案の定、榛名はその女子高生の一団の中にいた。
「あっ、悟ー。こっちこっち」
回れ右して帰りそうになるが、先に榛名に見つかってしまった。
手招きされるとその席に行かざるを得ない。
悟は榛名の隣に座った。
「紹介するね。この人が私に〈魔剣持ちのゴブリン〉討伐企画を持ってきてくれた雪代悟だよ」
「ど、どうも」
悟は榛名の友人と思しき2人の女子高生にじっと見つめられる。
1人は絵に描いたような金髪ツインテールのギャルだった。
緩めたネクタイ、ボタンの外されたシャツ。
開けた胸元からは深い谷間が覗いている。
腰にはセーターを巻いているが、そのセーターよりはるかに短いスカートから眩しい太ももがのぞいている。
もう1人は折目正しく座っている淑やかなお嬢様系女子だった。
きちっとシャツのボタンは留められ、スカートの長さは規定通り。
さらにスカートの裾から伸びる形のいい脚は、黒タイツで一部の隙もなく覆われている。
黒いショートの髪はカチューシャで押さえられていた。
悟は若い女子2人に注目されてドギマギした。
テーブルには食べかけのスイーツと着色料をたっぷり使ったカラフルな飲み物が置かれていた。
「紹介するよ。こっちの明るい子が
「よろしくお兄さん」
「こっちの落ち着いた子は
「よろしくお願いします」
「真莉と天音か。えっと、とりあえずこれ。前の事務所にいた時のだけど」
悟は名刺を取り出して2人に渡した。
Dライブ・ユニットの所属事務所には、線を入れて消しておく。
電話番号やメールアドレスはそのまんまだから問題ないだろう。
「おおー、名刺だ」
「凄い。本当に社会人の方なんですね」
真莉と天音はそれだけで目を輝かせる。
年上の大人というだけで憧れてしまうお年頃のようだった。
「えっ? しかもこのアブプロダクションって、ディーライの所属してる事務所じゃないですか?」
「えーっ。雪代さんディーライの関係者なの?」
「あー、うん。正確には関係者だったってとこかな。昔、メンバーとして所属してたんだ。ちょっとゴタゴタがあって辞めちゃったんだけど。それで今はフリーで活動してる」
2人はますます目を輝かせて悟のことを見た。
「つーか、2人とも悟のこと知らねーの? 昔の、ディーライが面白かった頃にちょくちょく出てたじゃん」
榛名が不満げに言った。
「知らなーい。私、秀仁さんの配信しか見ないから」
「私も。要さんの配信だけ見るので、雪代さんのことは存じ上げませんでした」
(なるほど。個人の配信だけ見てるって感じか)
考えてみれば当然だ。
Dライブ・ユニットは全員で集まってやる時よりも、それぞれ個人でダンジョンに潜っている時の方がPVが稼げていた。
当然、Dライブ・ユニットの視聴者もグループよりメンバー個人のファンになる傾向にある。
2人が悟のことを知らないのも無理のない話だった。
「真莉、天音。悟は今のところ私のプロデュースしかやってないから。売り込むなら今のうちだぜ」
「2人とも榛名みたいに僕にダンジョン配信を企画して欲しいってことでいいのかな?」
「うん。榛名の配信を見て、すっかり雪代さんのファンになっちゃった」
「榛名の配信を企画したのが雪代さんだと聞いて、私もぜひ雪代さんにプロデュースして欲しいと思ったんです」
「ウチのクラスでもめっちゃ話題になってるんですよー。榛名のガイドをやってたあのクマの人、いったい何者なんだろうって」
「ということは、2人ともすでにダンジョン配信してるの?」
悟がそう聞くと2人ともシュンとした。
「そう。してるんだけど、あんまりPVが伸びないんだよね」
「大人向けダンジョンにも潜ってるんですけど、なかなか榛名のようにはいかなくて」
「何がダメなんだろうって」
「なるほど。どれどれ」
悟は2人のチャンネルを自分のスマホで見てみた。
2人のチャンネルは再生回数が100にも満たないものがほとんどだった。
榛名の配信はすでにある程度ファンがいたが、この2人の場合はほとんど0からのスタートになりそうだ。
「でさ、とりま3人でユニットを組もうかと思うんだけど、悟、どう思う?」
「いや、ユニットを組むのは時期尚早じゃないかな」
「えっ? そうなの?」
「ああ。ぱっと見だけど真莉と天音はまだ配信スタイルもダンジョンの探索スタイルも定まっていないように見える。いきなり榛名のスタイルに合わせるのは難しい」
悟には他にも懸念があった。
登録者数や再生回数に差がある者同士でグループを組めば、依存関係に陥りやすい。
悟がDライブ・ユニットのメンバー同士であまりコラボさせないようにしていたのは、それも理由だった。
2人が榛名の太鼓持ちで満足するなら、それはそれでいいが、悟としてはもう少しじっくり2人のことを見極めたかった。
「でも、それ以外にどうやって再生回数を伸ばすの?」
「私達も色々試してはみたのですが……」
「大丈夫。2人の魅力を活かせるように企画を考えてみるよ。これから帰って2人の動画を分析してみるから少しだけ時間をくれないかな」
「「……はい」」
真莉と天音は少しだけ元気を取り戻す。
とりあえず、この日はこれだけ話して、詳しいことは後日ダンジョンでということになった。
※追記
明日からタイトル変更を試してみるかもです。
紛らわしくなるかもしれませんが、ご容赦ください。
フォローして、見失わないようにしていただけますと幸いです。(2023.10.17)
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