第46話 ボスモンスターへの道

 Dライブ・ユニットとリトル・ガーディアンは、4階層を並んで探索していた。


 ここまでの間、この両グループは意外と円滑に探索を進めていた。


 先にモンスターを見つけた者が討伐する。


 先にアイテムを見つけた者が取得する。


 そうして、両グループでタスクと報酬を分け合いながら、先行者利益を享受してここまでやってきた。


 このように上手くいったことの背景には、ここまでモンスターもアイテムも小粒ながらも十分量が点在していたためだ。


 アイテムの取得を巡っていちいち揉めるよりも、必要分を取ってさっさと先へ進んだ方がいい。


 先へ急ぐならむしろお互いに協力して雑魚の掃討に当たった方がいい。


 そうしてリーダーの仲が悪い両グループが奇跡的に大した揉め事もなくここまで来れたわけだが、問題はここからだった。


 モンスター・アイテム共に強力かつ少数になるにつれ、どちらかのグループは取得できなくなってくる。


 当然ながら、両グループにピリピリした緊張感が走り、互いに牽制し合う動きが多くなり、一触即発の空気が流れた。


 そしてついに蓮也が仕掛けた。


 リトル・ガーディアンのリーダー、小暮雅人こぐれまさとの足を引っ掛けようと相手の視線がアイテムに向かった瞬間に足を出す。


(ククク。バカめ。アイテムに目をくらませやがって。これでもくらえ)


 しかし、それは雅人に読まれていた。


 かけようとした足を逆に踏まれてしまう。


「ぐあっ」


(ばーか。お前のやることなんてお見通しだよ)


 雅人はほくそ笑んだ。


 蓮也はキレる。


「何すんだテメェ!」


 蓮也は聖剣を振りかざしながら叫んだ。


「ああ!? 先に仕掛けてきたのはテメーだろが!」


「言い訳すんじゃねぇ。見苦しいぞ」


「どっちがだ!」


「ぶっ殺す」


「上等だ。ここで勝負つけたらぁ」


 蓮也と雅人は斬り合いを始める。


「おいおい。何やってんだよ。蓮也の奴」


「やむを得ん。加勢するぞ」


「ったく、しょうがないわね」


 要と秀仁、由紀も加勢し、勢いリトル・ガーディアンの面々もバトルに加わる。


 彼らは思慮分別の足りない人間だったが、ノリのよさだけは天下一品だった。




 両グループのバトルは彼らの画面を集中的に追っていた会場にも中継される。


「あーっと、どうした急に? ディーライとリトガーいきなりバトルし始めたぁー。これはいけません」


「チッ」


「田辺さん? 今、『チッ』って言いました?」


「言ってませんよ。何言ってるんですか。やめてくださいよ」


「何はともあれボスモンスター賞最有力の2グループが乱闘開始。これはまた分からなくなってきたぁー。勝負の行方は一体誰の手に?」




 悟の指示に従って順当に強化を進めていた天音も4階層、Dライブ・ユニットとリトル・ガーディアンの両者がバトルしている通路までたどり着いた。


(なんでしょう? この物々しい戦闘音は? よほど強力なモンスターがこの先に……えっ? ディーライとリトガー!?)


 天音が通路の隅からのぞいた先には、蓮也と雅人、そして他の面々が激しくバトルしている光景が広がっていた。


(ええい。何やってるんですか、いい年した大人が。鬱陶しいですね)


 悟のマップ情報によるとこの先に強化アイテムがあるとのことだ。


 しかし、この修羅場を通り抜けようとすれば、かえって消耗してしまうかもしれない。


(悟さん。どうすれば……。ダメだ。通じない。どうしましょう?)


 不慮の事態に弱い天音は爪を噛みながら、両者のバトルを見守る。


 すると、真莉からメールが届いた。


 ダンジョン内に〈転移の護符〉と〈花爆弾フラワー・フレア〉を置いてきたから必要なら使っていいよ、とのことだった。


(ナイスです、真莉。これならいける!)


 天音は全員向けのメッセージで真莉の置き土産を自分が使わせてもらう旨伝えると、急遽行き先を変えて、真莉がアイテムを置いた場所へと向かった。


 〈転移の護符〉を手に入れると、その六芒星の刻まれた護符を足下に落とした。


 すると、護符が弾け飛んで消えると共に、転移魔法陣が現れて、天音は5階層へと一瞬で移動した。




 会場でも天音がDライブ・ユニットとリトル・ガーディアンを追い抜いた様子が映された。


「おっと、ここでディーライとリトガーをパスした選手が1名。C・エクスプローラーの駒沢天音選手です。このままいけばボスモンスターに最初に挑戦することになるか?」


「しかし、ステータスが若干足りませんね」


「ただ、ディーライとリトガーの両グループも消耗しています。これではボスモンスターへの挑戦は難しいでしょう」


「何やってんだバカヤロー!」


 田辺が血相変えて机の上に身を乗り出しながら叫んだ。


「さぁー、そうこうしているうちに駒沢選手はボスの間にたどり着いた。ここからどうする駒沢選手? おっと、あの箱はなんでしょう? あっ、これは! 中から〈花爆弾フラワー・フレア〉が出てきました。これはデカい。一気に火力と攻撃力が増しました。単独でもボスモンスターへの挑戦が可能ではないでしょうか?」


「……」


 田辺はプルプル震える。


「これはシーエク、一気にボスモンスター賞に近づきました。またしても田辺さんの予想が外れるのかぁー!?」


「ちょっ、やめてくださいよ。まるで私が何度も予想を外したみたいに。さっきからなんなんですかあなた」




 天音がボスの間に入ると、悟の情報通り立髪猿たてがみざるが待ち構えていた。


 ライオンの爪と立髪、猿の長い手足を兼ね備えており、壁の突起物を掴むことで自在に登り降りして、上方から攻撃してくる。


 なので、立髪猿たてがみざるを攻略するにはジャンプさせないことが重要だった。


(フェンリルさん、敵の足を狙ってください)


 フェンリルは果敢に立髪猿へと挑んだ。


 長い手から爪攻撃を受けるが、フェンリルも足に噛み付く。


 体は立髪猿の方がやや大きいため、取っ組み合いになると、やや不利だったが、フェンリルは距離を保ちながら的確に足を狙ってダメージを与えていく。


 やがて立髪猿の動きが鈍ったところで、天音はフェンリルを引っ込めて、青フクロウに上空から〈花爆弾フラワー・フレア〉を落とさせた。


 立髪猿は爆炎になす術もなく消滅する。


 天音はボスモンスターを攻略した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る