第53話 暴露配信
「えっ? パパが働き始めた?」
「ええ。長い間、寝たきりだったけど、ようやくやる気が出たみたい」
真莉は学校で母親と電話で話していた。
「あなたがテレビで活躍してるのを見て、自分も頑張らなきゃって思ったみたいよ」
「パパ……」
真莉は胸がじんわり温かくなるのを感じた。
ダンジョン出現をきっかけに会社が倒産して以来、自堕落な生活を送っていた父親だったが、ようやく立ち直りのきっかけを掴んでくれたようだ。
「あなたの配信をプロデュースしてくださった悟さんだったかしら? その方にもお礼を言いに行かなきゃいけないわね」
「うん。めっちゃいい人だから」
「近々、事務所になった家にご挨拶に行かせてもらうわね。あなたのお友達もそこに住んでいるんだっけ?」
「うん。ママが料理とか作ればみんな喜ぶかも(配信のネタにもなるし)」
「わかったわ。パパの就活が一段落したら、食材持って事務所に
「うん。頑張る」
真莉は通話を切った後、しばらくの間、スマホを胸に当てて感慨に
(パパ。ようやく立ち直ったんだ。悟さんのおかげだな)
真莉は今後も配信で悟とC・エクスプローラーを盛り上げていくことを胸に誓った。
「よし。そうと決まれば、早速配信ネタを探さなきゃ。今日は何が話題になってるかなー。ん?」
真莉がSNSのトレンドを調べると、「クマ 雪代悟 炎上」という不穏なキーワードが載っていた。
(えっ?
「ああ、こっちでも確認してるよ」
悟はパソコンを片手に電話に耳を当てながら言った。
電話の向こうには心配して声をかけてくれた真莉がいる。
「悟さん、大丈夫ですか?」
「うん。僕は大丈夫。ただ、迂闊な発信は控えた方がいいかもしれない」
「ていうと?」
「まだどこが炎上元かはっきりしないけれど、なんとなく作為的なものを感じる」
「誰かが仕掛けたってことですか?」
「うん。まだわからないけどね。ただ、なんとなく工作っぽいというか。こっちの出方を見て誘いをかけているような感じがする」
悟はSNSの動きからなんとなく感じていた。
この炎上の背後には蓮也がいる。
「とにかく安易な挑発には乗らないように気を付けてくれ。榛名達にもそう言っといて」
「わかりました」
悟は通話を切ると、腕を組んでパソコン画面を見つめる。
(ちょっと迂闊だったな。まさかこのタイミングで炎上を仕掛けられるとは)
しばらくは家配信は控えておいた方がいいかもしれない。
悟は自分の正体を隠しておいたことと、事務所をこの家にしたことを後悔した。
(シーエクだけはなんとしてでも守らないと。いざとなれば、僕の身を引き換えにしてでも)
「ちっ。なかなか燃え広がらねーな」
蓮也は自室でパソコンをいじりながら、苛立っていた。
クマ=悟であり、悟が例の案件家を拠点にして出入りしている証拠はSNSに流し、一応、トレンドに載せることには成功したが、本格的な炎上というにはやや鈍かった。
複アカウントで榛名や天音に仕切りに突撃しているが、彼女らもなかなか挑発に乗ってこない。
(こうなったら俺自身が燃料になって炎上を広げるしかない!)
蓮也は複垢を使って自身の休止中のアカウントに突撃した。
・蓮也さん、悟が女配信者食いまくってる悪徳プロデューサーってマジなんですか?
・ディーライが悟を切ったのって、そういう理由もあったんか?
・蓮也さん、黙ってないで教えてください
・蓮也さん、復帰のチャンスですよ
蓮也は自身の名を冠した複垢を作って、これらの質問に答えた。
「今、本垢使えないんでこっちで質問に答えます。悟が悪徳プロデューサーっていうのは……本当のことですね。ディーライ時代から女癖の悪さはたびたび問題になってました」
・やっぱ、悟ってそうだったんだ
・蓮也はこの点も見据えて悟を切ったんだな
・やっぱ蓮也さんすげぇわ
・これクマのこと応援してた奴どうすんの?
蓮也のこの呟きはSNS上で賛否両論となり炎上した。
自然と悟も巻き込まれて一緒に炎上する。
・さすが蓮也さん
・よく言った蓮也
・勇気ある告発に敬意を表します!
・ていうか蓮也って活動休止中じゃ。いいのか、こんなことして
・おっ、シーエク信者かな?
・悟信おつ
・悟信者、見苦しいぞ
・まあ、肩の力抜けよ悟信者
・シーエク信者かもしれんぞ
・両方やろなぁ
・どっちの信者もキッツイ
・やめたれw
・まーた、ダンジョン配信者が炎上してんのか
・定期的に炎上するよなこいつら
・他のディーライメンバーもなんとか言えや!
・全員クズ
・よくわかんないけど、悟って奴最低だな!
・もう全員逮捕してくれ
炎上に手応えを感じた蓮也は、動画アプリで配信し始めた。
謝罪動画をアップする。
「どうもDライブ・ユニットのリーダー、暁月蓮也です。元Dライブ・ユニットのメンバーだった雪代悟がお騒がせして申し訳ありません。TwiXで表明した通り、彼がC・エクスプローラーというグループで女性配信者を餌食にしている悪徳プロデューサーだというのは本当のことです。彼のしでかしたことについて私も責任を感じております。彼を有名配信者にしてしまい、無責任に野に放ってしまったこと、世間の皆様に心よりお詫び申し上げます」
蓮也は深々と頭を下げた。
・草
・なんでお前が謝るんやw
・いや、お前活動休止中やろw
・何どさくさに紛れて配信しとんねんw
・まずはお前が
・蓮也さん負けないでー
・蓮也さんの勇気ある行動に感動しました。負けないでください
この蓮也の謎の行動は賛否両論を呼んだが、逆に言えば、賛否両論にまで持ち込めた。
賛同派と反対派で互角の戦いとなる。
以降、蓮也の新チャンネルは悟およびシーエクスキャンダルの急先鋒のような立ち位置となった。
炎上は一気に加速する。
炎上が加速したことで悟は、対処せざるを得なくなり、自分がC・エクスプローラーのクマであること、案件家を事務所および
その一方で、自分が悪徳プロデューサーであることなどは事実無根として否定した。
配信者にはちゃんと鍵付きの個室が用意されていて、自分は彼女らのプライベートゾーンには入れないようになっており、事実上の別居である。
また、ディーライ時代の機密漏洩犯も自分ではないこともこの機会に伝えておいた。
正体を隠して配信していたのは、榛名達がデビューするにあたって余計な色眼鏡で見られないようにするためだとも。
この悟の表明も確たる証拠がないために賛否両論となった。
・よかった。クマは悪徳プロデューサーじゃないんですね
・今後もシーエクの配信、応援しています
・機密漏洩が嘘ならなんで正体隠したんや!
・堂々と配信すればいいよな
・おかしいだろ!
悟が炎上に対応している頃、Dライブ・ユニットの関係者は騒動を複雑な思いで見守っていた。
蓮也がSNSで暴れているのを苦々しく思う一方で、今、変に蓮也を叩く発言をすれば、悟に味方していると思われかねない。
そういうわけで、蓮也の行状に物申したいものの、見て見ぬフリする他なかった。
しかし、SNS上ではDライブ・ユニットの他のメンバーも悟のことについて発言するべきという流れが徐々に形成されていった(無論、蓮也の工作用アカウントもこの流れを作るのに一枚
しばらくの間、日和見を決め込んでいたDライブ・ユニット関係者だが、蓮也と悟が過去の機密漏洩騒動に関して真っ向から対立する見解を出したために、新たな論争が勃発した。
そのため、Dライブ・ユニット公式としても過去の不手際について改めて声明を出さなければならない雰囲気になってしまった。
ディーライファンと蓮也ファン、シーエクファンによる電話突撃とSNSアカウントへの突撃行為は、日を追うごとに過激になっていった。
Dライブ・ユニットは蓮也を切るか、悟と敵対するかの二者択一を迫られる。
巧みな立ち回りで悟を炎上させた蓮也だが、同業者の反応は鈍かった。
Dライブ・ユニットの関係者はいまだ何のコメントも発しないし、C・エクスプローラーの配信者も挑発に乗ってこない。
他グループも慎重な態度を崩さなかった。
界隈の煮え切らない態度に痺れを切らした蓮也は、Dライブ・ユニットも攻撃することにした。
【ディーライメンバーと悟の黒い繋がり】と銘打ったタイトルで配信を予告する。
今の蓮也はもはや暴露系配信者であり、無敵の人だった。
「はい。今、緊急で動画を回しています。とある筋からもたらされた情報によりますと、悟と繋がりを持つディーライメンバーがいるという確かな証拠を掴んだということなので、事の真偽について調べていきたいと思います」
・蓮也さんキター
・どんな暴露が出るのかワクワク
・ディーライメンバーが悟と繋がってるとしたら由々しき事態ですね
・裏切り者許せねぇよなぁ
蓮也は自宅で自身のパソコン画面を映しながら、話していった。
パソコンには謎の情報提供者から来たと思しきメールが映っている(差出人の欄は見えないようにしている)。
「悟と繋がりのある某メンバーは、今も匿名掲示板内で工作活動をしているみたいです。ほら、見てくださいよこの書き込み」
蓮也はパソコンを操作して掲示板の書き込みを画面に映す。
「ディーライ関係者でないと知り得ないような情報が多数書き込まれています」
・うわぁ。まだ機密漏洩してんのかよ
・これもう病気じゃね?
・何が悟にここまでさせるのか。
・つーか、まずはお前が
・もう、こういう路線で売っていくのか蓮也は?w
・活動休止中なのにええんか? こんなとことして
「あのなぁ。
・うおおお。よく言った蓮也
・男の風上にも置けねぇ奴だな
・そんな奴がプロデューサーやるとかどうなってるんですかね、この業界は
・もう、業界全部潰して1からやり直せよ
・いまだに悟と繋がってる奴何考えてるんや
・ディーライの内情腐りすぎやろ
・蓮也さん、蓮也さんの掲示板IDが画面に映ってますよ
・蓮也さんもダンJに書き込みするんですね。なんか意外
・ん? このIDって(カタカタ)
「あっ、やべ」
蓮也は慌ててPC画面を配信画面から消したが、すでに遅かった。
・このID、情報漏洩してる奴のIDと同じだ
・えっ? ちょっ。どゆこと?
・情報漏洩してたのは……蓮也だったってこと!?
蓮也の配信はここで終わる。
その後、ダンJ民をはじめとしたネット民による大規模な調査キャンペーンが行われた。
蓮也の配信でチラッと映ったIDを足がかりに蓮也の行ってきたネット工作活動の実態が
蓮也はアカウントと配信アーカイブを消して逃亡するも後の祭り。
この一連の騒動はあらゆるメディアによって拡散される。
Dライブ・ユニットのリーダーが自グループの機密情報を漏洩した犯人だったというニュースは、各種メディアによって驚きをもって伝えられた。
ネット上では、しばらくの間、この話題で持ちきりとなった。
【コミカライズ決定!】マップスキルを駆使してダンジョン配信! 〜俺にしか見えないレアアイテムの位置を困っている配信者に教えるだけで、人気動画を量産していきます!〜 瀬戸夏樹 @seto_natuki
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