第18話 懇親会

 榛名達が教室で昼休みを過ごしていると、ビブスを着た女子生徒ら数人が駆け込んできた。


「榛名、大変」


「ん? どうしたの?」


「ダンジョン配信部の奴らが、体育館を占拠してんの」


「なんだって!?」


「この時間はバレー部とバスケ部の時間なのに」


「お願い。あいつらどうにかできるのは榛名だけだわ」


「榛名、どうにかできないかなぁ?」


「よしきた!」


 榛名は現場へ急行した。




 体育館前で揉める声。


「ちょっと、ここを通して下さいよ」


「だから通せないんだっつの。今は俺達ダンジョン配信部が使ってるんだからさ」


「この時間は女子バスケ部が使う予定でしょ」


「そんなこと言われても。なぁ?」


「うちの部長が決めたんだからしょうがないだろ」


「まあまあ、そう言い争うもんじゃないよ君達」


 喧騒に似合わないねっとりした声と共に、封印されていた体育館の扉が開き、中から優男が現れる。


 成志丞なるしすすむ


 ダンジョン配信部の部長でかつエース。


 そのイケメンな容姿を補って余りあるナルシストっぷりで女子からの評判がかなり悪い男子である。


「1級ダンジョン探索者にして、再生回数1万回を叩き出したこともあるこの僕、成志丞が話を聞こうじゃないか」


「成志先輩。どうして私達が使うはずの時間に体育館を占拠してるんですか」


「そうですよ。ルールを守って使ってください」


「君達がこの体育館に入りたがる気持ちはよくわかる。僕が華麗に鍛錬しているところをじっくり観たい。そうだね?」


「いえ、違います」


「だが、それは叶わぬ願いだ。何せこれから始めるのは、本日の放課後行うダンジョン配信の予行演習。僕には部の長として守秘義務がある。僕のファンである君達に勇姿を見せられないのは残念だが……、今日のところは引き取ってくれたまえ」


「いや、だからぁ」


「違うっつってんでしょーが、どんだけ思い込み激しいのよ。このナルシストがぁ!」


「ふふふ。どうか僕を困らせないでくれ子ウサギ達よ」


「そこまでにしなよ。成志先輩」


「おや、君は坂下榛名」


「バスケ部とバレー部が可哀想だろ。体育館、使わせてやりなよ」


「ちょうど君と話したいと思っていたところだ、坂下。いや、皆まで言わずとも君の言いたいことは分かっている。この僕成志丞が率いる桜間高校ダンジョン配信部に入部したい。そういうことだね?」


「いや、まったくそう思わない」


「わかるよ。何せ僕はダンジョン配信において1万再生以上を叩き出したこともあるトップ配信者」


「私は100万再生を出したことあるけどな」


「そんな僕に憧れてダンジョン配信部の門を叩く女子は数知れず」


「相変わらず人の話聞かない人だな」


「だが、いくら君が可憐な女子だからといって、そうやすやすと入部を許しては他の頑張っている部員に示しがつかない。そこで君のためにテストをしてあげよう。アイテム〈念力の杖〉」


 どこからともなく杖が現れて、丞の手に握られる。


 丞は壁の引っ掛けにかかった鍵に向かって杖をかざした。


 すると鍵がフワフワと浮き上がる。


「これが僕のスキル〈念動力〉。物体を自在に浮かせて移動させることができる。今、僕が浮かせて自在に動かしているこの鍵。この鍵を僕から奪い取ることができたら、君の入部を認めてやろう」


(((ええー。どんだけ上から目線なのこの人)))


 居合わせた女子達は、ドン引きして、呆れ果てた。


「さあ。坂下榛名。君もダンジョン配信者の端くれだというなら、その力を見せてごらん。もっともこの僕の〈念動力〉は強力なスキル。いかに君が俊敏とはいえ、〈念動力〉に支配され、縦横無尽に動き回る物体を奪い取るのは至難の業ぐふぁ」


 榛名の膝が丞の鼻に直撃する。


 榛名が丞に飛び膝蹴りを放ったのだ。


長広舌ちょうこうぜつどうも。けど、勧誘はお断りだ。間に合ってるんでね」


 榛名は床に落ちた鍵を拾い上げる。


「勝負は私の勝ちだ。体育館は明け渡してもらうぜ先輩」


「ぐっ。待て坂下。今のはなしだ。もう一回。あ……」


 かくんと頭が下がって、丞は意識を失った。


「うわあああ部長」


「大変だ」


「ほら、アンタらもとっとと出ていって。解散だ解散。ここはバスケ部とバレー部が使うんだから」


「ちくしょう。覚えてろよ坂下」


「この借りは必ず返すからな。成志部長が!」


 ダンジョン配信部の面々は、気絶した丞を抱えてその場を後にした。


「ありがとう榛名ー」


「ごめんねー。いっつも手間かけさせちゃってー」


「今度何か奢るからー」


「はは。いいってことよ。さ、体育館空いたよ。たっぷり練習頑張って」


 榛名はそう言って、微笑むものの、頭の中では悟のことでいっぱいだった。




「ねえー、お願い真莉。どうにかできないかな?」


「どうにかって言われてもねぇ」


 真莉は友人の女子、梨花に頼み込まれて、困っていた。


「懇親会のメンバーが足りないの。どうにか榛名を呼べないかな」


 梨花はダンジョン配信をやっている学生同士で懇親会を開こうとしていた。


 他校の生徒達も呼んで幅広く交流する予定だった。


 そこで最近、配信でいい数字を出している榛名、真莉、天音の3人も呼ぼうというわけだった。


「そう言われてもなー。だいたいなんで榛名を誘うのに私に頼んでんのよ」


「だって、あんた最近、榛名と仲良いんでしょー?」


「そりゃ仲良いけどさ」


「頼むよー。向こうの以前お世話になった先輩から言われてさー。どうにか榛名を連れて来れないかって」


「まあ、聞くだけ聞いてみるけどさー。私は行かないよ。ちょっと今、そういう気分じゃないから」


(悟さんと電話したいし)


 聞くところによると、悟は今日、案件元の会社と打ち合わせするようだ。


 真莉は悟の仕事を手伝いに行こうと思っていた。


 いい企画を回してもらえるかもしれないし、何より悟と親密になって、距離を縮められるかもしれなかった。


 帰りにはお食事に誘ってもらえるかもしれない。


「何言ってんのさ。あんたが来ないと榛名も来ないでしょーが」


「いや、知らないよそんなの。そこまで面倒見切れないって」


「私も榛名とそんな仲良くないし。間が持たないじゃん。私と榛名で何の会話すればいいんだよ」


「んなこと言われても」


「あー、わかった。じゃあ言うなって言われてたけど言うわ。今回の件、実は……」


 女子は真莉の耳元でゴニョゴニョ言った。


 すると先ほどまで明らかに乗り気でなかった真莉の顔色が目に見えて変わる。


「えっ? マジで? それほんと?」


「ほんとほんと」


「わかった。それじゃ榛名連れてくるわ」


「ほんとに?」


「任せとけ。首根っこ掴んででも榛名連れて行くから」


「助かるー。持つべきものは友達だね」


 真莉は梨花と固い握手を結んで榛名を連れてくることを約束した。




 真莉は梨花および、榛名と天音を連れて店へと向かっていた。


「なぁ真莉。やっぱ私は懇親会とか乗り気じゃないんだけど」


「いいじゃんいいじゃん。今日くらい。悟さんからの配信企画も特にないんでしょ?」


「それは……そうだけど」


 悟の名前が出て、ついシュンとしてしまう榛名。


 今日は悟から配信企画の依頼が来ていなかった。


 〈マッピング〉をしても特に目ぼしい成果は得られなかったようだ。


 それでなくても今日はダンジョンからの魔素の放射が少ない。


 こういう日はモンスターもアイテムもあまり出ない。


「みんな榛名の話を聞きたいって言ってるんだよー。何せあんたは高校生でナンバーワン配信者じゃん」


「そんな偉そうに語れるほどの話なんてないぞ」


「新しいメンバーも見つかるかもしれないし。そうなれば悟さんの助けにもなるでしょ?」


「まあ、そうだけど」


「悟さんにアピールするチャンスだよ。さ、入った。入った」


(まあ、いっか)


 榛名は真莉の押しに負けて店に入る。


 どうやら先に個室が予約されていたようだ。


 榛名達は先に部屋に入って相手が来るのを待った。


「わ、ここカラオケできるんだー」


「へー。楽しみー」


 榛名は若干居心地の悪さを感じた。


(なんか。この店結構高そうな雰囲気だな。本当に相手学生か?)


 座席のセットや雰囲気も懇親会というよりは合コンに近かった。


 榛名は不審に思いながら、椅子に座っていると、サングラスにニット帽を被った男性3名が入ってくる。


「や、待たせて悪かったね」


「あ、遅ーい。要」


 梨花は要が入ってくるのを見て気安く声をかけた。


 2人は従兄弟いとこだった。


「悪い悪い」


「ちゃんと蓮也さん連れて来たのー?」


「ああ。バッチリ連れて来たぜ」


 男達はサングラスとニット帽を外した。


(えっ? この人達って)


「どうも榛名ちゃん。Dライブ・ユニットの暁月蓮也です」

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