第50話 活動休止

 出社した蓮也を待ち受けていたのは、怒り心頭といった表情の阿武隈だった。


 要、秀仁、由紀、大吉といったお馴染みのメンバーも顔を揃えている。


 いつもは一緒にふざけている要と秀仁も今は冷ややかな目を向けていた。


 由紀も腕を組んで厳しい目を向けている。


 大吉はオドオドしながら蓮也と他メンバーの間で目線を行ったり来たりさせていた。


 カメラの前ではリスナーを意識して蓮也を庇い、仲間思いな一面をアピールしていた彼らだが、事務所内での彼らの態度は醒めたものだった。


 蓮也を庇うどころか、むしろ今までの鬱憤を晴らす気満々である。


 社長、マネージャー、自分以外のディーライメンバー全員に厳しい目を向けられて、流石の蓮也も劣勢を悟らざるを得なかった。


「なんで呼ばれたか分かってんな、蓮也?」


 阿武隈は開口一番そう尋ねた。


「ちょっと待ってくれよ、社長。なんで!? なんで俺がこんな扱い受けなきゃいけないんだよ」


「いや、なんでってお前……」


「これじゃまるで俺が何か悪いことしたみたいじゃないか。こんな……、まるで尋問みたいな形でみんなで寄ってたかって俺のこと責め立てて。攻撃されたのは俺の方なのに。こんなのあんまりだろ!」


(こいつ……マジで言ってんのか?)


 これまで蓮也を甘やかしてきた阿武隈も、流石にドン引きせずにはいられなかった。


 蓮也は大吉の方を見た。


「なあ、大吉。お前も言ってやってくれよ。お前は俺の味方だよな?」


「えっ!? い、いやぁ」


(ちょっ、こんな時だけ俺に話振るなよ)


ほだされちゃダメよ大吉」


 動揺する大吉を制するように、由紀が割り込んで言った。


「蓮也、あんたがここに来る前にもうみんなで話し合って結論は出てんの。ダンジョン・カップで見せたあんたのあの態度。流石にあれはないわ」


「そうだぜ蓮也。お前、どうしちまったんだよ。リスナーの前であんなこと言うなんて」


「リーダーとしてあるまじき態度だ」


 要と秀仁も由紀に同調する。


「はぁ!? お前らこそどうしちまったんだよ。お前らあの場にいて見てただろ? 俺がリトガーの奴らに攻撃されたところを。あいつらのファンは俺達のこと、ピー呼ばわりしたんだぞ?」


「アーカイブを見たけど、そんな発言はどこにもなかったわよ。法務部が何度確認しても見つからなかったって言ってるわ。諦めなさい」


「そんな。だからって……それだけで全部俺のせいにすんのか? これまでの俺の貢献はどうなるんだよ? これまで俺はディーライのことをいの一番に考えて、企画を練り、再生数を稼いで、必死に貢献してきたのに。こんな1回限りのミスで全責任を追及されるのかよ。そんなのあんまりだろ。なぁ、大吉?」


「えっ? い、いやぁ。その、なんというか……」


(だからなんで俺に話振るんだよ。さっきから)


「そもそもその貢献っていうのが怪しいと思ってんのよね私は」


 由紀がビシッと蓮也を指差す。


「はぁ? 何言ってんのお前?」


「あんたが企画を練ってきたって言ってるけど、その割に悟が出ていってから、あんたの立てた企画一度もバズってないじゃない」


「はぁ? 何、お前。悟を擁護すんの? ディーライの機密情報を漏洩したあの裏切り者を?」


「そ、そこまでは言ってないでしょ。今はあんたの話してんのよ。何、話すり替えてんのよ」


「ちょっ、お前らいいの? こいつ裏切り者を擁護し始めたよ? 要、秀仁、大吉、お前らスパイの口車に乗せられて頭おかしくなってんじゃねぇの?」


 3人は動揺したように視線を交わす。


 そういえば、事務所にスパイがいるんだっけ?


 もし、由紀がスパイだとしたら……?


「とにかくだ!」


 阿武隈が業を煮やしたように机をバンっと叩いた。


「蓮也、今、お前を配信画面に出すわけにはいかない。苦情の電話が鳴り止まねぇし、スポンサーからも問い合わせが殺到してんだよ。このままじゃ、ディーライ以外の役者にも飛び火しかねん。事務所が潰れかねないんだよ。事務所が! そうなったらディーライも解散だ。一番困るのはお前だぞ蓮也。分かってんのか?」


 流石の蓮也もぐっと唇を噛み締めて押し黙る。


 そこで、阿武隈はタバコに火をつけて一息入れた。


「ふー。蓮也。人間誰しも間違いを犯すことはある。ここは俺の顔に免じて引き下がってくれ。素直に世間の皆様に謝罪して、一旦活動休止だ。お前も働き詰めで疲れてんだろ。世間のほとぼりが冷めるまで、ハワイにでも行って、ゆっくり休暇を満喫しな」


「わかった。じゃあ、最後にチャンスをくれ」


「えっ? チャ、チャンス?」


(こいつ……こんだけ詰められてまだ食い下がんのか)


「ディーライの公式チャンネルを使ってリスナーに釈明したい。釈明動画を配信させてくれ」

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