第14話 召喚契約
・おっ、いよいよか
・ゆーてここからフェンリルのいる階層までは結構かかるからな
・その茂みは危ないで。落とし穴が隠されてることがあるから
・ちょっ、おいその茂みはヤバいって
・あっ、落ちた
・あーあ、言わんこっちゃない
・どうすんのこれ。ただでさえフェンリルテイムとか無理ゲーなのに。もうグダグダやん
・待て。この配信者まだ瀕死になってないぞ
・立った!?
・てか無傷!?
落とし穴に自らはまった天音は、下層に至る道順をスキップしてフェンリルのいる階層にたどり着いていた。
これまでとは明らかに魔素の濃さが異なる空間。
強力なモンスターの出現を予感させると共に、天音は魔素の濃さに一瞬、立ちくらみした。
だが、すぐに復帰する。
「皆様、いきなり驚かせてしまい申し訳ありません。ですが、先ほど手に入れた〈耐震の指輪〉のおかげで私は無傷です。この指輪をしていれば、どれだけ高い場所から落ちても無傷です。地上100階のビルから飛び降りてもその衝撃に耐えられると言われています」
――――――――――――――――――――
【駒沢天音】
ジョブ:
HP :50/30sp
MP :50/30sp
交渉 :90+30/30sp
器用 :30/30sp
耐震 :30/30sp
【アイテム】
〈ポーラ〉(メイン装備)
〈耐震の指輪〉(補助装備)
〈ホーンラビットの角〉
〈回復薬小〉×3
〈回復薬中〉×3
【スキル】
〈テイム〉
――――――――――――――――――――
・ほっ。無事だったかー
・ったく、ビックリさせんなよ
・なるほどー。このために〈耐震の指輪〉を手に入れてたんだねー
・わざと落とし穴にハマったんか
・なかなか狂ったことしよる
・最初からこの落とし穴の存在把握してたってこと?
・待て。何か足音が近づいてくるぞ
・しかもデカいな
・まさかっ
天音の背後にある密林から巨大な狼が顔を出した。
銀色の毛並みに天音を一口で呑み込めそうな大きな顎。
狼型モンスターフェンリルだった。
戦闘後のためか、金色の瞳はギラギラと輝いており、大口からは絶え間なく息が漏れ、銀色の毛並みには真っ赤な返り血がベットリと染み付いている。
・いきなりフェンリルきたー
・ちょっ、待てよ
・しかもなんか気がたってるように見えるぞ
・ヤバいヤバい
・天音ちゃん逃げてー
フェンリルは天音を見るなり、ギョッとして襲いかかってきた。
だが、噛みつこうとするも、足に力が入らず、ガクンと体勢を崩してしまう。
天音はその隙に鎖を放った。
・なんかフェンリルの動き鈍くね?
・体にべっとり付いてる血。これ返り血じゃなくて自分の血なんじゃ?
・まさか弱ってるのか!?
・てことはチャンスだ!
・天音ちゃん、今のうちに逃げてぇ
フェンリルはその敏捷さで一旦鎖をかわすものの、また、体勢を崩す。
右足を損傷しているようで、体を支えきれないようだ。
フェンリルが体勢を崩した隙に、天音は鎖に追尾させた。
鎖はフェンリルの右前脚に絡みつく。
フェンリルはすぐさま鎖に噛み付いたが、鎖は噛み付けば噛み付くほど太くなっていく。
今のフェンリルの魔力では、天音の鎖を噛みちぎることは困難だった。
鎖の強さは魔力量+交渉値に比例する。
現状、魔力+交渉値で170の天音に対し、フェンリルはその魔力を100以下になるまで消耗していた。
フェンリルは交渉の席につかざるを得ない。
銀狼は少女に対して咆哮を浴びせた。
(小娘! この私を縛りつけようとはいい度胸だな。噛み殺される覚悟はあるのだろうな?)
「……そのような脅しは無駄です。今のあなたに私を噛み殺す力はありません」
フェンリルはグルルと唸るもそれ以上反論できず引き下がる。
(よかろう。小娘。この私に対して、交渉を仕掛けようとは、一体何が望みだ?)
「私がここまで来た目的はただ一つ。あなたをテイムして配信に映すためです」
(貴様、私を
「あなたを見せ物にするつもりはありません。ただ、少しだけあなたのその勇猛さをお借りしたいだけなのです」
(黙れ小娘。下等な人間の要求など何一つ聞く気はない)
「しかし、その怪我ではこれ以上この階層で歩き回ることもままならないのでは?」
(……)
確かに天音の言う通りだった。
このままでは、この階層でオウルベアに出会った途端、死ぬしかないだろう。
「もし、私と契約して配信に協力してくださるのなら、私の持っているアイテムであなたの傷を回復させます。さらにはダンジョンにいる間、共闘させていただきます」
(……)
「ちょっといいかな」
交渉している天音に悟が話しかける。
「オウルベアの群れが近づいてきている。交渉が纏まらないようなら、そろそろここを離脱しないとまずい」
「わかりました」
(なんだ!? その連れの男はなんと言っている?)
「オウルベアの群れが近づいてきているとのことです。私達としても身の安全のためにこれ以上交渉を長引かせるわけにはいきません」
フェンリルは驚いた。
確かにフェンリルの鼻と耳もオウルベアの大群が近づいてきているのを感じとっていた。
「早急にご決断を」
(わかった。お主の軍門に降ろう)
フェンリルは頭を垂れる。
天音はフェンリルに薬草を与えた。
フェンリルの傷は立ち所に治る。
・マッ!? ホンマにフェンリルをテイムしたんか?
・深手を負っているとはいえ、これほどステータス差のあるモンスターをテイムするとは
・なるほど。このために回復アイテムを漁ってたのね。
・天音ちゃん。賢いね。
「天音、オウルベアの群れはすぐそこだ。急いで離脱するぞ」
(乗れ!)
天音と悟はフェンリルの背中に乗ってその場を離脱した。
ダンジョンを猛スピードで疾走するフェンリルだったが、途中でぐらつき始めた。
「どうしたんだ?」
「聞いてみます。……わかりました。どうも魔力が足りなくてこの巨体を保つのが難しいみたいです」
「なるほど。じゃあ、魔素の濃い部屋へ行こう。……この場所だ。フェンリルに指示して」
「はい」
一行は魔素の高い部屋へと向かった。
フェンリルの容態は安定する。
魔力を補給したフェンリルは、出会った時よりも一回り大きくなる。
さらに魔力を補給できればもっと巨大化できるという。
だが、今度は何かを声高に要求し始めた。
「なんて言ってるの?」
「……ふむふむ。お腹が空いたのだそうです」
「よし。わかった。……ここにホーンラビットが沢山いるから、そこで腹ごしらえするように言って」
天音はフェンリルに獲物が沢山いる場所を教える。
フェンリルはホーンラビットの群れがいる場所まで悟と天音を乗せていき、自然の摂理のままにうさぎ肉を捕食した。
たらふく腹を満たしたフェンリルは、今度はノロノロとした動きで億劫そうになにがしか要求し始めた。
「今度はどうしたの?」
「眠たいんだそうです」
「そっか。それじゃあ、ここいらで休憩しよっか」
フェンリルは体を急速に縮めて、子犬程度の大きさになると、天音の膝の上で丸まって、スヤスヤと寝息を立て始める。
その間、天音は視聴者とやり取りした。
フェンリルは天音に背中と耳を撫でられながら、いつぶりかの安眠を貪るのであった。
1時間ほどフェンリルを寝かした後、天音と悟はフェンリルの背中に乗ってダンジョンを逆戻りに進んだ。
すでにフェンリルのいた領域は抜け出しており、この辺りにフェンリルの敵になるようなモンスターはいなかった。
やがて悟と天音はダンジョンの入り口近くまで到達する。
「さて、それじゃたっぷりフェンリルの映像も撮れたし、ここいらで契約解除しておこうか」
「はい。えっ? なになに?」
フェンリルが天音の耳元で何かを囁いた。
「悟さん。フェンリルがずっと一緒にいたいと……」
「くぅーん」
フェンリルが悟に対して甘えるような鳴き声をあげた(天音の態度から悟が彼女の上司に当たる存在であることを短い時間ながらもフェンリルは勘付いていた)。
フェンリルはすっかり天音の膝の寝心地を気に入ってしまったようだ。
「わかった。それじゃあ召喚契約も結んでおこうか」
「おや。そんな契約もできるんですか?」
「ああ。今の君とフェンリルの絆ならできるはずだよ」
「フェンリルさん。悟さんの話によると、私とあなたで召喚契約を結べるとのことですが……」
フェンリルは耳をピョコンと立てて、アイテムボックスから石板を取り出した。
そこにはエサと天音の膝枕を提供すれば、召喚に応じるといった契約内容が書かれている。
天音は少し指を切って石板に血を垂らす。
召喚契約は締結された。
「それじゃあ、フェンリルさん、しばらくの間お別れです。また私がダンジョンに来た時は召喚させていただきますね」
「くぅーん。ワンワン!」
フェンリルは尻尾を振って喜んだ。
「じゃ、今日の配信はここまでにしようか。リスナーの皆さんに挨拶して」
「はい。皆様、本日は来てくださりありがとうございました。これにてフェンリルをテイムする配信は終了となります。チャンネル登録と高評価お願いします。では、また」
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