【コミカライズ決定!】マップスキルを駆使してダンジョン配信! 〜俺にしか見えないレアアイテムの位置を困っている配信者に教えるだけで、人気動画を量産していきます!〜
瀬戸夏樹
第1話 追放された配信企画者
西暦20XX年、突如として恐怖の大魔王が現れ、世界各地にモンスター蠢くダンジョンが出現した。
ダンジョンはモンスターを出現させるばかりではなく、魔素と呼ばれる謎の物質を周囲に撒き散らした。
魔素は電波に干渉し、現代社会の必須インフラである通信機器を機能不全にして、文明人の生活を大いに脅かした。
そうして世界は一時混乱に陥ったが、一方でポジティブな変化も起こった。
魔素の影響を受けた人間の中に、魔法の力を発現する者が現れたのだ。
人類がこの新たに現れた混沌を便益に変えるまでには、そう長い時間はかからなかった。
ダンジョンが現れて半年経った頃には、魔力を攻撃に利用する方法が判明、現代兵器の通用しないモンスターに対抗するための部隊が編成される。
1年も経つ頃にはほぼほぼ地上からモンスターは掃討され、人類は一時魔族によって占領された領土を奪還した。
5年も経つ頃には、使い物にならなくなった電波の代わりに魔素を通信に利用する技術が確立された。
魔族とモンスターによってズタズタに破壊されたインフラもほぼ元通りとなる。
今となっては、ダンジョンと魔素・魔力は人々にとって身近な存在となった。
ダンジョン付近の戒厳令が解除され、民間の人間でも気軽にダンジョンに入れるようになってからは、ダンジョン探索を生業にする人間も現れた。
学生でも簡単に探索できることがわかってからは(むしろ10代・20代の体力が有り余る若者の方が魔力を上手く扱える傾向にある)、ダンジョン配信はカジュアルな趣味になりつつある。
ユニットやグループで活動し、ダンジョン配信専門の芸能事務所まで立ち上げられるほどだ。
だが、人類が失地回復に成功したとはいえ、未だに魔王は倒されておらず、ダンジョンは未知の領域である。
前人未到の大地を冒険して、まだ見ぬ景色を配信するダンジョン配信者が、若者にとって憧れの職業になるまでそう時間はかからなかった。
ダンジョン配信者の
ダンジョンの壁をツルハシで削りとる。
無機質なのっぺりした灰色の壁に穴を穿っていくと、内側から紫色の宝石のようなものがこぼれ落ちた。
「お、魔石だ。しかも大粒」
悟は撮影用ドローンに向かって魔石を掲げてみせる。
「みんな見えるか? 大粒の魔石を見つけたぞ。これだけ大粒であれば、1ヶ月は電気代に困らない。低階層のダンジョンも捨てたもんじゃないね。まだまだ探索の余地は十分にあるよ」
悟がドローンに向かってそう語りかけるも、ドローンのプロジェクター機能によって映し出されているコメント欄は沈黙している。
視聴者の人数も10人を超えるか超えないかのラインを行ったり来たりする程度だ。
悟はため息をついた。
(やっぱり僕1人じゃ視聴者は呼び込めないか)
悟の脇を冒険者の一団が走り抜けていく。
まだ学生なのだろうか。
無邪気にダンジョン探索を楽しんでいる様子だった。
「今日こそ第5階層クリアしようぜ」
「ああ」
「援護ミスんなよ」
悟は彼らの楽しそうな様子を見てますますため息を深くした。
悟も先日まではグループで活動していた。
それもチャンネル登録者数100万人を超える人気冒険者グループDライブ・ユニットのメンバーとして。
だが、悟はDライブ・ユニットを解雇された。
それも裏切り者の汚名を着せられて。
Dライブ・ユニットは実力派冒険者によるダンジョン配信をコンセプトにしたグループだ。
配信映えする美男美女なだけではなく、ダンジョン探索に関する実力も兼ね備えた者でなければメンバーになれないという徹底ぶりだった。
まだダンジョン配信業が本格的に行われていなかった時期から取り組んだこともあって、真剣に攻略を狙うその姿勢は好感を呼び、一躍大人気グループにまで登り詰めた。
今となっては、若者にとって入りたい冒険者グループナンバーワンの憧れのグループだ。
合格率0.01%以下の狭き門を潜り抜けて、悟がDライブ・ユニットのメンバーに加わることができたのはひとえにレアスキルを発現していたからだ。
「〈マッピング〉」
悟が呪文を唱えると、目の前にこの階層のマップが表示される。
その地図を見れば、入り組んだ迷路のようなダンジョンの道順が一目瞭然であるばかりでなく、宝箱の位置や隠しアイテムの場所まで分かるようになっていた。
(この先を曲がったところに壁の中から採掘できる魔石があるな)
悟はその場所まで行って、ツルハシで壁を削る。
もう少し先に行けば宝箱があったが、その直前にはゴブリンが数体待ち構えている。
戦闘能力がほとんどない悟が行くのは無謀だった。
このようにダンジョン内を地図化することで探索チームをガイドするとともに、ダンジョン内のオブジェクト情報をもとにして、配信映えする企画を提案することができた。
今思えば、悟は貧乏くじを引かされた。
企画や下準備などサポート役ばかりやらされて、おかげでグループのメンバーは登録者数が伸びまくったが、自身の配信は後回しになってしまった。
それでも仲間達のため、グループのためという一心でサポート役に徹していた。
メンバーも自分の貢献を信頼し、評価してくれている。そう信じて。
が、それは大きな間違いだったようだ。
悟は解雇された。
それも仲間だと信じていた同じグループのメンバーに裏切られて。
「悟、お前は今日限りでクビだ」
Dライブ・ユニットのメンバー全員がいる前で、事務所の社長は、悟にそう告げた。
「クビ!? いったいなんで?」
「テメェ。
「?」
「あくまでしらばっくれる気か。ならいいだろう。証拠を見せてやる。これを見ろ!」
社長は何かの書類をテーブルに投げつけた。
それはネット掲示板の書き込みを印刷したものだった。
そこには悟の作った企画書と瓜二つの内容が書かれている。
(これは……。企画書の内容が流出している!?)
「なぜ、お前の書いた企画書の内容がネット掲示板に出回っているんだ? 探索するダンジョン、狙っているアイテム、討伐する予定のモンスター、挙げ句の果てには、その月日やメンバーまで! これじゃあウチが配信する前によそのグループに横取りされちまうじゃねーか」
(いったい誰がこんなことを。……まさか!)
悟は社長の横でニヤニヤしている人物に目を映した。
Dライブ・ユニットのリーダーにして、一番人気を誇る配信者だ。
悟は蓮也にだけは事前に配信企画に関する情報を伝えていた。
彼が自分にだけは前もって教えて欲しいと言ってきたからだ。
しかし、蓮也は悟の用意した企画を外部に情報漏洩し、配信が台無しになるよう裏で糸を引いていたようだ。
おまけに所属事務所の上層部に陰口を叩いていたらしい。
悟が怪しい。
奴が内情を外部に漏らしているに違いない。
このグループを潰すために。
俺達の配信の伸びに嫉妬してのことだろう。
他にもあることないこと吹き込んだようだ。
登録者数の多い蓮也と伸び悩んでいる悟。
上層部からすれば、どちらを信じるかなど決まりきっていることだった。
今でも時々夢に出てくる。
メンバー全員が悟に向けてくるあの目。
裏切り者を見るような目。
「まさかお前がこんな奴だったとはな」
「残念だよ」
「最低ね」
こうして悟は機密情報の漏洩、秘密保持義務違反により契約解除されることになった。
悟は泣く泣く解雇を受け入れるほかなかった。
悟は表向き穏便に卒業するという形式だったが、すでにネット上では悟がDライブ・ユニットの機密情報を漏洩した犯人だと断定する風潮が匿名掲示板を中心に流れていた。
蓮也が手を回して工作したに違いなかった。
「再生、チャンネルDライブ・ユニット」
悟はドローンに命じてDライブ・ユニットの生配信を流させる。
同時接続数5000人以上の大盛況だった。
10人越えるか越えないか程度の悟の配信とは大違いである
悟はため息を漏らさずにはいられない。
撮影用ドローンから通知音が鳴ったかと思うと、音声が流れ始めた。
「あと30分ほどで活動限界を迎えます。ダンジョンから離脱してください」
(今日はここまでか)
悟は撮影を打ち切って、ダンジョンから離脱した。
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