第3話 美少女女神が異世界転移についてきた



まわり360度、どこまで見ても真っ白な世界だった。

いるのは、生前、35歳サラリーマンだった俺。そして、もうひとり……

超絶美少女の女神エリサがいるだけだ。


「一輝さん……」

その美少女が俺のファーストネームを呼んで、迫ってきている。

「お……おい、ちょっとまて」

俺は、手で制しながら、

「ほら、異世界に転移しなければならないんだろ。もう覚悟はできてる。早くやってくれ」


「あ、そうでした……」

女神は思い出したように、ぽんっと手をうつ。

「それじゃあ、手続きしてきますね」

「手続き? ……そんなのがいるのか?」

「はい。上司に辞職届出してきますねー」

「え?」

動揺する俺をよそに、眼の前のエリサの姿が一瞬で消えた。



女神が戻ってくるまで、体感で一分もかからなかった。

「おまたせー。待ちましたぁー?」

「待ったって、おまえ……」

「もぉー。そこは、いま来たとこって言うところでしょー、一輝さん!」

こいつは、一体なにを言っているんだ?!


「思った以上に早かったでしょー」

「まあ、早かったけど……」

「この世界では時間の行き来って、かなり融通ゆうずうが効くんですよー。辞職届けの提出や、一連の業務の引き継ぎをしても、一瞬で戻ってこれるんです。すごいですねぇー」

動揺を隠せない俺に、エリサは一方的にまくしたてる。


「さあ、行きますよぉー」

エリサが俺の腕をとった。

「え? ちょっ……。まさか、おまえも来るのか?」

「当然じゃないですかー。ほら、ガチャで出た物をいれたバッグはおまけですよ」

エリサはにっこりと微笑んで、肩下げバッグを俺の肩にかけた。

「いきますよー。転移!」



☆☆☆



「よく来た。転移者たちよ」

王の重々しい言葉が、大きな部屋に響いた。

気づくと王座の間にいた。


異世界転移ものでよくある、勇者召喚のシーンだ。

どうやら、俺たちは、壇上の玉座に座っている王に召喚されたようだ。

俺以外にも、転移して来た者たちがいた。



魔法陣から呼び出されたのは、以下の5人たちだった。


・大城悠斗

・高田芽依

・黒髪ぱっつんの女子高生

・女神エリサ

・俺(丸田一輝)



「ここは一体どこなんだ?!」

大城が、大げさな身振りで周囲を見回す。


大城は、おそらく、web小説を読んだりするタイプじゃないんだろう。

お約束のナーロッパへの異世界転移がどういうものか、わかってないようだった。


王のかたわらにいた神官らしき老人が前にでた。

「ここは、アリタニアの王城、玉座の間じゃ。そして、あちらにおあそうお方が、アリタニア王レボデス12世陛下であらせられる」

玉座には、白髪、白ひげ、金色の王冠をかぶった、典型的な姿の王様が座っていた。

「わけがわからない。一体なにが起こっているんだ?」

動揺を抑えられないように、大城の声は上ずっている。


「魔王とその部下の魔物たちが猛威を振るっている。それらを打ち払えるのは、異世界から召喚された勇者パーティのみ」

王の言葉を神官が引き継いだ。

「そちらは、魔王を打ち倒すために召喚されたのじゃ」

「なんだって?!」

大城が目を見開いた。

「いきなりそんなことを言われても……。絶対、無理だよ。僕たちは、戦いのない平和な国から来たんだ。早く僕たちを、元の世界に返してくれ」

「それは無理じゃ。一度召喚されたら、魔王を倒すまで、元の世界に帰ることはできん」

神官が答えた。

「そんな……」

愕然がくぜんとなった大城の顔がひきつった。



「ともかく、まず職業クラスをチェックするので、順次、神官の前にでよ」

王が、言った。

人を一方的に呼びつけて、偉そうな態度なのが、ちょっとムカつく。

が、まあ、王ってこんなもんなんだろう。

玉座の間には、30人以上もの屈強な近衛兵が固めていて、俺たちが抵抗できるような雰囲気ではない。


指示されるまま、大城が最初に前にでた。

神官が水晶玉越しに大城を見た。

「なんと!」

神官が驚いたように声を上げる。

「最初に、賢者があらわれましたぞ!」

「おおーっ」

王様と近衛兵たちが一斉に驚きの声をもらした。

「それも、攻撃魔法、治癒魔法、各種バフなど、さまざまな魔法がつかえる大賢者ですぞ!」

「それは素晴らしい!」

神官の声に、王が声をあげた。


次に前に出たのは、新入社員の高田だった。

神官が水晶玉をのぞきこむ。

「おおーっ。これも素晴らしい。彼女は、剣聖の職業クラスを持っておりまする!」

再び、室内に驚きのどよめきがあがる。

「剣聖というのは、かなり珍しい職業クラスだったはず……」

「そのとおりですじゃ。数百万人に1人いるかどうかという、非常に珍しい職業クラスです」

王の言葉に神官が答えると、ふたたび、玉座の間に、「おおーっ」という声がどよめいた。


三人目に前にでたのは、女神エリサだった。

この女、女神の仕事を辞職して、この世界まで俺についてきてしまった。本当に、それでいいのだろうか?


「おおーっ」

ふたたび部屋にどよめきがおこった。


「大聖女さまじゃ。まさか……大聖女様の職業クラスが召喚されるとは。奇跡じゃ」

「そんなにめずらしい職業クラスなのか?」

神官の説明に、王様が質問した。

「はい……。普通、人間では大聖女の職業クラスになれないと伝えられております。おそらく彼女の先祖に神の血を引くものがいたかと……」

「それはすごい!」

玉座に座っていた王様が、興奮したように膝を打った。

いや、彼女は、女神そのものなんだが……


大聖女ってすごいのかもしれんが、元女神からしてみれば降格じゃないのかな?

よくわからんけど……


「次、立花沙織、前へ出よ」

セーラー服の美少女女子高生は、沙織という名前らしい。腰まであるロングくの黒髪をゆらしながら前にでた。

水晶玉を覗き込んだ瞬間、神官が目を輝かせる。

「おおーっ、ついに、ついに……。彼女が勇者様ですじゃ!」

「おおっ。勇者殿! ようこそ来られた」

 王の言葉とともに、今日何度目かの称賛のどよめきが起こった。



最後が俺だった。

「魔法使い……ですじゃ」

他の連中よりも、神官の声のトーンが低かった。

俺は、アタリの職業クラスじゃなかったようだ。

「そこまで気を落とさずとも大丈夫ですじゃ。勇者パーティに入れてもらえさえすれば、すぐにレベルが上がっていくはず」

神官が慰めるように言う。

別に、俺は気落ちしてなかったが。



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