第11話 イケメン、ホモゴブリンに襲われる【18禁な展開はマズイよ】その2

ニワトリは、

「コケコッコー」

と鳴く。


ウグイスは、

「ホーホケキョ」

と鳴く。


ホモゴブリンは、

「ウホッ!」「ケツアーナ!」「ヤラナイーカ!」

と鳴く。



ホモゴブリン4匹に同時に襲われて、前衛の剣士ジーンが後退しはじめる。


「大城殿! ヒールをくれ!」

盾での防戦一方になっているジーンが、大城の方を振り返って叫んだ。


「うっ」

大城の表情が固まる。


「どうした? 大城殿! ヒールが欲しい。このままでは、HPが……」

「すまない。MPがつきた……」

大城が、苦虫を噛みつぶしたように言った。


大城のパーティの弱点は明らかだった。

はっきり言って、大城のパーティは、かなり強い。

3人パーティとしての瞬間最大火力DPSは、そうとう高い。


しかし、大城のパーティは、ヒーラーがいない。もちろん、大城は、攻撃魔法と治癒魔法が使える。おまけに、一部のバフまで使えてしまう。


しかし、そのMPは一人分しかない。

大城がMPをバフや攻撃魔法に使いまくれば、治癒魔法のためのMPがすぐに無くなってしまうのだ。


長期戦になれば、MPがすぐになくなってしまうというのが、大城のパーティの弱点だった。



剣士ジーンが、4匹のホモゴブリンに四方から囲まれ圧倒される。前衛が崩れたら、いっきにパーティの戦列が崩壊するのはお約束だ。


近接戦闘になれば、圧倒的に不利になる弓使いのザックや、大賢者の大城もホモゴブリンに囲まれてしまう。


見てるうちに、たちまち、大城たち3人は、ホモゴブリンに取り押さえられてしまった。大城たちは、武器をとりあげられ、強制的に地面に這いつくばった状態にされる。


「ケツアーナ! ケツアーナ!」「ヤラナイーカ! ウホッ! ヤラナイーカ!」

ホモゴブリンたちが、野太い声で鳴き声を上げる。


「丸田様?」

横に立っていた村長が、俺に視線をよこした。


「面白そうだからそのまま見てようかなあ……」

俺は、ぼそっとつぶやいた。



「ぎゃあああっ」

複数のホモゴブリンに押さえつけられ、大城は完全に身動きがとれない状態になっていた。地面に這いつくばらされて、ズボンをずり降ろされている。


「一輝さん、ダメですよ。このままじゃあ、18禁シーンになっちゃいますよー!」

「うーん……」

「なに、悩んでるんですか。良い子たちも見てるんですよ!」

エリサが必死になっていう。


エリサが指さした方を見れば、いつのまにか家の中に避難するように言われた村の子供たちも、ゴブリンとの戦いの見物にでてきていた。


「あ……、あのメガネの人、ケツ毛はえてる」

「しかも、おしりに変な形のあざがあるね」

「顔はイケメンだけど、おしりの形はいまいちね」

大城の尻を見て、子供たちが口々に、言いたい放題に感想を、好き好きにまくしたてていた。


「助けてぇ……」

大城が情けない声で、ちらっとこっちを見た。

なんとなく俺は、反射的に視線をそらしてしまった。


「うぐぐっ……」

ズボンとパンツをずり降ろされて、ホモゴブリンに犯されそうな大城は、完全に泣きそうな顔になっている。


「だめです! だめです! このままじゃ、18禁展開へと一直線です!」

エリサの声が、さらに焦ったようになった。

「やっぱ、18禁展開はヤバイかあ……」

「当然ですよ」

「仕方ないなあ……。じゃあやるか……」

おもむろに、俺たちは戦闘にとりかかった。



沙織が、剣を振るうたび、ホモゴブリンが、たちどころに真っ二つになっていく。


「沙織ちゃん、ずるーい。わたしの分も残しといてー」

続いて、高田が両手剣をふるった。

高田が、蝶のように舞う。数体のホモゴブリンがたちどころに、ばたばたと倒れていた。


ホモゴブリンの数が少なくなったところで、俺も、呪文の完成に時間がかかるが強力な魔法を発動させた。

範囲攻撃のド派手な炎が巻き起こり、残ったホモゴブリンが、すべて一瞬に蒸発する。


いとも簡単にホモゴブリンを全滅させた俺たちに、村人たちが、驚きと称賛の目を向けてくる。

「おおっ。ゴブリンなど、お話にならないほど屈強なホモゴブリンを一瞬で」

「すごい。なんて圧倒的な戦いだ」

「本当に強い、ホモゴブリン相手にも圧勝できるパーティなんて、滅多にいないぞ!」



ゴブリンに襲われて、大怪我を負った村人たちに、村長たちが駆け寄った。

村人のひとりは、死にかけの虫の息だった。

「ううっ……。俺はもうだめだ。村長、母ちゃんをたのむ……」


死にかけの村人に、エリサが歩み寄る。

「痛いの痛いのとんでけー!」

「ん……?」

死にかけの壮絶そうぜつな顔をしていた村人の顔が、きょとんとなる。

怪我が完全に治っていた。


「母が魔素の毒にかかりまして、全身が黒ずんで痛み続ける呪いでして」

「大丈夫ですよ。痛いの痛いのとんでけー!」


「昨日風邪をひいて……」

「安心してくださいねー。ちちんぷいぷいのぷい~♪」


「数年前に斧の扱いを間違って、指を欠損してしまいまして」

「ぷいぷいのぷーい! はーい、これで元通り」



次々に村人たちを完治させていくエリサの治癒魔法を、じっと見守っていて村長が進み出てきた。

「わしのEDも治りますかのう? 歳をとってからすっかりごぶさたで……」

村長、おまえ……


大城のパーティメンバーの、ジーンとザックも怪我を治してもらう。


「女神様じゃ。本当の女神様じゃ」

「こんな綺麗なお姉さん、僕見たことないよー」

村長や、子どもたちも口々に言う。

「てへへへ……」

エリサが、照れたように苦笑いした。



そこに、横からぬぼっと、人影が現れた。

「す、すまないが僕の怪我も治してくれないか……」

現れたのは大城だった。


「いいですよー」

さすがは元女神だけある。エリサは大城にも分け隔てなく治癒魔法をかけてやるようだ。


「痛いの痛いのとんでけー! あれ……? あっ、MPがもうない……」

エリサが、自分のステータス画面を見ながら言った。

「ぐぬぬ……」

大城が唇を噛みしめた。



☆☆☆



もはや、村人たちが俺たちを見る目は、まるで神をあがめるような視線だった。

「ゴブリンを討伐してもらっただけでなく、まさか、怪我人どころか、病人まで完治してもらえるなんて……。ほんとうに……ほんとうに、ありがとうございました。これで村の連中も安心して暮らせますじゃ」

村長が頭をさげた。


「いやいや……。こちらこそありがとうございます。、あたたかいベッドをご提供いただいて感謝しますよ。昨夜はぐっすりと眠れました」

俺は答えた。



☆☆☆



「わーん。お姉ちゃん、行かないでぇ……。ずっとこの村にいてぇ」

エリサは子供たちに大人気だった。

「これこれ、丸田様たちが必要な人々が、世界には数多くいるのじゃ。引き止めてはならん」

村長が言った。


「ううっ……」

悲しむ子供の頭をエリサがなでてやる。

その優しそうな姿は、女神様のようだった。

まあ、本当に元女神様なんだけどな……



「なにもないところじゃが、また、近くにきたら、遠慮なくこの村に立ち寄ってくだされ」

「ああ……。そうさせてもらいますよ」

村長や村人たちに見送られて、俺たちは再び魔王討伐の旅にでた。


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