第18話 魔王軍四天王……


場所は、ハヤハヤ城内の作戦会議室だった。

4人の魔王軍幹部が集結していた。


テーブルについている4人の面子とは、


・魔人アークダヨ

・魔竜ワル

・吸血鬼のジャー

・妖鬼ムカツーク


である



いわゆる、魔王軍四天王というヤツだった。


「勇者パーティが大活躍しているという。しかも、民衆から大歓迎されているようだ」

四天王のリーダー格のアクダーヨが、いかめしく口を開いた。


「聞いておる。勇者パーティは、異世界からの召喚者というではないか」

「召喚者は、戦えば戦うほどレベルがあがって、どんどん強くなっていくと聞く。これは、早急な対策が必要だぞ」

ワルとジャーは、腕を組み、深刻な顔つきになっていた。


3人の仕草には、どこか重々しく厳格げんかくなものがあった。

これらの3人は、魔王軍四天王だった時期が長く、お互いの付き合いもあって、気心も知れていた。



そこに、場違いな軽いノリの声が1人。


「なんすかー、それ。別にそんなに深刻にならなくってもー……。なんとかなるっしょ。あはははー」

部屋に、軽薄な笑いが響いた。魔王軍四天王の中で一番若い、妖鬼ムカツークだった。


ムカツークは、行儀悪く片膝かたひざを立てたまま、椅子に座っている。上半身を前後に揺らして、落ち着きがない。


古参の3人は、ムカツークの態度に眉をひそめる。


ムカツークは魔王軍四天王の新入りだった。

一番の年長者だったまとめ役が高齢のために引退し、変わりに四天王の一員になったのだ。


「しかし、300年ほど前に、先代の魔王様が、異世界から召喚された勇者によって倒されたという、ぬぐえぬ事実がある」

「そうだ。歴史の教訓は忘れてはならぬ」

ワルの言葉を受けて、ジャーが続けた。


「そんなの関係ないっスよー。俺、歴史なんて興味ないし。はははー」

「関係ないとは、どういうことだ?」

アクダーヨが、ムカツークを睨みつけた。


「勇者なんて、俺にかかれば、ちょちょいのちょい、ってことっスよ。楽勝っス」

ムカツークは、あくまで軽いノリだ。


「ムカツーク、おまえは、事態の深刻さがわかっておらぬ。召喚者の恐ろしいところは、非常に早くレベルがあがり、どんどん強くなっていくところなのだぞ」

ムカツークのふてぶてしい態度に、アクダーヨの感情が刺激される。アクダーヨの額に、青筋が浮き上がった。


「なんでも、人間の村に潜入していた魔王軍幹部のグー・ウェンが、勇者パーティに簡単に正体を見破られ、たちどころに倒されてしまったというではないか」

「ワーウルフのグー・ウェンは、われわれ四天王には劣るとはいえ、かなりの強者だったのは事実。それを簡単に倒してしまった勇者パーティは、決してあなどれんぞ」

ジャーとワルの表情が、さらにきびしくなる。


「だったら、勇者たちのレベルがあがりきる前に倒すだけっス。簡単なもんっスよー。魔王軍しか勝たんっしょー」

ムカツークの言葉を聞いて、年長組の3人が、意味ありげに互いに目配せしあった。


……しばらくして、四天王リーダー格のアクダーヨが口を開いた。

「ムカツークよ、それだけ言うのなら、おまえには、勇者パーティを確実に倒せる自信はあるのだろうな?」

「当然っス」

「では、おまえに勇者パーティの討伐を任せるとしよう。正式な命令は魔王様から出していただくことになるが、そう進言しておく。よいな?」

「いいっスよー。……ふわああっ」

言って、ムカツークが、大きなアクビをした。


「重要な会議の途中で、大きなアクビとは、不謹慎ではないか」

ジャーが、ムカツークをとがめるように言う。


「仕方ないっス。昨晩、夜遅くまで彼女と部屋で飲みながら、ずっとイチャイチャしてたんでぇ……。どちゃくそ眠いんスよー。ふあああ……」

ムカツークは、さらに遠慮なしに、2度めの大きなアクビをした。


イラッとなった四天王の残りの3人の額が、ピクピクとひきつっていた。


「今回の会議では、勇者を俺が倒すってことでいいスね。では、結論が出たってことでー。俺は、ちょっと寝てくるっス。あざしたー。おつかれー」


ムカツークは、椅子から立ち上がると、ひらひらと手を振って、会議室を出ていった。



残された3人は、イラツキを隠そうともしない。

「魔王様の姉への寵愛を良いことに、やりたい放題だな」

ジャーが、額をこわばらせながら舌打ちする。


ムカツークの姉は、現在、魔王が寵愛している美女だった。


そのため、弟のムカツークが、実績や実力がともなわないにもかかわらず、重職じゅうしょくである魔王軍四天王に抜擢ばってきされたのだ。


あからさまなコネ人事だった。


「まあ、よいわ。ムカツークの戦闘力は、我ら四天王の中でも最弱」

「それも、最弱なだけでなく、我ら3人とは、戦闘力でかなりの差がある」

「そのとおりだ。ムカツークの戦闘力は、倒されたワーウルフのグー・ウェンよりも、少し勝ってる程度だ。グー・ウェンをいとも簡単に倒した勇者パーティに立ち向かえば、亡き者になるのはムカツークの方だろう……」

ジャー、ワル、アクダーヨの3人が、悪巧みに口元をゆがめながら微笑んだ。


3人の考えは一致していた。


3人は、ムカツークのことを、殺したいほどに、にくんでいた。


しかし、ムカツークは、魔王様の寵姫の弟だから、四天王といえど直接手を下すわけにはいかない。

だが、勇者パーティと戦って戦死したとなれば、四天王の手を汚さずに、ムカツークを始末できるというわけだ。


勇者パーティの急速な成長は、懸念けねん材料だが、まずはムカツークの始末である。

勇者パーティの討伐は、その後でするつもりだった。


「「「クククク……」」」

3人の口から、押し殺した笑い声がもれた。



「ムカツーク、お手並み拝見といこうか……」

アクダーヨは、満足げに言った。


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