第19話 イケメンと勇者の村



一般の冒険者を装った5人の人影が、平原を進んでいく。

大城のパーティだった。


王都を出て数日、大城たちは、人類が支配する領地の北端近くまで来ていた。


数km以上離れたところに、山のふもとが見えた。

やや左手には、巨大な山城であるハヤハヤ城の姿がかすみにまぎれて見て取れた。


王国軍が3度の大攻勢をかけても、びくともしなかった天下の堅城である。


さらに進む。

やがて、視界に小さな村の姿が入ってきた。


「いよいよ明日から、魔王領の山道に分け入ることになる。任務を果たすまでは、最後の人類の村となる。十分に休養して、少しでも旅の疲れをとってくれ」

大城が説明すると、パーティメンバーの表情が引き締まった。


大城たち一行が、村に入る。


最初に気づいたのが、村人たちによる冷たい態度だった。たんに冷たいだけでなく、嫌悪のこもった刺さるような視線を投げられる。


「どういうことだ?」

大城たちは、村人たちの態度に首をかしげた。


村の宿屋で部屋を予約しようとすると、相場の3倍以上の値段を提示された。

「高いな……」

「場所が場所ですので……。しかし、旦那様方なら、それほどの金額ではないでしょう」

大城の言葉に、宿の店長がみ手で答えた。


このときの大城のパーティは、一般冒険者をよそおっていた。

しかし、装備品などは、国王から直々に貸し出された国宝級の品々である。


武具の外見だけ見ても、明らかに一般の冒険者のものとは、なんとなく違っていて、高価そうなのは素人目にもわかった。

宿の店長も、それを感じ取ったのだろう。大城たちが金を持っていると判断したのか、やたら愛想笑いをしてくる。


「人の足元を見やがって……」

大城は舌打ちしたが、村でまともに泊まれそうなところは、この宿しかない。仕方なく部屋を予約して、酒場のテーブルの一つに座る。


パーティメンバーが、大城に続いて、席についた。


大城のパーティは、現在、以下の5人編成である。


・大賢者、大城

・剣士、ジーン

・弓使い、ザック

・盾使い、アンドレ

・斧使い、オールトス




「おい、店主、酒をよこせ。肴も、多めにもってこい……」

弓使いのザックが声をかける。


「はいはい。ただちに……」

大城たちを上客だと見込んだ店主は、ぺこぺこと頭を下げて調理室に下がり、料理人に注文を伝えた。



そこに、ひとりの男が入ってきた。


老人である。

この村の村長だった。


村長が、酒場のテーブルについていた大城たちに気づく。装備の整った大城たちだったが、村長は、他の冒険者たちと同じように、つきはなすような軽蔑の目を向けた。


「ふんっ。ここはいつきても、最悪の雰囲気じゃのう。あいかわらず、気分が悪くなるわ」


大城たちをみて、村長は、嫌悪感を隠そうともしなかった。


「また、チンピラ冒険者か……。呼びもせんのに次々に来おって。クズどもが……」

村長が、チッと、吐き捨てるように言った。


村長は、さすがに冒険者に聞こえないよう、独り言のように小声で言っただけだ。

しかし、大城は地獄耳だった。


「なんだと?」

けわしい表情になった大城が、立ち上がる。


エリート街道を歩んできた大城は、転移前の世界では、人からけなされることなど滅多になかった。そのため、煽り耐性が低い。すぐに感情的になりがちだ。


「おい、大城殿……」

隣に座っていたジーンが、大城のマントの裾をひっぱって、座らせようとする。


大城たちのパーティは、極めて重要な任務を担わされていた。その任務とは、難攻不落の堅城、ハヤハヤ城に動力を提供している、『ヴィ・ダンジョンの攻略』である。

第4次ハヤハヤ城攻略作戦で、欠くことができない特殊作戦であった。


作戦が作戦だけに、目立つのはよくない。


速度重視の少人数編成での隠密作戦が、魔王軍にバレてしまっては、すべてがだいなしだ。行動がばれてしまい、妨害のための戦力が投入されれば、少人数編成の大城のパーティでは対応できなくなってしまう。


「大城殿、ここは抑えてくれ……」

大城は感情的になりがちな性格だが、馬鹿ではない。特殊作戦が極めて重要なのは、わかっている。


「言葉に、気をつけるんだな、ジジイ」

顔をこばらせていた大城は、怒りを飲み込んで、再び席についた。


「ふんっ」

村長は鼻をならし、カウンターの方へと歩いて行く。



「糞パーティめ。真の勇者パーティとは、大違いじゃ」

十分な距離を取って、とても聞こえないような距離から、村長は小声でつぶやいた。


しかし、実は、大城はただの地獄耳ではなく、超がつくほどの地獄耳だった。

距離をとってからの小声でも、大城には聞こえてしまうのだ。


特に『真の勇者パーティとは、大違い』という言葉が、大城の胸に、グサッと、つき刺さった。

大城が激怒するツボを、ピンポイントでついていた。


「『勇者パーティ』とは違うだと……?」

怒りに震え声になった大城が、勢いよく立ち上がる。

「このパーティこそが、真の『元祖・勇者パーティ』だ!」

「大城殿! 冷静になるんだ」

感情をかき乱されて声が高くなった大城を、ジーンが押しとどめようとする。


売り言葉に買い言葉……。村長も感情的になる。

「真の勇者パーティですとぉー? やれやれ」村長が、肩をすくめた。「そういった、偽物のパーティが、これまでどれだけこの村に来たことか……」

「断じて、偽物などではなーい!」

ジーンの制止を聞かず、大城が声をあげる。

「この我らこそが、真の元祖・勇者パーティだぁーっ!」


「ふんっ。ならば、真の勇者パーティかどうか、証明してもらいましょうかのぉ……」

村長が、大城を煽って、見下すように言った。

「証明だと?!」

「そのとおりじゃ。ほこらに刺さっている勇者の剣を抜くことができれば、真の勇者であることが証明できる。簡単なことじゃのう……」


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