第20話 イケメンの誤算 その2




「実は……この村には、約300年ほどの間、代々伝えられてきた伝説の宝剣がありましてなあ……」

「ほう。こんな辺鄙へんぴな貧乏村にそんなものがあるのか? そんな宝剣こそ僕こそふさわしい。すぐに案内しろ」

村をけなす大城の言葉に村長が嫌な顔をする。


それでも、大人な村長は、宝剣のあるところまで、大城たちを案内していった。


ほこらの中の巨大な岩には、『勇者の剣』が1本、ささっていた。

数日前まで、2本あったのだが、1本は本物の勇者が抜いて、持っていったのだ。


「これが伝説の宝剣ですじゃ」

「片手剣のようだな」

村長の言葉に大城が答える。


「そのとおりですじゃ。これが非常に重たい謎の物質でできておりましてのう。一般人ではとても使いこなせないという伝説の剣なのですじゃ」

「これがそんなに重たいのか? 一見、なんの変哲もない剣に見えるが……」

「はい。これを持ち上げることができるのは、選ばれた勇者のみですじゃ」


「なるほど、ならば、これこそ僕にふさわしい宝剣といえよう」

大城が前にでて、勇者の剣の柄を握る。


大城の腕に力が入る。


「ぐぬぬ……」

持ち上げようとして、大城の動きが止まった。

「どうかされましたか、大城殿? 真の勇者様なら、まるで羽のように軽々と持ち上がるはずですが……?」

村長が、含みをもったような言い方でたずねた。


「いや……、ちょっと待て」

大城は、スーっと深呼吸してから、再び剣を抜く腕に力を込める。

「ぐぬぬぬぬ…………」


しかし、剣は微動だにしない。


勇者の剣を持ち上げようとして、大城がジタバタもがいている。


「ぐぬぬぬぬぬぬ……」

さらに顔を真赤にして、大城がもがく。


……やがて、


「ふわぁ……」

大城の全身から力が抜けた。

どうやら疲れたらしい。


「やっぱり持ちあがりませんでしたかのう」

「まったく、そんなことはなーいっ!」

もはや完全に軽蔑するようなジト目になった村長が、大城の背中に声をかける。大城は力いっぱい否定して再び全身に力を入れた。

「ぐぬぬぬぬぬぬ……」


……

……

……


「ゼーハー、ゼーハー、ゼーハー……」

剣を持ち上げようとあまりに頑張りすぎて、大城は地面に這いつくばって息を荒らげていた。大城がいくら力を入れようと勇者の剣は、微動だにしなかった。


大城が、責めるように村長をにらみつけた。

「とんだ嘘つきめ。これは、ただの非常に重たい物質でつくられただけの物体だ。つまり、村に伝わっていた伝説は全て嘘ということだ」

「やっぱり、そうですかのう……。なにせ何百年もの昔から伝えられてきた話しですからのう。選ばれた勇者だけが持ち上げられると伝えられてきた宝剣ですが、嘘だとしたら、申し訳ないことをしましたのう」

「村長よ、おまえの言うとおり伝説は嘘だ。とんだ骨折り損をさせやがって」

「……でも、この剣には不思議なところがありましてな。かなり年代が経っているのに、まるでずっと新品のように見えますのじゃ。傷つけようとするものもいましたが、決して傷がつきませんのじゃ」

たしかに、ほこらに安置された剣は、みるからにピカピカでくもりひとつなく、新品に見える。とても約300年も、安置されていた古い剣には見えない。


「しかもですじゃ」

さらに、村長は畳みかけた。


「元々、剣は2本ありましての。つい数日前に、真の勇者様が1本を抜かれて、持っていかれたところですじゃ」

「…………」

村長の言葉に、言い返せない大城が口ごもる。


「偽物ー!」

「パチもん勇者ー!」

不意に、大城と村長たちの周囲で声が上がった。

大城が顔をあげると、いつの間にか、村人や、その子どもたちがやってきて大城たちを遠巻きに取り囲んでいた。


彼らは、大城が剣を抜こうとするところを、ずっと見物していたのだ。



「ちがーう! この私のパーティこそが、真の『元祖・勇者パーティ』だ!」

大城が立ち上がり、大声で力説する。


「では、どうして、あなたには、勇者の剣が抜けないのですかのう?」

村長が、煽るようにジト目で言った。


「そ、それは……」

大城が慌てたように取り繕う。

「ぼ、僕は魔法系の人間だ。つまり、僕がすぐれた剣を手に入れても、あまり意味はないからな。だから、わざと持ち上げなかったのだ。わははは……」

「その宝剣は、物理攻撃力だけでなく、S級冒険者が使用するような国宝級の杖や魔導書以上に、魔法力が向上すると伝えられておりますじゃ」

ジト目の村長が、ため息をつき、大城の逃げ道を塞いでいく。


「エセ勇者!」

「パチもーん!」

「偽物は出ていけーっ!」

大城たちを取り囲む村人たちの避難の声が、さらに大きくなっていく。

この村では、元から冒険者たちへの評価は悪かった。数日前に訪れた、『真の勇者パーティ』をのぞいては……


「この村の伝説の剣を求めて、自称『勇者』のドクズな嘘つき冒険者は大量にやってきましたがのう。しかし、まさか、数日前に、こんな片田舎の小さな村に、本物の勇者様が来ていただけるなんて思いもしませんでしたじゃ」

大城にアテつけるように、村長が話をする。

「しかも、勇者様のパーティだけあって、魔素の毒を治癒魔法で治すという軌跡きせきをなされてのう……。やはり、本物は、どこぞの口だけ達者な銀縁メガネとは違いますのう……」


「お……、俺だって治癒魔法くらい使えるぞ!」

大城が精一杯言い返す。


と、そこへ。


「村長、やられちまった。森で魔素の毒にかかっちまった……」

村人の若者が、近寄ってきた。


「むむ……。これはやられちまったのう。真の勇者様のパーティの方々さえいらっしゃれば……」

若者を見た村長が眉をひそめた。

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