第21話 イケメンの誤算 その3



「大丈夫だ。大船に乗った気で安心しろ!」

2人に大城が割って入る。毎度のように謎の自信に満ちる大城。

「魔素の毒など、この真の『元祖・勇者パーティ』のリーダーたる、この大城が、みごとに治してやろうではないか。わははは……」

大城は高らかに笑って、若者に治癒魔法をかける。


しかし、治癒魔法でも難易度に差がある。特に大聖女は治癒系の魔法に特化した最高位の職業クラスであり、大聖女エリサほどの高難度の治癒魔法は、他の職業クラスでは使えない。大城も、エリサほどの治癒魔法は使えなかった。


当然だが、魔素の毒は治らなかった。


それを見た、村人たちの態度は、わかりやすかった。

「エセ勇者!」

「詐欺師メガネー!」

「村から出ていけー!」

村人たちの声が大きくなり、さらに子どもたちが大城たちパーティに小石を投げはじめた。

「いんちきーっ!」

「嘘つきー!」

「ニセモノーっ!」



子どもたちによる小石の攻撃が、大城たちのパーティにふりかかる。

「や、やめろ! 痛っ! こらっ、やめないかーっ! 痛いっ、痛いって!」

石が当たった額から血を流しながら、大城が叫んだ。


(このままではマズイ……。どうすれば? なんとしても、僕が真の『元祖・勇者パーティ』のリーダーであることを、思い知らせてやりたい……)


大城は、突然ひらめいた。


(そうだ!)


王の紋章入りの『身分証明プレート』を持っていたのを思い出す。それは、国王から、丸田たちのパーティに渡すようにと言われていたものだった。


「ええいっ。ひかえー。ひかえー」

それまで、石を避けるように身体を丸めていた大城の態度が、突然高飛車なものになる。

「こちらにおわそう、この僕をどなたと心得る。おそれおおくも、『元祖・勇者パーティ』のリーダー、大城様にあらせられるぞおーっ!」

大城が取り出した身分証明プレートには、まぎれもない王の紋章である『黄金の四葉のクローバー』が刻まれていた。



プレートには次のように書いてあった。


《勇者パーティ》

この者たちが、真の勇者パーティであることを保証する

アリタニア国王 レボデス12世



王の紋章を持つことができるのは、王本人と、その使命を帯びた代理人のみ。王の紋章を持つものの言葉は、国王本人の言葉と同様に重い。


「下賤な村人どもめ! 頭が高ーい! ひかえおろう!」

大城の声がいっそう強まり、村人たちに迫った。

王の紋章に対しての敬意を欠いた言動は、法律で死罪と決まっていた。


「ははーっ」

王の紋章を出されては、村人たちも地面に手をつき、頭を下げるしかない。

仕方なく、村長も同じように地面に手をつき、頭をさげていた。それまでの経緯に納得のいかないものはあったが……


自分の周囲に集まっていた村人たちが、全員、地面に手をついているのを見て、大城は満足な顔になる。ただし、石をぶつけられた後なので、その頭にはいくつものタンコブができ、顔は醜く腫れ、頬は内出血で青白くなり、額からは血が流れていたが……。


「がーはははっ。見たかーっ! これで、この僕が、真の『元祖・勇者パーティ』リーダーであることを思い知っただろう! うわーはははっ。うわーははははは!」

尊大な態度で高らかに笑う大城の服の裾をジーンが引っ張る。


「大城殿、その身分証明プレートは丸田殿のパーティのものだ。ここでだすのは、よくないぞ」

ジーンが小声で忠告した。


ジーンの心配はもっともだった。王の紋章の乱用は、まぎれもない重罪である。

が、その声は大城には届かない。


「どうだ、みたかーっ! 僕に対する、これまでの不敬を謝ればよし。断固、謝らないというのなら、遠慮なく無礼討ちにするぞぉーっ! わーははははっ!」


あまりもの大城の酷い態度に、残りのパーティメンバーであるザックや、アンドレ、オールトスも、ドン引きして、冷ややかな視線を送っていた。



☆☆☆



「こちらは、村の近くの森でとれる、特産物の果物です」

「こちらは、村で育てていた北方牛の肉でございます」

「こちらは、村、秘蔵の酒でございます」

大城たちの歓迎の宴が村で開催されていた。



村の広場にすえられたテーブルに、大城たちのパーティメンバーが座り、そこに、どんどんごちそうが運ばれてきた。


「うはははーっ。僕たちは、もっと大量に食えるぞ! これでは少ない。もっと、じゃんじゃんもってこい。あと、若くてきれいな女はいないのか? がーははははっ!」

作戦行動中の旅で、粗末な食事を強いられていた大城は、有頂天だった。


貧乏な村人たちは、なんでもとりあげる腐敗した役人から隠していた秘蔵の品を、つぎつぎに大城たちに差し出していた。


村長としては、納得のいかないものが多かったが、王の紋章をだされては、どうしようもない。


「ガハハハーッ! 見たか。これが真の『元祖・勇者パーティ』リーダーの威光というものだあーっ!」


大城が、愉快そうに高らかな声をあげたときだった。



どげしーーーっ☆!!!



魔王軍四天王の1人であるムカツークの膝蹴りが、見事、大城の頬に命中した。

大城の身体が、風に吹かれたゴミクズのようにクルクルと舞って、数メートルも吹っ飛んでいった。


「くくく……! ついに、勇者パーティを見つけたっスよ! こんな近くにいるとは思わなかったス」

「誰だ、きさまは?」

ザックが剣の柄に手をかけながら言った。

「俺は、魔王軍大幹部、四天王の1人、ムカツークっス! 覚悟するっす!」


地面に倒れ込んだ大城を見下しながら、ムカツークが自信満々に叫んだ。


ムカツークの膝蹴りで、大城の顔は村の子供たちに小石を投げられたときよりも、さらに醜くれあがっていた。


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