第22話 イケメン vs 魔王軍四天王



魔王軍大幹部、ムカツークの突然の登場に、大城のパーティの残りの4人が、テーブルから立ち上がった。


・剣士、ジーン

・弓使い、ザック

・盾使い、アンドレ

・斧使い、オールトス


それぞれが、王国内だけでなく、他国にまで名のしれた歴戦の戦士たちである。


「不意打ちとは卑怯だぞ!」

大城が殴らて腫れた頬を手で抑えながら、立ち上がった。


「関係ないっス。魔王軍の城から大して離れてないところで、自分たちのことを『勇者パーティ』と大声で何度も連呼している奴が悪いっス。キャハハハハ……」

ムカツークが、大城を見下げるように笑い声を上げる


ムカツークの主張は、あまりにも当然だったが……

「なんだとぉー……」

大城の心には届かなかった。


「勇者パーティ、おまえたちの発言は、自分のことを攻撃してくれと言ってるのと同じっス。馬鹿っス」

((((自分のことを勇者パーティと自称しているのは、大城だけだ! 一緒にすんな!))))

大城をのぞく、残りのパーティ・メンバー4人が、同時に心の中でツッコミを入れた。


爆炎砲火ファイアーキャノン!」

煽られて感情的になった大城が魔法を発動する。業火がムカツークに襲いかかった。


しかし、ムカツークは、軽く手を横薙よこなぎに払っただけだった。それだけで、炎の塊が、煙のように消えてしまう。

「なにぃ?!」

「そんな攻撃、効かないっスよー」


「……じゃあ、死んでもらうっス!」

ムカツークがジャンプして、大城との間合いを一気につめる。


「物理防御向上!」

盾使いのアンドレが、自バフ・スキルを発動しながら、立ちふさがった。


金属を打ちつけるような大きな音がなった。


ムカツークの爪を、アンドレの盾が、真っ向から受け止めていた。


アンドレが持っていたのは、今回の特別作戦用に国王から臨時に貸し出された『アイギスの盾』だった。王家に代々伝わってきた国宝級の一品だ。


「ヘイト管理、挑発!」

アンドレが、盾使いのスキルを畳みかける。


スキルは、ムカツークに効いたようだった。


「腹のたつ野郎っスね! そんな盾で、俺の攻撃を防ぐのは無理っス!」


ムカツークの鋭い指の爪がアンドレに襲いかかった。

ムカツークの爪は、いとも簡単に盾を貫通する。

「ぐうわっ」

アンドレの胸を覆っていた国宝級のフルプレートの鎧が、かろうじてムカツークの攻撃を和らげ、アンドレが即死することを防いだ。しかし、きわめて重い一撃だった。

アンドレの体は跳ね飛ばされていた。


「くうっ……」

かろうじて致命傷ではなかったものの、地面に倒れ込んだアンドレはかなりのダメージを負っているようだった。


盾役タンカーが、盾で防いであれか……。こりゃ、ヤバイぜ……」

ジーンは、チィ……と舌をならした。


剣士ジーン、弓使いザック、斧使いオールトスが、ほぼ同時にムカツークを攻撃する。


「甘いっス」

ムカツークは、ザックが放った矢を、あっさりと手で払うと、右の前腕部でジーン剣を、左の前腕部でオールトスの斧を受け止めた。


「馬鹿な……、防具もなしに、生身の腕で国宝級の武器を受け止めただと?!」

オールトスの眉が、驚きで跳ねあがった。


「こいつの腕……、古龍こりゅううろこみたいに硬いぞ……」

ジーンが眉間に皺を寄せる。


「おまえら程度の攻撃なんて、効かないっスよ!」

ムカツークが、右手をジーン、左手をオールトス、と同時に手のひらをむける。


空気爆破バースト!」

唱えると、ムカツークの手のひらから、猛烈な空気の爆発が発生した。


「「ぐおっ」」

ジーンとオールトスの体が、ピンポン玉のように左右に吹っ飛んだ。


落下の衝撃で、地面に体を打ちつけられる。

「このダメージはマズイ……」

ジーンがうなった。


ジーンが受けたダメージは、致命傷レベルだった。

即座に回復しなければ、命を落としてしまう。


「大城殿……、ヒールを……くれ!」

体の痛みをこらえて、ジーンがかすれる声で叫ぶ。


「ファイヤーアロー! 冷気凝固コールド・ロック! ブリザード!」

見れば大城は、次々に、攻撃呪文を放っている。その意識はムカツークにしか、いっていない。


緊張感のある戦闘になると、大城は視野が狭くなり、パーティ全体が見えなくなるという欠点があった。特に攻撃魔法を連続でぶっぱなしすぎて、すぐにMPがなくなってしまう傾向が強かった。


「くぅ……」

ジーンが、苦悶くもんの声をもらす。仕方なく、腰のポーチに手を伸ばした。ポーチには高級回復薬の瓶が3本ほど入っている。

王都のような大きな都市でしか手に入らない、極めて貴重なアイテムだった。かさばるので、それほど多くは持ってこれていない。


本来なら、今回の任務であるヴィ・ダンジョンのアタック時に使うつもりだった数の限られたアイテムである。

しかし、背に腹は買えられない。

ジーンは、回復薬を口にして立ち上がった。


そのとき、ムカツークがニヤリと笑った。

「雷落とし《ライトニング・ストライク》!」

それは周囲一体に、雨のように電撃を落とす範囲魔法だ。


「いかん!」

ジーンが叫んだ!


「対魔法障壁!」

とっさに大城が、自分の頭上にのみ、魔法防御の壁を展開した。


ムカツークを中心に、周囲30メートルほどの半径で、電撃が雨のように落ちた。


「「「「ぐわあああっ」」」」

大谷を除いた、パーティ4人が苦しみの叫びをあげる。


……それが、ジーン、ザック、アンドレ、オールトスの最後の言葉だった。


次の瞬間、四人の体は全身黒焦げの遺体となって、地面に転がっていた。


生き残れたのは、対魔法障壁を展開できた大城のみ。


大城のパーティは、大城1人を残して、全滅していた。


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