第38話 現代日本への帰還


本来、自分のものだった2対の神剣をとられて、魔王の顔は明らかにあせっていた。


「くううぅ……」

魔王は、くやしそうに歯噛みしてから叫んだ。「いでよ、わが眷属たちよ!」


地面から大量の魔物たちが現れた。


スケルトン、リッチ、ゴースト、ゾンビ、デュラハン……


全部、アンデッド系のようだ。


さすが魔王だけある。眷属召喚できる数がすごい。300くらいいるだろうか……。


沙織、高田が戦闘に参加した。一方的に次々に倒していく。エリサもアンデッド相手なら、特効をもつ浄化スキルで、大ダメージを与えられる。


目に見えて、次々にアンデッドたちが減っていく。


「くっ……、これならどうだ?」

魔王がさらに眷属召喚の呪文を唱えた。


ドラゴン・ゾンビが同時に約20体ほどあらわれた。


ドラゴン・ゾンビは、1匹でさえ上級者パーティでもかなり手こずる強敵だ。


「旦那さま、ここは、どかんとかっこいいスキルを放つのじゃ!」

肩に乗ったままのハヤハヤが楽しそうに言う。


「スキル……っていっても」


ステータスウインドウは、頭の中で思い浮かべるだけで操作できる。


スキルのタブを開くと、とんでもない数の剣術スキルが、ずらずらとでてきた。


スキル名をみれば、剣術系のスキルだとなんとなくわかるが、具体的にどういうスキルなのか、全くわからない。


スキル名の横に消費MPと、攻撃対象が【単体】か、【複数】かが書かれてある。


消費MPが一番大きな、【対象 複数】のスキルを選んだ。


『大破壊斬り《ギガンティック・スラッシュ》!』


俺の身体が勝手に動いて、持っていた2対の剣が振り下ろされる。

とんでもない風圧が巻き起こった。


超高密度の風が空気の刃となって、ドラゴン・ゾンビを切り裂く。


「な……」


びっくりしたのは技をだした俺の方だった。


1匹でも倒すのに手こずるはずのドラゴンゾンビが、まとめて20体ほど、一瞬で切り裂かれて動かなくなっていた。


「なんだよ、このチート・スキル。火力高すぎだろ……」


呆然としながら、ふと顔をあげると魔王と目があった。


「…………」

「…………」


一瞬、なんか気まずい間が生まれる。



先に口を開いたのは魔王のほうだった。

「くっ……。いくら、おまえが神剣を持っていようと、我は魔王。下等な人類になど負けはせんわ!」


見ていると、魔王の右手に新しい片手剣が現れた。


「この剣は、神剣にも次ぐ能力を持つといわれる、『プラネットスレイヤー』だ。この剣さえあれば、お前などには負けぬ。ぐおおおおおっ」

言って、魔王が全身に力をめている。

すごい圧力を感じた。


こうなれば、もうやるしかない。


俺と魔王が真っ向から斬りあう。


2人の影が交差した。


勝負は一瞬だった。



「ぐおおおおっ」

致命傷を負って、倒れたのは魔王のほうだ。


「人間ごときに、我を倒すものが現れるとは……。口惜しや……。ぐふっ」

魔王が絶命した。


「魔王を一撃とは、さすが一輝さんです!」

「丸田せんぱい、超すごいーですぅ!」

「丸田さん、さすが。わたし、全然かなわないよー」

「わしの旦那さまなら、これくらい当然なのじゃ!」



「それにしても、なんか、あまりにもあっけなくない? ラスボス戦だぞ……」

俺が、ちょっととまどいながら頭をく。


《魔王を討伐しました》

例の謎の声が空中から聞こえてきた。


そして、眼の前に、ウインドウが浮かびあがった。




元の世界に帰りますか?


・はい

・いいえ

(いいえを選んだとしても、後でいつでも、はいを選択しなおすことができます)



「元の世界に帰れるっぽいけど、どうする?」

俺は、背後にいた、エリサたちにたずねた。


「はやく帰って、日本のおいしいの食べたいよー」

と、沙織。


「もう、『あつまれモンスターの森』の新作がでてるはずですぅ。はやく日本に帰ってやりたいですぅ」

意外にも、かなりのゲーム好きである高田が言った。


「おまえはどうする?」

俺がエリサの方を向いてたずねた。


「わたしは、一輝さんの行きたいところならどこでもついていきますよー」

「わしもついてくのじゃー」

エリサにつづいて、ハヤハヤが言う。


まあ、俺もPCとネットとエロゲのある現代日本に戻りたい。


戻ったら、エリサやハヤハヤの戸籍取得の手続きとか、いろいろ面倒くさそうだが……、まあなんとかなるだろう。


「じゃあ、日本に戻るか……」

俺は軽い口調で言った。


「王様に挨拶しなくていいんですか?」

と、エリサ。


「別に、もう会うこともないだろうし、向こうが俺たちの承認なしに、勝手にこっちの世界に召喚したんだから、こっちも勝手に帰っていいだろう……」




元の世界に帰りますか?


・はい

・いいえ



俺は、ウインドウに表示された『はい』のボタンを押していた。

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