第37話 対魔王 最終戦


「ハヤハヤの大砲の威力すげーな」

俺は感嘆かんたんの声をもらした。


「あたりまえなのじゃ。あれくらい、お茶の子さいさいなのじゃ!」

ハヤハヤは、俺に抱きつきながら得意げに笑った。


魔王城は徹底的に破壊されていた。


魔王城と砲撃戦をおこなった、ハヤハヤ城は、まったくの無傷だった。


ハヤハヤ城も魔法城から攻撃を受けたが、エリサが展開した最上位の防御障壁を破ることができなかったのだ。

「あー、ハヤハヤちゃんだけずるいです。わたしもほめてくださいっ!」

エリサも俺に抱きついてくる。


「それより、魔王を倒さないと。急ぐぞ!」


俺がエリサを振り払った。


「あーん」

エリサは不満そうな顔をしながらも、俺についてきた。



☆☆☆



そいつは、魔王城の前で仁王立ちしていた。


漂う気配から、なんとなく、これまでにない圧倒的な強さなのがうかがえた。


「あんたが魔王か?」


「そうだ……」

男は答えた。


魔王は、ゆうに身長2メートルはあった。ほれぼれするような筋肉質の体型だ。


「なあ、よかったら、俺たちを元いた世界に戻す方法とか知ってないか? 知ってるなら、あんたを殺さなくてもいいんだが……」

俺はたずねた。


「おろかな……。魔王を倒すために召喚されたものは、魔王を倒せばもと来た場所に帰ることができるのが道理。元の世界に帰りたくば、力づくで、を倒すがいい!」


「あー、やっぱりそうなっちゃうわけね」

俺は、やれやれと肩をすくめた。


「魔王城は破壊され、が愛する寵姫も宰相エラインダも砲撃で死んだ。魔王軍四天王を含め、みな、おまえたちに殺されたのだ」

「つまり、俺たちの命を奪いたいと?」

「言うまでもない」


「じゃあ、こっちからいくよ!」

沙織が飛びかかった。


「遅い」

魔王が沙織の攻撃を素手のまま払う。


沙織の身体が後方へふっとんだ。かるく飛ばされたように見えたが、HPが8割以上減っていた。

すかさず、エリサが治癒魔法をかけた。


「じゃあ、2人同時に行こうかぁー」

沙織が立ち上がったのを見て、高田が魔王に斬撃をはなった。


沙織と高田の連続攻撃が次々に魔王を襲う。2人は、自慢のスキルを放ちまくった。


「すばらしい連携だ。……だが手ぬるい!」

魔王は、まったく余裕よゆうの表情だった。


ぶんっ、と魔王が横薙よこなぎに手を振る。空気を切り裂くような甲高かんだかい音がなった。たったそれだけで、沙織と高田の身体が、ピンポン玉のようにふっとんでいく。


圧倒的な強さだった。


2人にエリサの治癒魔法が飛ぶ。


「くうっ……」

沙織は悔しそうに歯噛はがみしている。地面に剣をつきたてながら、悔しそうに立ちあがった。

高田も、のろのろと立ちあがる。


「どうした? は、まだスキルを使ってないどころか、武器さえ持っていないのだぞ」


「たしかに、動きは速い。でも、なんとか、攻撃を当てることさえできれば……」

沙織がつぶやいた。


「なるほど。では、やってみるがいい」

魔王が見下すように嘲笑ちょうしょうする。


「なにをっ!」

怒りを強めた沙織の剣先が、魔王の側頭部へとびた。


次の瞬間、沙織の顔が驚きで固まる。


「ばかな……」

沙織の声が震えている。


魔王は沙織の剣を避けようともしなかった。魔王の側頭部が、沙織の剣をもろに受けとめていた。


しかし、魔王の身体はびくともしない。


「どうした。まったく、ダメージが入っていないぞ」

魔王が、沙織を見下すように言った。


「沙織さがれ!」

魔王の強力な反撃の気配に、俺は完成させた呪文を放った。今では、パーティで一番強力な貫通攻撃力を持っているのは俺だ。


徹甲魔炎弾アーマー・ペネトレイト!」


ビームのような細い火炎が俺の杖先からでて、一直線に魔王へと飛んでいく。


「くうっ……」

魔王の顔が、ゆがんだ。


俺の攻撃が魔王の肩を貫通していた。


しかし、すぐに魔王の表情は立ち直る。

「ふっ。余の身体を貫くとは、なかなかの攻撃力だな」


魔王は、余裕を見せて、ニヤリと笑った。


「ハヤハヤ、連射いくぞ!」

「わかったのじゃ!」


すばやく、俺がハヤハヤを肩車する。


徹甲魔炎弾アーマー・ペネトレイト!」


「無駄だ。に同じ攻撃は二度は効かん」


魔王が右の手のひらを前に差し出す。対魔法障壁の魔法陣が、魔王の前に浮かび上がり、俺の攻撃を防ぎ止めていた。


「くうっ……」

俺は、思わず息をもらした。この攻撃が効かなければ、もう、それ以上に強力な攻撃は、俺たちのパーティにはない。


魔王は、俺の感情を読み取ったようだった。

「ふふふ……。それが最後の切り札だったようだな。一度きりとはいえ、この身体を傷をつけられたのは、余がまだ小さかった子供時代以来だ。褒めてつかわすぞ」

魔王は、尊大そんだいな態度で言う。


「数十年ぶりに余の身体を傷つけた男よ、最後にすぐれた魔法使いの名を聞いておこうか?」

「俺の名前は、丸田だよ」

「では、丸田とやら、せめて最後は、余の専用武器でほうむってやろう」


魔王が両手を左右にかかげると、それぞれの手に美しい装飾がほどこされた剣が現れた。


「あれは……! 先輩の女神様たち……?」

エリサが、驚きの声をあげる。


「ほう、この剣が女神であることを知っておるか……。この2対の剣の美しさは、それぞれ女神を封印した最強のあかし……。右手の剣は、力と速さの女神フローラ……、左手の剣は剣術の女神サテアが封じられておる。この剣を握ったものは、それぞれの女神の恩恵を最大限に受けることができるのだ!」


「あってはいけない剣です! あれは……、2人の女神を呪いで剣に変えたものです! 天界の噂で聞いていましたが、まさか、こんなところにあったなんて!」

エリサが悲痛ひつうな叫び声をあげ、解呪の呪文を唱えた。


しかし、なにも起こらない。


「最高位の解呪の呪文が効かないなんて……」

エリサが、非常に驚いた表情になって固まる。


「この剣に封じられた女神にかけられているのは、絶対不可逆の呪い。どんなに高位の解呪のスキルも効きはしない」

魔王は、ゆっくりと言ってから、地面をけった。沙織と高田に、超絶な速さで剣をふるった。


剣を装備した効果だろう。魔王の『技』、『力』、『速度』が圧倒的に高められていた。


あっという間だった。


沙織と高田が、絶命していた。


死者蘇生リザレクション!」

エリサが、2人に死者をよみがえらせる呪文をはなつ。


なんとか、2人は生き返ったものの、状況は最悪だ。


「さあ……、を傷つけた丸田よ。死ぬがいい」

ゆったりとした歩みで、魔王が俺に迫ってきた。


魔法攻撃が効かない魔法使いの俺は、最強の剣での物理攻撃で殺されようとしていた。俺が剣の攻撃を避けられるわけもない。


「くそっ。ここで終わりか……」

唇をかみしめる。


俺が倒れれば、次にエリサが殺されるだろう。そうなれば、死者蘇生リザレクションができる者もなく、すぐにパーティは全滅だ。


俺は、最後の知恵を絞った。


そうだ……


あれを使ってみよう。


俺は、魔王を見つめ、とっておきのアクティブ・スキルつかった。


《スキル『なんでも美少女化!』が発動しました》


「やったか……?」

俺が呟いた次の瞬間……


《……対象に抵抗レジストされました。スキルは無効化されました》

謎の説明の声が、空中から残酷にも聞こえてきた。



終わった……。最後の切り札も効かなかった……。


もはや、抵抗は無駄だ。俺は斬られる覚悟になって、目を閉じた。最後に目にはいったのは、魔王が両手に持つ二対の剣だけだった。


で……、


《スキル『なんでも美少女化!』が発動しました》

《スキル『なんでも美少女化!』が発動しました》


「え?」


思いもしない声に、俺が目をひらく。


みれば、魔王が持っていた、ふたつの剣が、2人の美少女に変化していた。人形の姿に戻った2人は、魔王の左右で空中に浮かんでいる。


「女神フローラ様、それに、女神サテア様……」

エリサが驚き顔で空中を見上げた。


「あれ? エリサちゃんじゃない。大きくなったね」

「ほんと、見ないうちに、すごい美人さんに育ったじゃない」

女神フローラと、女神サテアが、なつかしそうに微笑んだ。


「……な、なんということだ? の絶対不可逆の呪いが、スキルによって解呪されるなど、ありえない!」

魔王が驚きに顔をこわばらせる。


まあ、俺のスキル『なんでも美少女化』は、解呪の呪文じゃないからな……。


2人の女神は、空中に浮かびながら、魔王をにらみつけた。


「ちょっと糞魔王、よくも私達を、強制的に剣になんかしちゃってくれたわね!」

「ほんと、絶対に、許せない! ずっと剣になってて何もできないって、超退屈なんだから!」

女神フローラと、女神サテアは、激怒げきどの表情だ。


2人の女神が俺の方に飛んできた。

「「丸田さん、わたしたちを使って、魔王を倒して!」」

「え?」

「「今度は、呪いじゃなくて、私達自身の意思で剣になるからね!」」

言った、2人の女神の身体が、みるみる変形していく……


そして、気づくと、さっき魔王が持っていた2対の剣が、俺の手の中に握られていた。


「どういうこと…………?」

あまりもの状況の変化の激しさに、俺の頭が混乱する。


《2対の神剣を装備した効果が発動しました!》


《剣術レベルが、MAXになりました!》

《すべての剣術スキルが、使用可能になりました!》

《力のステータスが、MAXになりました!》

《速さのステータスが、MAXになりました!》


えーーーっ?! なんだよ、このチート。俺、魔法使いなんですけどーっ!

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