第36話 決戦! 『ハヤハヤ城』対『魔王城』


そのとき、魔王軍宰相エラインダは、魔王城の執務室にいた。


とつぜん執務室の部屋の扉が勢いよく開いた。駆け込むように、伝令の魔人が入ってくる。


「どうしたというのだ、そんなにあわてて?」

魔王関まおうかん陥落かんらくいたしました!」


報告を聞いて魔王軍宰相エラインダは、驚愕きょうがくに目を見開いた。

「ばかな……、魔王関まおうかんには、高レベル戦力で構成された魔王軍が2000以上も配置されていたはず。間違いではないのか?」


「間違いではございません。実際にこの目で見ました」

伝令の魔人は、敗戦に気を落としているのか、低い声で頭をたれている。


「いったい、王国軍はどれほどの戦力を用意したというのだ?」


「それが、敵戦力は、たった5人……」


「5人だと?」

「はっ……。わずか5人に、我が軍の精鋭2000が潰走かいそうし、あまつさえ、魔竜ワル様までが討ちとられてしまいました」


「なんと、ワルまでが……。魔王関まおうかんが落ちれば、この魔王城まではすぐだぞ! 軍に命令を伝えろ。城の防備を固めさせるのだ。城の周囲のパトロールの数を3倍に増やせ! 油断さえしなければ、この魔王城をたった5人で落とすのは絶対に不可能だ。たとえ勇者でもな!」

「はっ!」


エラインダの命令を受けて、伝令が部屋を出ていった。



☆☆☆



魔王城の警戒レベルは、最大にまであげられていた。


魔王城から5kmほど離れたところを歩く、4人の影があった。人影は非常に大きかった。身長10メートルは、余裕で超えていた。


4人は、トロル・ギガンテスで構成された、魔王軍のパトロール部隊だった。


トロル・ギガンテスが4人ともなれば、人類で構成された王国軍3000人くらいは蹴散らすことができる戦力だった。


「聞いたぞ……。魔王関まおうかんが落ちたというではないか」

トロル・ギガンテスの1人が言った。


「しかも、敵はたった5人らしい。魔王城は大丈夫か?」

別のトロル・ギガンテスが、心配そうに眉間にシワをよせる。


「魔王城は、魔王関まおうかんよりもはるかに強力だ。たった5人で落とすのは、物理的に不可能だ。特に強力なのが、魔素重砲と、圧倒的な魔素エネルギーがなければ展開することができない、強力な魔法障壁だ。いくら、戦闘力のたかい人間がいたとしても、これに対抗するのは、不可能」


すると、残りの3人の顔が少しほころんだ。


「さすがに、そのとおりだな。ははは!」

「魔王城を落としたいなら、大要塞でももってこなくてはな!」


「「「「わははは!」」」」

4人は明るい表情になって笑いあった。


そのときだった。


「なんだ、あれは?」


トロル・ギガンテスが見上げる丘の上に、うっすらと建物らしき影が浮かびあがっていく。


その姿は、だんだんはっきりしていった。トロル・ギガンテスたちの顔は驚きのあまりこわばっていた。


「まさか、あれは……、ハヤハヤ城?」

「ど、どうして、こんなところに?!」

「俺は、夢でも見てるのかっ!」



☆☆☆



魔王軍宰相エラインダは、魔王城内の軍指揮所にいた。中央にえられた巨大なテーブルの上面はモニターとなっており、魔王城周辺の地図が映しだされていた。地図の上には、番号が書かれた円がいくつも表示されている。円の番号は、実際に配置されている魔王軍の部隊番号を表していた。


部屋には魔王城の各部隊を受け持つ、指揮官たちが集まっている。


「この城の防御は、きわめて硬い。油断さえしなければ、この城は絶対に落ちることはない」

エラインダは、部下である指揮官たちを見すえて、鼓舞こぶするように言った。


そのときだった。


地響きをともなう轟音をたてて、まるで地震がおきたように部屋が大きく揺れた。


「な、なにごとか?!」

振動で倒れそうになって、エラインダはテーブルのはしをつかんで身体をささえなければならなかった。


その間も、連続する爆発音は続いていた。


「この音は、……砲撃音か? まさか、この魔王城が砲撃されている?!」

エラインダは、驚きで目を見開いた。


「エラインダ様、そのとおりでございます。現在、この魔王城が敵の砲撃を受けています!」

魔王城のオペレーターの1人が、担当のモニターを見ながら言った。


その間も砲撃は続き、堅牢だったはずの魔王城の天井の一部が崩れはじめている。


「魔王城の物理・魔法障壁はどうした? 展開していないのか?」

「現在、最大出力で展開中!」

エラインダに、魔王城のオペレーターが答える。


「ならば、この振動は何だ? 魔王城が展開する障壁ともなれば、要塞砲でも持ってこなければ貫通できんぞ!」

「それが、5kmほど離れたところに、突然、ハヤハヤ城らしきものが現れました。現在、我が城は、ハヤハヤ城の魔素重砲で砲撃されております!」


「どういうことだ?」

エラインダが駆け寄って、オペレーターと一緒に、専用モニターをのぞきこんだ。モニターには、たしかに5kmほど離れた丘の上に、見知ったハヤハヤ城が建っているのが見えた。


「ワシは幻でも見せられているのか? ええぃっ。とにかく、こちらも魔王城の魔素重砲で撃ち返せ!」

「はっ!」


魔王城から反撃の砲撃が打ち出される。



ついに、『ハヤハヤ城』対『魔王城』の砲撃戦がはじまった。

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