第34話


「あれが魔王城までの最後の関門、魔王関まおうかんですね」

エリサが、前方を見上げながら指差した。


見れば、2つの山の間を抜ける道路を、見上げるような巨大な城壁がふさいでる。


魔王関まおうかんは、魔王城につづく道の間につくられた関所せきしょだ。魔王城への通り道という重要な地点をおさえる要衝ようしょうである。

ここを抜ければ、魔王城までは、あと少しだ。


俺たちは、魔王関まおうかんに向かって歩いていった。


300mくらいの距離まで、近づいただろうか。


魔王関まおうかんの城壁の上に、数十人の人影が現れた。


魔王軍だ。魔法軍の兵士たちの中に、ひときわ目立つ、体格のいい白髪の男が立っている。

その顔には覚えがあった。


以前に、俺たちの前にあらわれ、『魔王軍四天王の1人、魔竜ワル』と名乗った人物だ。

ワルとは、ヴィ・ダンジョンの入り口近くで遭遇して戦闘になったが、結局、逃げられてしまった。


その時、俺の攻撃で左上半身を失っていたはずだが、魔竜の再生能力なのか、完全に元に戻っているようだった。


「とうとう、ここまで来たか。ゴミどもめ。ヴィ・ダンジョンで魔王軍四天王の2人を倒したらしいが、いい気になるのもここまでだな。おまえたちの命は、ここで尽きる!」

魔竜ワルが、俺たちを目に止めて、高らかにあざ笑った。


「なに、あれ? 前回の戦いで逃げたのに、あの自信はなに?」

沙織は、あきれ顔だ。


俺も沙織とおなじ意見だった。魔竜ワルの謎の自信は、どこからくるのだろう?


疑問に思っていると、魔竜ワルが叫んだ。

「愚か者どもめ。自ら死地に入り込んできたのがわかってないようだな。覚悟するがいい。今日ここが、おまえたちの死に場所となるのだ!」


ワルが叫ぶと、

ザザザ……、

周囲の森や茂みの陰から、足音を立てて、大量の魔人や魔物たちが出てきた。


数にして、ざっと2000くらい? どれもがかなり高レベルとして知られた魔人や魔物である。


俺たちは完全に包囲されていた。


「ふわあああっ」

とつぜん、高田が、アクビをした。


「どうしたんだ、高田。眠いのか?」

「そうなんですよぉー。昨日の夜、なんか眠れなくてぇー。宿屋の部屋に備えつけのマジカル冷蔵庫の中みたら、プリンがあったから食べたんですぅ。そしたら、なんか目がえて眠れなくてぇー」

「まさか! あのプリン、ないと思ったら、芽依めいさんが食べちゃったんですか?!」

芽依めいっち、ひどいよー。わたしと、エリサさんとハヤハヤちゃんとで分けて食べるつもりだったのに」

「ごめん、ごめん。……ってなんで、あたしだけハブられてるの? どうして、あたし抜きでプリン食べようとしてんのよ?!」

芽依めいさんがお昼寝してて、一緒にお買に物行こうって言っても、おきなかったんじゃないですか」

芽依めいっち、あのプリン、おいしいって有名な店のだったんよー。ずっと行列にならんで、やっと残り一つだけ買えたんだよ! 楽しみにしてたのに。しくしく……」

「わしもプリンとやらを食べてみたかったのじゃあーっ!」



「お、おまえら……」

魔竜ワルが、城壁の上から苛立いらだったように言った。「今の状況がわかってないようだな。ええぃ。かまわぬ。全軍で、こやつらを殲滅せんめつしろ!」


「「「「「うおおおおおっ」」」」」

俺たちを包囲していた大軍の魔王軍が、襲いかかってきた。



戦いが始まる。


闘気滅殺ウォーレイド!」

神速斬撃ラピッド・ソード!」

超蹌踉マスタリー・バッシュ!」

流波連剣ウェーブソード!」

「…………」

「……」

MPの消費を気にせず、沙織と高田が、アクティブ・スキルを連打しまくる。


もちろん、大軍相手にそんなことをしまくれば、すぐにMPが尽きてしまうのだが……


沙織のあまりもの圧倒的な攻撃に、一時的に魔王軍の前進が止まった。


その瞬間、沙織が俺のすぐ横にいるハヤハヤに駆けよってくる。

「ハヤハヤちゃん、MP補充お願い」

「まったく……、しかたない奴じゃのう。旦那さまに命じられているから、してやらぬでもないが、本来は誰にでもするものじゃないのじゃぞ」

ハヤハヤが沙織の襟首えりくびに手のひらをあてる。

パーティウインドウを見てると、2秒とかからず、沙織のMPが満タンになっていた。

「ありがとー。沙織行きまーす!」

MPが満タンになった沙織が再び、魔人・魔物の群れの中へと飛びこんでいく。


ハヤハヤのMP供給は、もはや、原子力エンジンによる発電で電気を供給するレベルだ。人間個人相手には、事実上、無限にMPを提供できる状態である。はっきり言ってチート以外のなにものでもない。


沙織と入れ違いで高田も、ハヤハヤからMPを供給してもらう。


「ヒャッハーッ! もっと、もっと、来てよ。いくらでも相手になるよーっ。あー、やっぱり、スキル無限連打って、最高に気持ちいいー。敵を倒しまくるのが一番のストレス発散になるよねえ!」

ハイテンションの高田が、歓喜かんきの声をあげた。


もはや、魔王軍の大軍は、女子たちのストレス発散の道具にしかなってなかった……

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