第29話
「ぎゃあああ」
「うぎゃあああ」
「ひいいいっ」
要塞の魔素重砲の威力は、あきらかにオーバーキルだった。
それまで、王国軍への勝利に沸きたっていた魔王軍が、嘘のように大混乱していた。
魔素重砲の攻撃になすすべもなく、散り散りに乱れて逃げていく。
「さらに斉射じゃ! わしの大切な旦那さまを脅かすものは全て排除じゃ!」
ハヤハヤが声を高める。
「おいやりすぎだ。砲撃をやめろ」
ハヤハヤの肩に手をかけながら言った。
「え? もういいのか……」
「魔王軍は、もう、まともな戦力でなくなっている。あとは逃げていくだけだ」
☆☆☆
魔王軍が逃げていき、落ち着いたところで、
「これからどうするの?」
「まあ、俺たちの目的は魔王を倒して現代日本に戻ることだからな」
沙織に、俺が言った。
「というわけで、俺としては、これから魔王城を目指したいんだが」
「レベル的にはどうですか? わたしたちのレベルで、もう魔王相手に勝てるでしょうか?」
俺の言葉に、エリサが心配そうに言う。
そこが問題だ。
王国領にでてくる魔物を相手にするには、俺たちは十分強くなった。魔王領にでてくる敵は、もっと強くなるだろう。
「とりあえず、魔王領の浅いところで魔物の強さを探りつついくかな……」
俺が言うと、3人は同意してくれた。
ハヤハヤに案内されるままに、ハヤハヤ城の裏口、つまり魔王城方面の出口に来る。
「ありがとうな。ハヤハヤ。助かったよ」
言って、俺たちが旅立とうとすると……
「待つのじゃ。わしも一緒にいくのじゃ!」
ハヤハヤが俺たちを呼び止める。
「え? 俺たちと一緒にこれるのか?」
「もちろんなのじゃ」
「でも、おまえは、ここにいる城、そのものなんだろ?」
「そのとおりじゃが、大丈夫なのじゃ!」
ハヤハヤは言って、なにか念じるように目を閉じた。
その瞬間、
眼の前、視界いっぱいに広がっていた、大要塞ハヤハヤ城が完全に消えていた。長大な城壁、険しい山々をつなげていた橋などが完全に消えていた。
城のあったところは、人間が手をつけていない自然の山そのものに戻っていた。
「これで旦那さまと一緒にいけるのじゃ!」
ハヤハヤが笑顔で、トコトコと俺に走りよってくる。
「ひょっとして、消した要塞を出すこともできるのか?」
「当然じゃ。見てるのじゃ!」
ハヤハヤは、目を閉じて、念じるように動きを止めた。
「…………」
ハヤハヤが静止したまま、数分たっただろうか。
「ハヤハヤちゃん、どうしたのー?」
いたずら好きの高田が、ハヤハヤのほっぺたを指先でつっついた。
「ひゃあああっ」
ハヤハヤが、閉じていた目を見開き、ものすごく驚いたような表情になる。
「やめるのじゃ! 消すのと違って要塞に戻すには、集中力と少しの時間が必要なのじゃ!」
「ごめんごめん。悪かったよー」
ハヤハヤの怒った表情に、高田が頭を掻きながらあやまる。
「ともかく、ちょっとの間、そこで見てるのじゃ!」
再び、ハヤハヤが目を閉じて、なにかを念じるように静止した。
時計がないので体感だが、10分弱くらい経っただろうか。
俺たちの目の前に、再び巨大なハヤハヤ城があらわれた。
「どうじゃ。ふたたび城を出せたのじゃ! ふふーんっ、すごいじゃろ!」
ハヤハヤが、腰に手をあてて、ドヤ顔になる。
つまり、ハヤハヤが城を消すのには、ほとんど時間はかからない。
ただし、城をふたたび出すには、10分弱くらいの時間がかかる。その間に、精神集中を妨害するようなことがあってはいけないという制限がある。
「この城って、移動したあとの別の場所でも出せるのか?」
「もちろんじゃ」
圧倒的に強力な大砲を装備した大要塞を、どこにでも、たった10分程度で出すことができる。はっきりいって、すごすぎる。同じ規模の要塞を普通に建造するなら、この世界の技術なら10年以上かかってもおかしくない。
「ハヤハヤ、おまえってすごいんだな」
素直な感想を口にした。
「当然なのじゃ。ワシを完全に支配している
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