第28話 美少女要塞? の俺への好感度がMAXになってしまったんだが……



「ハヤハヤ城?」

俺は、地面に座り込んだ全裸の少女の言葉を聞いてとまどう。

「そうじゃ。わしはハヤハヤ城じゃ」

まだ、あどけなさの残る赤毛の少女が答えた。


「ハヤハヤ城は、ここにある建造物のことだろ」

「この建造物も、わしの一部にすぎないのじゃ」


「どういうことだよ……?」

「ひょっとしたらこのこの子は、この城を自由に制御できるんじゃないでしょうか?」

横からエリサが言った。


城が美少女化してしまったのか?

「……ハヤハヤ、でいいのかな? この城の、出口までの通路をモニターに表示できるか?」

「もちろんじゃ。そんなこと、わしにかかれば造作もない」

「だったら、頼む」


活路が見出されたような気がして、おもわず俺は、少女に微笑んでしまった。


《スキル『ニコポ』が発動しました》

例の声が、空中から聞こえてきた。


少女ハヤハヤが、ちょっと驚いたようにポカーンとなって俺をみつめる。

気のせいか、ちょっと頬が赤らんでいるような気がした。


スキル『ニコポ』は、微笑みかけただけで、対象の美少女の好感度があがってしまうという俺のスキルである。


しかし、ハヤハヤはすぐに我をとりもどしたようだった。首をフルフルと横に振る。

「ダメじゃ」

「え?」

「おまえは、通路を表示する権限を持ってないのじゃ」

「そこをなんとか……」

「だめじゃ。だめじゃ。どうしても表示してもらいたいのなら、識別IDとパスワードが必要じゃ」


うーん……。美少女になっても、結局、出口までの道順はわからない。


まったく事態が進展していないという事実に、

「スキルを発動させても無理だったかぁ……」

俺は頭をきながら、苦笑するしかなかった。



そのとき……


《スキル『ニコポ』が発動しました》

例の声が、空中から聞こえてきた。


えっ? そのスキル、苦笑でも発動するのかよ。

さらに、ハヤハヤの俺への好感度があがってしまった?


俺が驚いて見ていると……

「ふ……、ふんっ。そ、そうやって笑いかけても、だめなものはだめなのじゃ!」

少女ハヤハヤが、ぷいっと横を向いてしまう。

でも、さっきより、さらに頬が赤らんでいる。



「ねえ、ハヤハヤちゃん、脱出口、教えてよぉ」

「そうだよお。お願いー」

沙織と高田が説得しようとする。


「だめじゃ。IDとパスワードがないものには教えられないのじゃっ!」

「「おねがーい!」」

高田と沙織が、ハヤハヤの肩に手をかけて声をそろえた。


「だめじゃ。……でもどうしてもというのなら……」

「「どうしてもというのなら?」」

「そこにいる男が頭をナデナデしてくれたら、考えてやらんでもないのじゃっ」

少女ハヤハヤが、上目遣いに俺を見上げてきた。


いや、どうすんだ、これ?

はっきりいって、こんな、いたいけな少女に俺のスキルを、これ以上重ねがけするのは気が引けるぞ。


俺が想像していたのは、もっと悪どそうな、いかつい魔物とか、そういうのにスキルをかけて美少女化することだった。まあ、それはそれで別の意味で嫌だったけど……。


「丸田さーん、なでなでしてあげて」

「そうですよ先輩。なでなでしてって言ってるよぉー」

「いや、それをするとだな……」

さすがに俺の良心がとがめる。エロゲや美少女ゲームの中の攻略対象にならいくらでもできるんだが……


「ううっ。どうせ、わしには魅力がないのじゃ。所詮はただの城でしかないのじゃ。人間の幼い少女みたいに、ナデナデさえしてもらえないのじゃ。城は差別される運命なのじゃーっ!」

少女は、「わーん」と泣き出してしまった。


「丸田さん、かわいそうですよおー」

「そうですよ。こんな、小さな女の子はもっと可愛がるものですぅー」

沙織と高田がたたみかけてくる。



「あっ。王国軍を蹴散らした魔王軍が戻ってきています。もうすぐ、正面出口から、この城の中にはいってきてしまいますよ! とにかく、なんでもいいから早くしないとマズイですよ」

コントロール・ルームのモニターに映し出された外の映像を見ながら、エリサが叫ぶ。


ぐぐっ……。もうやるしかないのか? やってしまうのか?


「くぅ……」

俺は決断した。



少女ハヤハヤの頭を撫でた。



《スキル『ナデポ』が発動しました》

《美少女ハヤハヤの好感度がMAXになりました》


「旦那さまぁ~」

ハート型の目をしたハヤハヤが俺に飛びついてきて、抱きつく。


「おい、いきなり抱きつくなって」

「わしが旦那さまに抱きつくのは当然なのじゃ。なぜなら、旦那さまは、わしの旦那さまだからなのじゃ!」


戸惑っている俺に、エリサが声をあげた。

「一輝さん、はやく、もうすぐ城門から魔王軍が戻ってきてしまいます」

「マズイぞ!」

俺が身をこわばらせる。


「大丈夫なのじゃ! 心配などいらぬのじゃ」

ハヤハヤが言った。


「え?」

「旦那さまは、わしの全権管理者アドミニストレーターさまなのじゃ。あの魔王軍が邪魔なのじゃな?」

「そうだけど……」

「わかったのじゃ!」

ハヤハヤが叫んだ。

「全城門・隔壁閉鎖! 全可動橋の交通遮断! ……魔素重砲エネルギー充填なのじゃっ!」

「おいおいおい……」

俺が焦って声をかけようとした時。


「エネルギー充填完了! 全魔素重砲斉射!」

少女ハヤハヤが叫んだ。


難攻不落のハヤハヤ動力要塞。要塞がもつ最強の装備が魔素重砲である。あまりにも強力な魔素エネルギー弾が、つぎつぎに魔王軍に降り注いだ。

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