第30話

俺、エリサ、高田、沙織で山道をすすんでいた。あと、要塞少女ハヤハヤは俺が背負っていた。


「お腹が空いたのじゃ」

「腹がすいたって……。さっき食べたばかりじゃないか」

俺たちは数十分前に、昼食をすませたばかりだった。


「一輝さん、ハヤハヤちゃんのHPが減ってます」

「え?」


パーティを組んでいれば、鑑定のスキルがなくても仲間のHPとMPをステータス画面に表示させることができる。

俺も、パーティのステータス画面を開いてみた。

「思った以上に減ってるな」


ハヤハヤは大要塞だけあって、人間と比べ物にならないくらい馬鹿げたHPがあるのだが、にもかかわらず四分の一くらいもHPが減っている。


「どういうことだ?」

「魔素が足りんのじゃ」


「魔素?」

「そういえば、ハヤハヤ城は、背後にあるヴィ・ダンジョンのダンジョンコアから魔素エネルギーを供給されていると聞いたことがあります」

俺の疑問に、エリサが答えた。


「ダンジョン・コアが食べたいのじゃ……」


「とりあえず、ヒールかけときますね。あれ?」

エリサがハヤハヤに治癒魔法をかけるが、HPの量がバカでかいので、重ねがけしても、なかなか回復しない。


「これじゃ、さすがのエリサもMPが尽きてしまう。どうやら、ヴィ・ダンジョンとやらを攻略しないといけないようだ」

魔物の出る領域なので、エリサのMPが尽きてしまえば、パーティ全体があやうくなる。



しばらく歩いた。


すでに魔王領に入ってるが、出会う魔物の強さは、今の俺達にとっては、脅威ではなかった。


やがて、ヴィ・ダンジョンの入り口近くまで来る。


ガサッ。


十数メートルほど離れた向こうで草を踏みしめる音がした。


「なにかいるぞ」

俺が叫ぶ。


パーティメンバーが身構えた。


木陰から、のっそりと黒い服を来た男が姿を見せた。白髪。見た目は年齢は50歳くらい。けっこう体格がいい。


白髪の男に、鑑定スキルを使ってみる。

「『鑑定』でステータスが表示されない……。警戒しろ。あいつ、かなりの高レベルだぞ」

俺が小声で、パーティ仲間に声をかける。


「人間の冒険者パーティか……。命が惜しくなければ、すぐに立ち去るがいい」

白髪男がしゃべった。


「ヴィ・ダンジョンに行きたいんですが」

「ヴィ・ダンジョンは、現在、立ち入り禁止だ」

俺の言葉に白髪の男が答えた。


「あなたに、なんの権限があって、わたしたちのダンジョン・アタックを止めるんですか?」

「我が、ヴィ・ダンジョンの管理者の1人だからだ」

「あなたは、いったい誰なんです?」

「我は、魔王軍四天王の1人、魔竜ワルだ」


どうする? 一瞬迷う。

相手はかなり強そうだ。


しかし、このまま引き下がれば、ハヤハヤのHPが尽きてしまう。


「やるしかないね」

俺の気持ちを察したのか、横にいた沙織がつぶやいた。


「若いな……。少しはかくす努力をしたらどうだ? そんなあからさまな殺気では、簡単に相手に伝わってしまうぞ」

ワルが、俺たちをにらんだ。


「来るぞ! 気をつけろ!」

俺が叫んだ瞬間、ワルが突進してきた。速い!


甲高い金属音が鳴り響いた。


「くうう……」

珍しく沙織がうめいた。


俺たちのパーティでは盾役タンカーをつとめている沙織が進み出て、ワルの突進を盾で受け止めていた。

攻撃を受け止めた沙織の手が震えている。かなり苦しそうだ。ザコ敵を相手にしてきた今までと、ちがう表情だ。


沙織のHPが、半分近く削られている。すぐに、エリサが回復魔術をかけた。


「隙あり!」

沙織への攻撃の間をついて、高田が素早い動きで、ワルの肩を斬りかかった。攻撃がヒットする。


「ぐっ……」

ワルが跳ねるように退いた。斬られた肩に手をやる。


ワルが、呪文らしきものをつぶやいた。斬られた肩の傷がたちどころに治る。

自己ヒール持ちか……。


ワルが俺たちをにらんだ。

「おまえたち、ただの冒険者ではないな? 何者だ?!」


答えてやる義理はない。


単一目標に最大火力が発揮できる、俺の攻撃魔法の詠唱はすでに完了している。しかし、今、はなてば、避けられるか、対魔力障壁で防がれてしまう。


少しの間があった後、沙織と高田が同時に動いた。

両側からワルに斬りかかる。


高レベルの勇者と剣聖を同時に相手にするワルに、一瞬のすきができた。


「『爆熱放射ファイアー・エミッター!』」

俺が、呪文を発動させた。


超高温度の爆炎があがる。


俺の攻撃で、魔竜ワルの左上半身が無くなっていた。


「ちいっ……」

左肩と左腕を失ったワルが、ヴィ・ダンジョンの入り口のある方へと逃げていく。

俺たちパーティは、その背中を追いかけた。

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