第31話


大怪我を負った四天王の1人、魔竜ワルがヴィ・ダンジョンの入り口へと逃げ込んでいく。


俺たちが後に続く。


しばらく、ダンジョン内を進んだ。

ワルの姿は見えない。

他の魔物が、何匹もでてきたが、どれも低レベルだ。俺たちの敵ではない。


たやすく俺たちは、下層へと降りていく。


最終的に目指すのは、ダンジョン最下層にあるダンジョン・コアだ。


第10層に降りたときだった。


突然、大きく開けた空間にでた。


これまでは、長い洞窟内を進んでいるといった感じだったが、ここは、まったく違っていた。


広大な空洞どうくつだった。横幅にして300m以上はあるだろうか。奥は遠すぎて、正確な深さがわからない。天井も見上げるほど高い。


「ここが最下層っぽい?」

高田が、周囲をキョロキョロ見渡しながら言う。


「このまえ滞在した村の人が、ヴィ・ダンジョンは第10層までって言ってましたね」

「その話が正しいなら、ゴールは近そうだな」

エリサの言葉に俺が応じる。


警戒しながら進んでいく。


「ううっ……。お腹がすいたのじゃ」

俺に背負われているハヤハヤが、弱々しい声をもらす。


パーティ画面でステータスを見てみた。

ハヤハヤのHPが10分の1を切っていた。


「このままじゃまずいぞ。はやく、ハヤハヤにダンジョン・コアを食べさせてやらないと……」

「いそぎましょう」

エリサが心配そうにハヤハヤを見つめる。


さらに500メートルは進んだだろうか。広大な洞窟内は、魔物一匹でてこない。かえって不気味だ。


ハヤハヤが背中で身じろぎする。


「うーん……。ダンジョンコアの、おいしそうないい匂いがしてくるのじゃ! はやく食べたいのじゃ!」

ハヤハヤの声は少しだけ高くなったが、それでも弱っているのがわかる。

急がないとマズイ。



ザザザ……。


とつぜん、背後で大勢が動くような音がした。


俺はふり返った。

全身がこわばる。


背後にいたのは、大量の魔物だった。どこからあらわれたのか、千匹はかるくいそうだ。

俺たち4人パーティが相手をするには、あまりにも数が多い。



「ククク……、罠にかかったな」


魔物の群れの中から、3人の魔物が進みでた。


「魔竜ワルに大ダメージを与えたらしいな。かなり強い冒険者パーティのようだが、この戦力にはかなうまい」

3人の魔物のうち、体が一番大きな奴が言った。身長、2mくらいはありそうだ。やたらごつい体つきだった。


「ワルとの戦闘に勝利したことで油断したようだな」

もう一人のほうが悪びれた顔で微笑む。こちらは身長180cmくらい。細身。シルクハットに黒い燕尾服を着ている。


「おまえたちは?」

俺がたずねる。2人のそばにひかえていた、やせこけた男が前にでた。ホビットのように小さく、ふんどしのような布を腰にまいているだけだった。


「こちらの方々は、魔王軍四天王さまでアール。体の大きいかたが、四天王筆頭のアクダーヨさま。燕尾服のかたが、吸血鬼のジャーさまだ。わたしは2人におつかえする使用人のタリエルでアール」

タリエルと名乗った小男が、偉ぶるようにドヤ顔でそっくりかえった。



背後の軍勢に鑑定のスキルをつかってみる。


デミ・ドラゴン

アルティメット・スケルトン

ヘビー・トロール

ハイ・シルバー・ウルフ

ブラッディ・アラクノイド

…………

……


ぱっと見るだけでも、大量の種類がいる。それが合計1000匹以上はいる。

どれもかなり強力な敵ばかりだ。


いくら俺たちのパーティがレベルアップして強くなったといっても、この数が相手では、勝てる見込みはない。


俺のアクティブ・スキル、『なんでも美少女化』も、けっこうMPを消費する。大軍相手には無力だ。


「魔王軍四天王さまの3人は、新入り4人目のムカツークに、勇者討伐の手柄をとられてしまったでアール。それで、ダンジョンの管理人に左遷されたでアール! 失敗したため、魔王軍内での居心地も悪くなり、ボーナスもかなり減額されたでアール! わかったか、下賤な人間よ! 恐れおののくでアール!」

「いらんことは言わんでいい!」

アクダーヨが小男タリエルの頭を、ゴンッと殴った。



「うう……っ。ダ…ンジョン・コアが、…食べたいのじゃ……」

ハヤハヤの言葉が、さらに弱々しく途切れ途切れになっている。


「まずいです。ハヤハヤちゃんのHPが無くなりそうです」

エリサが緊迫した声をだす。


「丸田さん、先に行って。ここはわたしたちが支えるから」

沙織が言う。


「…………」

それだと、仲間を見捨てて俺だけが逃げるような形になってしまう。一瞬とまどった。


「先輩だいじょうぶですよ。先にいってください。うまくラスボスを倒すことができれば、地上に転移できる転移門が開くかもしれないですし」

高田が背負っていた両手剣を手に持ちつつ目配せする。


考えていてもしかたない。俺がここに残っても、どうせ結果は変わらない。


「わかった。たのんだぞ。時間を稼いでくれ」

叫んで、俺はハヤハヤを背負ったままダンジョンの奥へと駆け出していた。



背後で、戦闘がはじまる音がした。

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