第32話 主人公、ついに覚醒した?!



俺が今いる、このヴィ・ダンジョンは、元々低レベルのダンジョンだ。基本的には、そんなに強い敵はでない。


魔王軍四天王たちがひきいてきた高レベルの魔物は、本来、このダンジョンの住人ではないのだろう。


最下層のボス部屋までに、500mほど走っただろうか……。途中であった魔物は、3匹ほど。

俺1人でも、簡単に倒せる。



ボス部屋にはいる。


でてきたのは、ゴブリン・ロード1匹と、6匹のゴブリンだ。


今の俺の敵ではない。


爆炎陣エクスプローシブ・フレイム!』

範囲攻撃魔法を唱えると、ゴブリンたちが火炎につつまれる。一撃でゴブリンは倒れていた。



ダンジョンボスを始末し、奥へと続く扉が開いた。


奥へと走る。


奥にあったのは、20畳くらいの部屋だった。


そこにあったのは、宝箱……、

そして、その背後の白い台の上にダンジョン・コア。


「ダンジョン・コアじゃあああ!」

俺が背負ったハヤハヤがはしゃぐ。


急いで、宝箱を開いた。


でてきたのは、『鋼鉄こうてつけん』だった。


初級冒険者には、嬉しいお宝だが、俺たちのレベルでは、もういらない武器だ。


それより、宝箱を開いたことで、地上に戻れる転移門がでるかどうかが問題だった。


数十秒待ったが……


「……でない」

地上へ戻る転移門がでてこない.


どうやら、このダンジョンは、もと来た道を引き返さないといけないタイプのようだ。


「終わった……。完全に詰んだ」

絶望に、俺は肩を落とした。「俺たちの、魔王討伐の旅もここで終わりか……」


圧倒的な敵の数に、沙織や高田が押されているのだろう。遠い距離で戦ってたはずの、剣戟けんげきの音が、だんだん近づいてくるのがわかった。


いまさら、俺が戦闘に加わっても焼け石に水だ。勝てる見込みはない。


「ごくり……。はやく、ダンジョン・コアを食べさせるのじゃ! うまそうなのじゃ! とっても、うまそうなのじゃ!」

状況がわかってないのか、ハヤハヤが空気を読まずに無邪気に叫ぶ。


ダンジョン・コアに歩みよった。それは、ハヤハヤ要塞のコントロール・ルームにあった、八面体の水晶に似ていた。大きさは、縦40cm、横30cmくらい。

ただし、こちらは真っ黒で、金属のようにかたそうだ。


ちょっと叩いてみる。

硬質な音がした。


「こんなのを食べるのか?」

「わしにれさせるのじゃ!」

ハヤハヤの身長では、手がとどかない高さなので、俺が抱き上げた。


「わしには、ダンジョン・コアを食べられるようにできる特殊スキルがあるのじゃ!」


ハヤハヤがなにか呪文のようなものを唱えた。

すると、金属のようだったダンジョン・コアが、ゼリーのように、やわらかく、ぶよぶよになった。


さっそく、ハヤハヤが、ダンジョン・コアを、バクバクと食べはじめる。そんなに大きなものが、ハヤハヤの小さな体のどこに入るのかしらないが、あっというまに9割以上食べてしまった。


パーティの状態表示を見てると、少しづつだが、ハヤハヤのHPが上昇しはじめている。


「ほれ、旦那さまも、ダンジョン・コアを食べるのじゃ!」

「え、俺も?」


言った瞬間、ハヤハヤが俺の口に、残ったダンジョン・コアをつっこんだ。


「うぐぐぐ……!」

思わず、俺がうめく。


ダンジョン・コアは、むちゃくちゃににがかった。さらに口の中が火傷したように熱い。


「ほら、飲み込むのじゃ」

ハヤハヤが、無理やり、口のなかのものを俺ののどに押し込んでくる。


「ぐわっ……。ごっくん」

思わず飲み込んでしまった。


とたんに、体がヤバイほど震えはじめた。

これは、アカンやつだ。


直後に、強烈な腹痛。体がしびれだし、全身を槍でさされたような強烈な痛みにおそわれる。


「うわあああっ」

大きな悲鳴をあげて、俺は床に倒れこんだ。


そして……

俺は意識を失った。



☆☆☆



気づくと、エリサが心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。

俺は、ダンジョン・コアのあった床の上に仰向けに寝ていた。


「一輝さんの大声を聞いて走ってきましたが、一瞬死んでましたよ。わたしの『死者蘇生リザレクション』の呪文は30分以内なら、死者をよみがえらせることができますが、できれば、そんなに簡単に死なないでください」

エリサが、涙声で言う。瞳は涙でうるんでいた。

エリサを泣かせてしまったことに、ちょっと申し訳ない気持ちになる。


俺は、一瞬、死んでたらしい。

エリサに、生きかえらせてもらったのはありがたいが……


いまだに、沙織と高田が戦っているのだろう。もはや戦いの剣の音は、ボス部屋の入り口付近にまでせまってきていた。


状況はなにも変わっていない。完全に詰んでいた。



そのときだった。


俺の全身が、痙攣けいれんしたように、ぶるぶると震えた。

武者震いのように、心が興奮しての震えだった。

今まで感じたことのないような、強いエネルギーで、俺の全身が満ちているのがわかった。

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