はずれスキル『ニコポ』で無双~オッサンの異世界転移、勇者パーティを追放されたけど、まったくノーダメージでした~

眞田幸有

第1話




俺の名は丸田一輝。35歳で童貞。出世コースからはずれた、非モテ、2次元美少女好きのサラリーマンだ。


その日、俺は明日が期限である提出資料の作成に取り組んでいた。

会社のオフィスデスクに座りPCと格闘する。

「丸田さーん、ここのところわからないんですけどぉー」

背後から新卒社員、高田芽依の猫撫で声がした。俺のオフィスデスクの横に立つと、俺の目の前に書類の束をどさっと置く。


集中力が中断されたところで、PCモニターの右下に表示されている時刻を見た。もうすぐ昼休みの時間だった。



「どこがわからないんだ?」

オフィスチェアーに座ったまま、俺が振り返る。

茶色がかったゆるふわセミロングヘアーの高田がこちらを見下ろしていた。

「ここと、ここと……、えーと……、あれと、それと、もういっぱいですぅー」

やれやれ……。

俺が新入社員の教育係を担当するのは、これで数回目だったが、はっきり言って高田が一番手がかかっている。


高田芽依は今年で22歳のはずだ。一流私大の付属幼稚舎から、エスカレーター式にずっと大学まで行って卒業した。

いわば、いいところのお嬢様というやつだ。


学校の勉強もそれなりにできたはずなのに、高田は資料作成が苦手だ。

あからさまにサボっているわけではないだが、かといって、それほどやる気が感じられない。集中力が持続しないのだ。

にもかかわらず、部長をふくめて、職場の男性社員は彼女にでれでれだ。高田は男たちから大人気なのだ。

美人のうえに、愛嬌もある。当然だか、そういう女は男からもてる。さらに、高田は胸まで大きかった。


どうせ学生時代も、美貌とおっぱいを武器にして、周囲の男子学生からちやほやされてたんだろう。レポート作成なども協力してもらってたに違いない。



教育担当を任された俺にしてみれば、とんだ迷惑だ。どうせ、高田が作った提出資料は、最終には俺がチェックして、全面的に修正しなければならないだろう。

下手すれば、一から作成するほうが早いまである。



「丸田さぁーん。冷たくしないでくださぁーい」

「だから、もっと普通に喋れって」

「えーっ。普通に喋ってますよぉー」

「…………」

高田が、俺の肩などをさわってくる。やたらボディタッチの多い女だった。

しかし、どんなにかわいくても、俺に女の媚びなど効かないのである。

なぜなら俺には、心に決めた2次元の嫁がいるからだ。


俺の嫁は、有名エロゲ、通称『どきラブ』のメインヒロイン神崎美咲ちゃんだ。

彼女こそ、至高。3次元の女などに興味はない。


高田が作成した資料は、はっきりいって無茶苦茶だった。

新人なのだから、間違いが多いのはあたりまえなのだが、それでも多すぎる。


「やりなおし」

きっぱりと俺が言った。

「どこがですかぁー?」

高田が身体をゆする。大きなオッパイが、ぷるんっ、と揺れた。

「全部だ」

「そんなの、ひどーい。せっかく、ここまで作ったのにぃ……」

「口答えしない」

「うっ」

俺がにらみつけると、高田がしゅんとなった。

まつ毛の長い、大きな瞳がゆれる。


やがて、高田の目にじわっと涙がにじんだ。

媚びるように、上目遣いで俺を見る。これまでその表情で、多くの男を手玉にとってきたのだろう。

しかし、俺は違う。


「いいから、早く自分の席にもどってやりなおせ」

つき放すように冷たく言いはなつ。

高田は肩を落として、自分の席へと戻っていった。



「丸田先輩、なにもあそこまで言わなくてもいいんじゃないですか?」

隣の席に座っていた若手社員の大城悠斗が顔をあげた。こいつも完全に高田にほだされているひとりだった。


大城は入社2年目のイケメンである。銀縁眼鏡に、切れ長のすずやかな目。身長も俺より10cmは高い。仕事の覚えもやたらはやく、周りからは出世が期待されていた。

T大卒というのもあるのか、大城は35歳平社員の俺を、どこか見下しているようなところがあった。


大城は、入社2年目とは思えないような、謎の自信に満ちている。

おそらく、自分が一番有能だと思っている。

「それより丸田、例の案件の資料はどうなってる?」

「そんなのとっくにできてますよ」


大城が、A4コピー紙に印刷した書類の束を俺の机に置いた。

ぺらぺらとめくってみる。

完璧だった。

「でも、前年度に作成された資料を参考にするようにと言っておいたが、ところどころ違っているところが多いな……」

「ああ、あれですか。あまりにも内容が稚拙だったので、一部書き換えておきました。わからない単語があったら、いくらでも僕に聞いてください」


ちなみに、前年度の資料を作成したのは俺だ。

三流私大卒の俺に当てつけてくるように大城は、ふんっ、と鼻をならしてくる。

俺の語彙力が少なすぎるとでも言いたげだ。


「ところで、丸田さん、まだその作業やってるんですか? 仕事遅すぎないですか?」

大城が俺のPCを覗き込むようにして言う。


「この仕事は、おまえ、まだやったことないだろ。こいつは、入社2年目のおまえが思う以上に、めんどくさいんだよ」

「本当ですかね。ひょっとしてこの部署、僕ひとりで回ってしまうんじゃないですか? 会社も、無駄にコストをかけすぎですよ」

俺に、タダ飯ぐらいとか言いたそうである。


「いや、さすがに、人間1人じゃ回らんだろ」

「そうでしょうか? それでも、僕は普通の人間じゃないということだけはわかっておいてください」

大城は、席を立ち上がり、どこかに行ってしまった。



☆☆☆



9時を回ったところで、タイムカードを押して、オフィスを出た。

住んでるアパートに帰宅するために最寄りの駅へと、早足で向かう。

はやく自宅に戻って、やりかけの同人エロゲの続きをしなければならない。


「丸田センパーイ。歩くの速すぎますぅー」

後ろから高田が小走りについてきた。

「別についてこなくていいだろ」

「同じ駅なんだから、そこまで一緒に帰りましょうよー」


「そうですよ、丸田さん。同じ会社の社員なんですから皆で仲良く帰りましょう」

大城までもがついてきていた。

おまえは、高田が目当てだろうが。

俺1人だったら、絶対に絡んでこないくせに。


大城は、歩幅のある脚で余裕で俺についてくる。

イケメンは脚まで長い。



仕方なく3人で歩いていると、大通りの歩道に面した大手予備校の玄関から、セーラー服の少女がでてきた。

ロングヘアー、黒髪パッツンの超絶美少女だった。一瞬目があった。


その瞬間……

道路を外れたトラックが、俺たちのいる歩道につっこんできた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る