第2話 美少女女神に、ハズレスキル【ニコポ】をもらったので、微笑んでみた
気づくと、なにもない真っ白な空間に立っていた。
眼の前に、ギリシャ神話にでてくるような、ゆったりとした白い服を着た超絶美少女がいた。つややかなプラチナブロンドの髪に、緑がかった青い瞳。
「あ、これ……」
ラノベなどの異世界転生ものでよくあるやつだ。
超絶美少女は俺に話しかけてきた。
「わたしは地球担当の女神、エリサです」
やっぱり、女神だった。
「あなたは、丸田一輝さんですね」
「……そうだけど」
俺はあらためて周囲を見渡した。
本当になにもない真っ白な空間だ。
「残念ながら、あなたは、トラックに
話を聞いて、俺ははっとなった。
「まずい……。死んだら、エロゲができないじゃないか。いや……天国ならエロゲはできるのか???」
「天国なんてないですよ」
混乱している俺に、女神エリサが答えた。
「え? じゃあ地獄行きか? でも特別悪いことなんてしたことないぞ。あ……、18歳になる前から、エロゲや18禁マンガなどを見てたけど、それが悪かったのか? まずいな……」
衝撃の事実だった。俺は愕然となる。
「地獄には、エロゲとネットができる環境があるのかなあ……? あればいいなあー」
「ちょっ……、ちょっと、まってください。丸田さん!」
腕を組んで悩む俺を、女神エリサが
「天国とか地獄とかいうのは存在しません。そういうのは、人間がつくりだした単なる想像です」
「え? やっぱりそうなのか。確かに言われてみればそのとおりだな。実は、俺もそうは思ってたんだ」
よく考えてみれば、天国・地獄なんてないよな。日本人の多くがそうであるように、俺も宗教を信じていなかった。
「……じゃあ、俺はどうなるんだ?」
「これから、丸田さんは、別の世界に転移することになります。いいですか?」
「嫌だといったら……?」
「このような何もない真っ白の空間で、1人っきりで、ずっと住むことになります」
「うーん……」
俺は腕を組んで考えた。
「……PCとエロゲとネット環境が自由に使えるなら、そっちのほうがいいかもな。働かなくていいんだろ?」
「働かなくていいですけど……」
「だったら、そっちでたのむ」
「でも、PCとネット環境もありませんよ。ただただ、無限に白い世界で、永遠に一人っきりです」
「そんな世界、退屈で死んでしまうだろ」
「あの……、丸田さんは、もう死んでるので、それ以上死にませんけど……」
「ただの生き地獄じゃねえか。どんな酷い世界だよ」
「なので転移をおすすめしますが、どうですか?」
「どんな世界に転移するんだ?」
「剣と魔法、勇者や魔王などがいるファンタジー世界です」
「お約束の世界だな。ナーロッパとかいうやつだろ? 知ってるぞ」
「まあ、そうですけど……」
女神エリサが、微妙な表情をして頭をかいた。
「ひょっとして、ステータスウインドウとか開いて見れるパターンか?」
「……見れますけど」
「ワンパターンすぎて、芸がないな。そんなの、今どきネット小説でそんなの書いたら、一瞬でブラウザバックされるぞ」
「エヘヘへ……」
エリサは、ちょっと反応に困ったように苦笑した。
「それで、転移するなら特別なスキルとか、もらえるんだろ? ラノベとかでよくあるパターンだ。」
「もちろんです。きっと役立つスキルがもらえると思えますよ」
「スキルは、自分で選べるのか?」
「うちは、ガチャ形式ですねぇ」
「うーん。ガチャかぁ……」
ソシャゲは多少やったことがあるが、俺のガチャ運はあまりいいとはいえない。
でもやるしかないか……
「何連できるんだ?」
「今はキャンペーン期間で、100連無料です。丸田さんは、運がいいでですねえ」
エリサが、顔の横で、パチンと手をうった。
「死んだ人間に運がいいもなにもないだろ」
「あはは……」
女神エリサが、笑う。こいつ、声まで、かわいらしいな。俺の大好きな女性声優に声質が似ている。
「じゃあ、ガチャいきますよ」
5メートルほど離れた空間に、100インチは余裕でありそうなモニターが、突然に現れた。
さらに、俺の手元にも、ガチャ用のボタンが出現する。
「とりあえず、最初の10連!」
俺は、ばしっと、ボタンを押した。
伏せられた10枚のカードが表示され、左上から、次々にめくられていく。
10枚、全てめくられて……
「ああー……残念。HP回復(小)が1個。武器『ひのきのぼう』が一本。100ゴルデが8枚ですね」
「ゴルデってなんだ?」
「これから行く世界のお金の単位です。1ゴルデが、大雑把に現代日本の1円に相当します」
「たった、800円! しかも『ひのきのぼう』かよ! 大ハズレもいいところじゃないか! こういう転移時の女神イベントって、大金とか、チート武器とかがもらえるのが普通だろ」
「でも、まだ90連残ってますよ。チートスキルや武器がもらえるSSR排出確率は3パーセントです。まだまだ、いいのがでる可能性はありますので安心してください」
「うーん……」
俺は首をかしげながら、ガチャを回しつづけた。
90連まで回した。
「SSRが0枚。SRが9枚。Rが81枚……」
「こんなので、なんの金稼ぎスキルもコネもない未知の異世界に放り出されたら、あっという間に野垂れ死に確定じゃねえか! どんだけ鬼畜設定なんだよ。裏でガチャの確率いじってるだろ!」
「ガチャの確率操作なんて、してることがバレたら大変なことになりますよ。それこそ、天界を揺るがすような大事件になります。そんな操作をするわけありません」
「信用できないな。おまえ、実は緑の悪魔だろ!」
「女神に向かって、悪魔呼ばわりなんて酷いですっ!」
女神は怒った顔もかわいらしかったが、それでも状況が状況なので、憎らしく思えてくる。
「くそっ、これで最後の10連か。頼むぞ……」
祈るように、ガチャのボタンを押した。
「おっ」
これまでとは明らかに違うバンク映像が100インチモニターに映った。
「やったぞ。SSR確定演出だ!」
「…………」
俺の喜びの叫びに、なぜか女神はしゅんとなってる。何故だ……?
『おめでとー! SSRスキル! 「ニコポ」だよぉー!』
ジャジャーンという、豪華な音楽とともに、ロリ声優っぽい声がどこからともなく聞こえてきて、カードの説明をした。
「ニコポ? なんだそれは?」
俺は、問いただすように女神を見た。
「…………」
「ん、どうした?」
肩をすくめて、申し訳無さそうにしゅんとなっている女神を見て、俺は首をかしげた。
「あの……」
「なんだ?」
「残念ながら、ハズレスキルです」
「え?」
「…………」
女神エリサは申し訳無さそうにもじもじしてる。
「そもそも、『ニコポ』ってなんだ? どんなスキルなんだ?」
「ニコッと微笑むだけで、ヒロインたちに惚れられるスキルなんですけど……」
「戦闘に関係ないスキルか。たしかにハズレだな」
「それもそうなんですけど、あんまり意味のないスキルでして……」
「そうなのか?」
なぜなんだろう?
「転生・転移する主人公たちの多くが、元から身につけている特徴なんです。あらためて、わざわざスキルで獲得する意味がないというか、なんというか……」
たしかによく考えてみれば、ハーレム系ラノベや漫画の主人公たちの多くが、はじめから持ってる能力だ。わざわざ女神から授かる意味がない。
「最悪じゃねえか。やっぱり、おまえは緑の悪魔だ」
「悪魔じゃないですっ! 普通、100連引いたら、3回くらいはSSRが出るのに、1回しか出ない丸田さんが悪いんでしょーっ!」
「俺のせいにすんなーっ! どうせ、確率いじってるくせに」
「いじってませーん!」
声をあげて、ギリッと奥歯を噛み締める俺に、女神が声をあげた。
……
はぁはぁはぁ……
おもわず大きな声を出してしまったが、すぐに自分が大人げないことに気づく。
死んだとはいえ、俺は35歳。いい大人なんだから……。
落ち着け、俺。
深呼吸すると、すこし気持ちが静まった。
俺は声を落としてたずねた。
「なんとかならんのか? もう100連追加とか……」
「無理です」
「そこは女神、なんとかなるだろ?」
「女神とはいえ、私は、ただの大組織の末端の女神ですし」
「そうなのか?」
「はい。わたし、正女神じゃないですし……」
女神エリサが首をすくめた。
「え? 正女神とかあんの?」
「わたし、派遣女神ですから……」
女神エリサが、ちょっと困ったように、首をかしげる。
「…………」
どうやら、女神の世界も、せちがらいようだ。
派遣とは知らなかった。おそらく、苦労してることも多いのだろう。
エリサに、ちょっと同情してしまう。
組織の末端に、組織の苦情を言っても仕方ない。
町で暮らしてると、たまにアルバイトの店員などに、店のことについて怒鳴りつけている客を見ることがある。アルバイトなんて、店のことについて、ほとんどなんの権限もないのに、客という立場を利用して一方的に怒鳴りつけているわけだ。
ああいう人間は、俺が一番嫌いな人間だったはずだ。
派遣女神のエリサに文句を言っても仕方ない。
さすがに、ここは大人としての態度をしめすべきだろう。
「悪かったな。まあ、なんとかこれでやってみるさ」
俺は、ニコッと微笑みかけた。
その瞬間だった。
エリサの目がはっと見開かれ……
ふわっ、とかわいらしい大きな瞳がゆれた。
次の瞬間……
俺を見るエリサの瞳孔が、恋する少女のように潤んでいた。
《スキル『ニコポ』が発動しました!》
なにもない空中から、説明口調の声が聞こえてきた。
え? これってまさか……
スキル『ニコポ』の効果?!
「丸田……、いえ、一輝さん……」
頬を赤く上気させたエリサが近づいてくる。恋するようにうるんだ瞳が、俺をじっと見つめていた。
「お、おい……。ちょっ、ちょっとまて!」
俺は、怯んで後退した。
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