最終話 【完結】現代日本での生活



元の世界に帰りますか?


・はい

・いいえ



迷いなく俺たちは、『はい』を選んだ。


気づくと、俺たち(俺、エリサ、高田、沙織、ハヤハヤ)は何もない真っ白な空間に立っていた。俺が異世界に転移する前に、元女神のエリサと初めて会ったのと同じような場所だった。


俺たちの前に、一人の女性がいた。外見は人間なら40歳くらいに見える。エリサが以前着ていた、ギリシャ神話にでてくるような、ゆったりとした白い服を着ていた。


「天界に戻ってきた?」

沙織が言った。


「こ、これは……。リ……、リージル先輩。お久しぶりですっ!」

エリサがガチガチに硬直して、腰を直角以上に曲げ、頭を下げまくる。


「エリサさん、お久しぶりですね」

「はっ、はいっ! ご無沙汰しておりますっ! リージル先輩」

エリサが再び、頭を下げまぐる。よっぽど怖い先輩らしい。


「わたしは、担当の女神リージルです」

リージルと名乗った女神は、ゆっくりと俺たちを見渡した。「みなさん、魔王討伐、本当によくやってくれました。みごとでしたよ。これで、世界のゆがみをすこしだけですが、矯正きょうせいすることができました」


なんか、よくわからんが、俺たちは、すごいことをやったらしい。


「そこで、ご褒美として、あなたたちの願いを、それぞれ一人につき、ひとつづつかなえることにしました」


「え、なんでもいいの?」

高田が目を輝かせて言う。


「もちろん、神といえど、どんな願いでも叶えることは不可能です。でも、できる限りのことは対応させていただきます。何がいいですか?」

リージルがニッコリ笑って言う。


「うーん、やっぱりお金かなぁ……」

高田が現実的なことを言う。まあ、たしかに俺も同意見だ。


「わしは、旦那さまのお嫁さんがいいのじゃ!」

まだ背が低いハヤハヤが、俺の腰に抱きつきながら叫んだ。


「あ、わたしもそれがいいです!」

すかさず、エリサが続けた。


「わたしもそれがいいー!」

と沙織。


「あー、みんなずるい。じゃあ、あたしもそれでぇー!」

高田が願いをいい直した。


「おいおい、無茶なこと言うな。現代日本じゃ、重婚は法律で禁止されてるんだぞ」

俺が、肩をすくめた。


「大丈夫です」

女神リージルが言った。


「え?」


「そこは、神の力。それくらいなら、なんとかなります」


なんとかなってしまうのかよ。


「では丸田さんは、何を望みますか?」


「え、俺?」

愕然がくぜんとなっていた俺に、女神リージルがたずねた。


うーん……。


「嫁が4人もできたら、甲斐性かいしょうのない俺じゃ、養うのが大変だ。そこは、やっぱり金かな……。4人の嫁と、楽しく豊かにくらしていけるくらいの金が欲しい」


「わかりました。では、手配しておきますね。あと、服装も転移前のものにもどしておきますね。エリサとハヤハヤちゃんは、現代日本でもおかしくないような服にしておきますので……。では、みなさん、よき人生を……」

リージルが言うと、再び俺たちは意識を失った。


  ☆☆☆


気づくと、オフィス街の歩道にいた。歩道に沿った5車線の大通りでは、普通に自動車が走っている。転生前、俺たちにトラックがつっこんでくる寸前の風景だった。


転移前とまったく同じように、スマホがスーツのポケットに入っていた。取り出して画面を見る。時刻も日付も、俺たちが転生する寸前の時間だった。

 

俺、高田、沙織は、転移前そのままの服装だった。どうやら、完全に転生前に戻っている。


つけ加えれば、エリサはしゃれたグレーのワンピース。ハヤハヤは、いかにも小学生の女の子が着そうなフレアのミニスカート姿で、俺たちのすぐそばにいた。


「完全に戻った?」

セーラー服姿の沙織が言った。


「どうやら、そのようだな」

エリサやハヤハヤがいる以外は、完全に転移前だ。


いや、ひとつだけ違ったことがあった……。


そこに大城の姿だけがなかった。


  ☆☆☆


で、後日談だ。


女神が言ったとおり、俺は嫁がいきなり4人もできてしまった。重婚じゃねえか、と思うのだが、そこは神のわけのわからん力が働いているようだ。


俺が住んでいたワンルームは、さすがに5人で暮らすには手狭なので、広い高級マンションに引っ越した。金はいくらでもあった。


確認すれば、エリサとハヤハヤは、夫である俺の戸籍に入っていた。もちろん、高田や沙織も、俺の妻として戸籍に入っていた。


今では、エリサは我が家の主婦をしている。高田はOLを続け、沙織は高校に通っていた。ハヤハヤも小学6年生として小学校に通っている。


俺は結局、会社をやめた。今では、家でネットとゲームざんまいだ。


残念ながらエロゲはやめてしまった。毎晩、美少女嫁たちに夜の生活をせがまれ、しぼり取られるからだ。エロゲをやる気力がなくなってしまった……。


俺の預金通帳を見るとヤバかった。貯金額は114兆3812億円……

国家予算じゃねえか。いくらなんでも限度があるだろ。


一生豪遊しても使いきれない額だ。



あと、ひとつヤバイことがあった。


俺たち5人は、異世界で使っていた能力が、そのままこっちの世界でも使えた。


魔王を倒したときにつかった、女神フローラと、女神サテアの2対の剣でさえ、俺は召喚することができた。


ひょっとして、俺たち5人パーティが本気だせば世界征服できるかもしれない。


まあ、やらんがな……




「ただいま、なのじゃ!」

玄関が、いきおいよく開く音がして、ハヤハヤの声がした。


「あ、ハヤハヤちゃん、おかえりなさい」

奥で家事をやっていたエリサの声もした。


ダダダ……と廊下を走ってくる音。


「ハヤハヤちゃん、廊下を走ったら危ないよ」


「旦那さまーっ。ただいまなのじゃーっ!」

PCを見ていた俺がいる部屋に、赤いランドセルを担いだハヤハヤが飛び込んでくる。


「帰ってきたのじゃーっ!」

ハヤハヤが俺に抱きついてきた。


「おかえり」

俺は、満面の笑顔でハヤハヤを抱きしめた……




(おわり)



――――――――――――――――――――

《あとがき》

 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


 筆者にとって、これがはじめてのWeb小説となります。まずは約10万字で完結させるのが目標でした。なんとか達成できてよかったです。


 よかったら、新作のほうも見ていただけるとうれしいです。

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はずれスキル『ニコポ』で無双~オッサンの異世界転移、勇者パーティを追放されたけど、まったくノーダメージでした~ 眞田幸有 @yukisanada

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