第25話 ハヤハヤ動力要塞、攻防戦 その5



「わが軍の、傭兵たちよ! ハヤハヤ城の中にみんなの夕食を用意してるっス! 魔王領でとれた、よりすぐりの食材を、腕のいい料理人が調理したものっス。期待してもらっていいっス! みんなついてくるっスよ!」

「「「おおーっ」」」

ムカツークと名乗った魔王軍幹部が叫ぶと、広場にいた冒険者や傭兵たちが、喜びの声をあげた。


この世界では、旅の途中の食べ物といえば、干し肉や硬いパンなどがほとんどだ。毎日粗末な食べ物ばかりが続いて、うんざりしている旅の冒険者たちは多い。

ごちそうと言われれば、期待するのも当然だった。


「どうするの? 魔王軍についていくつもり?」

沙織が小声でいてくる。


見れば、俺達の周囲は魔王軍と、その傭兵の志願者たちばかりになっていた。全部で、千数百人もいる。

ここで、ついていくのを断れば、そいつらが全員敵となる可能性がある。


「俺たちも、レベルがあがって、かなり強くなったが、千人以上を一度に相手するにはリスクが大きすぎる。ここは、ついていくしかない……」

「今は、そうするしかないっぽいですね……」

俺が、耳打ちするように小さな声で言うと、エリサが同意した。



☆☆☆



この世界は、いわば中世ヨーロッパ風である。


ハヤハヤ城というのを聞いて、当然、俺は中世ヨーロッパ風の城を想像していた。

しかし、実際に入ってみると、想像していたものと大違いだった。


ハヤハヤ城は、SF映画にでてくるような未来的な大要塞だった。


非常に起伏のはげしい地形に造られていて、いくつもの峻険しゅんけんな谷に、数多くの橋がかけられている。城の中心部に行くには、橋を何度も渡らなければならない。しかし、その橋が動力で上げ下げできるようになっている。


「すっごいーっ! ここ、すごいよーっ!」

城の中を見た沙織は、興奮した声で、ずっと「すっごーい!」を繰り返している。

たしかに……

転移前の日本にあった、有名テーマパークのアトラクションより、何十倍もインパクトがあった。


いくつかの橋を渡り、ハヤハヤ城の中心部までくると、さらにSFにでてくるような宇宙要塞っぽい感じになってきた。

未来的な電飾で照らされた通路は、自動で開閉する装甲隔壁で、いくつもの区画に区切られていた。


城の中の広場を通ったときには、魔王軍らしき駐留部隊がいたのが見てとれた。組織だって統制のとれた訓練をしている。個々の装備も、王都の王城で見た国王軍よりも、かなり良さそうだ。


「こんな城、力攻めで落とすのは無理だろ……」

俺は、呟いた。




「わあー。ごはんだぁーっ!」

沙織が声をあげた。


俺たちが通されたのは、数百人が入れるような非常に大きな部屋だった。そこでは、バイキング形式で、さまざまなごちそうが、これみよがしとテーブルの上に大量に並べられていた。

すでに先着の冒険者や傭兵たちは、個々に大皿から食べる分をとって、食事をはじめている。


「さあ、みんな。食べ物はまだまだあるっスよー。今晩はいっぱい、食べて欲しいっス。近いうちに大きな戦いがあると思われるっス。それに備えて、力を蓄えて欲しいっスよー!」

壇の上に立ったムカツークが、部屋にまねかれた冒険者や傭兵たちに声をかける。



「なに? これ。うんまーいっ♡」

「このお肉、舌の上でとろけるぅー」

「すごく、美味しいですー」

沙織、高田、エリサがさっそく、ごちそうを食べはじめている。

とっても幸せそうな顔だ。


「王城で提供された食事よりはるかに美味しいよぉーっ!」

「今考えてみると、あの王様ケチっぽかったよねぇー」

「目つきも、なんかいやらしくて、あの王様、私、あんまりすきじゃなかったです」

おいしいものを食べて気がゆるんだのか、沙織、高田、エリサが口々に思ったことを言いはじめる。


バイキング形式でテーブルに並べられた大皿の上には、見るだけでもうまそうな肉のステーキが小分けに切り分けられて、山盛りにのせられていた。

さすがに酒は、ひとり一杯までと制限されてたが、エールやワインなど、数十種類が選び放題のようだ。


俺もご相伴に預かって、小皿にとった肉を口に運んでみる。


「なんだ、これは?!」

俺の背筋に衝撃が走った。


やわらかいって言うレベルじゃない。マジで、口の中で肉が溶けていく。

化学調味料で無理やり味付けしたものではない。味付けは、むしろ、さっぱりしたものだった。が、素材そのものを生かした、本来の肉の豊かな旨味うまみが、肉汁とともに口のなかで広がっていく。


こんなにうまい肉を食べたことは、正直、転移前の現代日本でもないかもしれない。


(魔王軍スゲェー……)

俺の正直な感想だった。


装備にしても、提供する食事にしても、資金力の面で王国軍は魔王軍に完全に負けてないか?


人類にもかかわらず冒険者たちが、魔王軍の傭兵として、戦いに参加する理由がなんとなくわかる気がした。



☆☆☆



それから数時間後……


難攻不落の天下の山城、ハヤハヤ城を見上げることができる平原である。

そこに、ハヤハヤ城を攻略するために集められた王国軍、約15万人が集結していた。



「作戦計画のタイムテーブルによれば、すでに大城殿の部隊がヴィ・ダンジョンのコアを破壊している頃です」

王国軍の帷幕いばくで、ナイフ大佐が言った。

「うむ……。では、仕掛けるかのう。全軍に突撃命令をだせ!」

総大将のバロス大将軍が声を高めた。



「うぉおおおおおっ!」

号令一下、王国軍15万人の大攻勢がはじまった。


「進めー! 進めー! みごと手柄を勝ち取れば報奨ほうしょうは思いのままだぞ!」

王国軍の指揮官たちが、兵士たちを鼓舞する。



しばらくすると……、



ハヤハヤ要塞に備えられた、重魔素砲の砲撃が始まった。

圧倒的な破壊力をもつ砲撃が、次々に王国軍に襲いかかった。


砲撃が地面に落ちるたびに、爆発の中心地の周囲にいた魔王軍の兵士たちの命が100人単位で失われていく……。


「馬鹿な! 大城殿の部隊が、ハヤハヤ城への動力供給源をすでにっているはずなのに……」

ナイフ大佐が声を上げた。


「まだ、要塞に動力が供給されている! これでは、いくさに勝てるみこみはゼロだ。全軍に撤退命令をだせ!」

バロス大将軍が、全身をこわばらせながら叫んだ。

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