第26話 ハヤハヤ動力要塞、攻防戦 その6


バロス大将軍が、ハヤハヤ城に突撃する数時間前……



俺たちは、バイキング形式の料理を楽しんでいた。


しばらくして、十数ページほどの小冊子が配られた。


転移してきた俺たちは、普通にこの世界で言葉が話せていたが、こちらの文字も読める。


表紙をみると、『ハヤハヤ城、傭兵たちのしおり』と書かれてある。


パラパラとめくると、城内でのトイレや大浴場の位置、簡単なルールやマナーなどが書かれてある。魔王軍って、思った以上にしっかりしている組織なのかもしれない。


「食べながらでいいので、聞いてほしいっス」

壇上のムカツークが、大部屋にいた傭兵たちに言った。


「みんなのもとに『ハヤハヤ城、傭兵たちのしおり』が配られていると思うっス。7ページ目を開いてほしいっす」


いわれるままに開いてみると、恩賞について詳しく書かれてあった。


「報奨は、討ち取った首、つまり首級しゅきゅうを持ってくることによって、おこなわれるっス」

ムカツークが説明をつづける。


雑兵の首でも、とってくれば、そこそこの金額がもらえるようだ。

将校ともなると、かなりの高額な報奨額が書かれてある。


総指揮官のバロス大将軍や参謀のナイフ大佐のような名のある首級しゅきゅうをとってくれば、パーティメンバー全員が、一生食うのに困らないような金額がもらえる。

たいそうな、大盤振る舞いである。


「魔王軍は、手厚い報奨を約束するッスよ! みんな、頑張って欲しいっス」



「これって本当かよ? マジで、こんな大金がもらえるのか?」

俺たちの近くにいた、冒険者パーティらしきメンバーの男が言った。彼の疑問も当然だ。

「ああ。俺は、この城で前回の第3次攻略作戦のときにも魔王軍で参加したが、首級しゅきゅうを持ってきた奴には、きっちりと約束された報奨金が払われていた。傭兵たちからも、一切いっさい、文句がでなかった」

男の仲間が答えた。

「魔王軍の資金力すごいな」

「王国軍って資金力も乏しいらしいし、ひょっとしたらヤバイんじゃないか?」

「第3次攻略作戦のときは、王国軍30万人だったのに、今回の作戦は15万人という話だしな」

「戦力が半分に減ってるってのがヒドイ……」



☆☆☆



俺たちは、食事をたらふく食べてしばらく休んでいた。

魔物の中堅指揮官が来て、俺たちのパーティをふくめ数十人で、城の城壁の一角を、魔人や魔物たちと一緒に守るように命じられる。

言われるままに配置につく。

そこから、王国軍約15万人が平地に展開しているのが見おろせた。


配置についてから、一時間と経ってなかっただろうか。

王国軍の突撃がはじまった。


大きな雄叫びをあげて、ハヤハヤ城に迫ってくる。



 ……そのときだった。


ハヤハヤ城に備えられた巨大な大砲が火を吹いた。


砲撃が、次々に王国軍に襲いかかる。たちまち、王国軍は大混乱におちいった。

乱れに乱れた王国軍は、雪崩をうったように逃げはじめる。


「今っスよ! 者ども、逃げる王国軍を蹴散らすっス! みごと、名のある首級しゅきゅうをあげて、大金を稼ぐっスよ!」

指揮用の物見台にいたムカツークが、よく通る声で、城の兵士たちに向かって叫んだ。


「うおおおおおおっ!」

報奨金の額が高いからだろう。傭兵たちの士気は、やたら高い。


開かれた城門から、まっさきに飛び出したのは、城内の精鋭の正規軍だった。数千人もの魔人、魔物、傭兵となった冒険者たちつづいていく。ムカツークと、その近衛部隊も一緒に城門を飛び出していくのが見えた。


城の守備兵たちが、怒涛どとうのように王国軍へと迫っていく。王国軍の数は多かったが、士気が完全に崩壊していた。

王国軍は、一方的にやられていく。




一方で、城に残された俺たち4人である。

ほとんどの兵士がでていってしまい、城のなかには、しんとした静寂せいじゃくが残っていた。


追撃部隊が城から出ていったあと、取り残された俺たちパーティは、ちょっとの間、呆然ぼうぜんとたたずんでいたが……


「これからどうすんの?」

「まあ、この間に逃げだすべきだな」

沙織の質問に、俺が答えた。

「それがいいですね」

エリサも同意した。



追撃軍が出撃した正面口から出ていくと、俺たちが魔王軍と共に戦う意思がないことが、ばれてしまう可能性がある。

俺たちは別の出口をさがして、城内を歩きはじめた。


ほとんどの兵士たちが、王国軍の追撃に出ていったため、城のなかは静かだった。


たまに、1から3人くらいの、城の警備兵や魔物と出くわすが、高レベルになった俺たちパーティの敵ではない。

簡単に倒して、先にすすむ。


「出口ってどっち?」

沙織がキョロキョロと、あたりをうかがう。

「ぜんぜん、わからん」

俺が肩をすくめた。


SFにでてくるような宇宙要塞めいた通路は、非常に入り組んでいて複雑だった。


ダンジョンのような要塞の中で、俺たちは道に迷う。



しばらく歩くと、十数人ほどの警備兵が待機していた部屋にでた。

すぐに戦闘がはじまり、俺たちが圧倒して勝利する。


「いままでで一番警備兵が多かったね」

「この奥になにか大事なものがありそう……」

沙織と、高田が言う。


さらに進むと、すぐに重厚な装甲シャッターがあった。

「なんかすごく守られてるって感じ?」

「中にお宝でもあるのかな?」

沙織と高田が言う。


「沙織、この装甲斬れるか?」

「やってみる!」

俺がいうと、沙織が『勇者の剣』をふりあげた。


すこし時間がかかったが、さすがは勇者の剣を持った正真正銘の勇者である。沙織は、重厚な装甲シャターを斬ってしまった。

開いた切り口から部屋の中へと入り込む。


「誰だ、おまえたちは? ただちに立ち去れ!」

部屋の中には10人前後の魔族がいた。


戦闘になるが、あきらかに警備兵より弱かった。どうやら、戦闘職の魔族ではなかったようだ。


俺たちパーティの攻撃で、一瞬で敵が沈黙する。



と……


《レベルがあがりました》

なにもない空中から、例の説明口調の声が聞こえてきた。


魔族たちを倒して経験値が入り、どうやら俺のレベルがまたひとつ上がったようだった。



そして……


《新しいスキル、『なんでも美少女化』を獲得しました!》


「はぁー?」

俺は驚いて立ち止まる。


なんでも美少女化?

なんだ、そりゃ。


ステータス画面を開いてみる。



スキル『なんでも美少女化』

・アクティブスキル

・見つめた対象が美少女になる

・対象のあなたへの好感度が上昇する



これも異世界もののラノベとかでよく見るやつだ。

よくあるのが、ドラゴンや、フェンリルあたりが美少女に変身したりするというものである。もちろん他の魔物や動物が美少女になる作品も少なくない。


ただし、アクティブスキルなのは珍しい。

さらに、そのまえの『なんでも』ってのが気になる。


よく考えると、なんか、やばそうなスキルのような気がしてきた。


ドラゴンやフェンリルが美少女化するといっても、元々、めすのドラゴンや、めすのフェンリルだったりするはずだ。


『なんでも』ってことは、むさ苦しいガチムチのホモのオッサンとかでも美少女になってしまうのか?


美少女なら、中身がガチムチのオッサンでも可愛いと思えるだろうか?


いや……

「見た目は子供、頭脳は大人」ならいい。

「見た目は美少女、中身はガチムチ・ホモ・オッサン」は嫌だ。


なんだか、嫌な予感がした……

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