第24話



俺たちは、起伏の多い山道を進んでいた。


「疲れたあ……。丸田先輩、おんぶしてぇー」

「なにを言ってるんだ。高田は前衛職なんだから、STR(筋力)はおまえのほうがはるかに高いだろ」


「スタミナが減りましたか? じゃあ回復しときますねー」

エリサが治癒魔法をかけるが、高田の様子に変化はない。

「あれ? ひょっとしてスタミナぜんぜん減ってません?」


「スタミナは減ってないし疲れてないけど、それでも、いろいろ疲れたのー!」

高田は、わけのわからないことを言って、俺の背中に抱きついてきた。

「仕方ない奴だなあ……」


おんぶしてやると、高田が俺の後頭部に顔をくっつかせて甘えてくる。


「えへへへ……。丸田せんぱーい」

一緒に旅をしていて気づいたが、高田はやたら甘えん坊である。小さいころに父親を無くして、年上の男に甘えた経験があまりないらしい。元の世界にいたころは、まさか高田がオッサン好きとは知らなかった。


「芽依っちだけずるいー」

俺におぶさった高田を、横から見ていた沙織が抗議してきた。

「丸田さん、だっこー」

俺の前に立って、両手を広げる。

「おい、こらっ。沙織、おまえまで……」

俺は拒絶しようとしたが、かまわず沙織が抱きついてくる。沙織が『だいしゅきホールド』の形で、俺にしがみついてきた。


前に沙織、後ろに高田……。どうすればいいんだ、これ?


女の子で一般の男より軽いとはいえ、前後に2人しがみつかれて、立っているのも大変……

と、思うかもしれないが、そうでもない。


そこは、ファンタジー世界である。

俺は後衛職だが、かなりの高レベルになってきている。そのため、前後に沙織と高田を担いでいる状態でも、まったく苦労しない程度の力はついている。

上り下りの坂の多い山道でさえ、歩いても全然つかれない。



「一輝さん……」

気づくとエリサまで、俺に抱きつきたそうに、目をうるうるさせている。

「さすがに、三人は無理だ」

「うっ……」

エリサが、ちょっとしょぼんとした顔になるが、物理的に3人は抱きつけないので、そこは諦めてもらった。


沙織と高田を前後に担ぎながら、しばらく歩いていくと、開けた場所があった。半径300メートルくらいの盆地だった。


目に入ったのは、非常に数多くの人たちだ。ざっと見ても、300人くらいは、いるんじゃないだろうか。


人々は三々五々の集まりになって、個々に休息したり、食事を取ったりしていた。


「なんだ、ここは?」

俺が声をもらす。


気になったのは、そこにいる者たちが、どうやらみんな、武装していたということだ。

冒険者、あるいは傭兵……、といったように、皆が、剣や槍、あるいは魔力増強の杖などを装備している。


俺に抱きついていた沙織と高田も、さすがに俺から離れて地面に立つ。


近くにいたところで座りながら食事をとっていた5人グループが、ちらっと俺たちの方を見てきた。しかし、すぐに興味を失ったように食事を続けた。


俺たちだって、装備や着ているものを見れば、ただの冒険者にしか見えない。だから、ここではまったく人目を引くような存在ではなかったのだ。


「そういや、魔王軍がハヤハヤ城で傭兵を雇っていると言ってたな」

「魔王軍に雇われにいく人たちが、ここで休憩してるってこと?」

「そうかもしれないな……」

沙織の言葉に、俺が答えた。


「とりあえず、俺たちも食事にしよう……」

考えていても仕方ないので、一旦休憩に入る。

もちろん、俺はハヤハヤ城まで行って、傭兵になるつもりはない。とりあえず、ここで休憩するだけだ。


「ごっはん! ごっはん!」

食いしん坊の沙織が嬉しそうに声をあげた。


「それに、今夜はここでキャンプも悪くないかもしれんな。これだけ人がいたら、なにかあっても対処しやすそうだし……」


俺たちも、開いている手頃なところに座った。食事をはじめる。

「お腹すいたー」

沙織がバクバク食べはじめる。職業クラスが勇者になった沙織の体は非常に強力だが、燃費が悪いみたいだ。


とりあえず、食事は終わる。


「一昨日も、昨日も、今日も、干し肉に硬いパン……。もう飽きたあー」

食べ終わった高田が、不満声をもらした。


「仕方ないなあ……、これでも食え……」

俺のバッグに残っていたチョコレートを、高田にわたす。


先日の村から出る前に、村人たちからもらったお菓子だった。

4人で分けたものの、パーティの女子連中は、すぐに自分の分を食べてしまっていた。しかし、俺は甘いものは苦手だから、バッグの中に残っていたのだ。


「ふわああ……。チョコレート、甘くておいしいですぅ……」

高田は、幸せそうに食べている。これだけ喜んでくれるなら、あげてよかった。


「あー、ずるい。芽依っちだけ贔屓ひいきー」

「そうです。一輝さん、贔屓ひいきですー!」

「「贔屓! 贔屓! 贔屓! 贔屓……!」」

沙織とエリサが、まるでデモ隊のように、贔屓という言葉を繰り返しはじめた。


「ちょ、ちょっと、待て……。おまえらの分もあるから」


あわてて、バックの中をかき回す。幸い、あと2つ、チョコレートがのこっていた。


「ふう、あまーい……」

「美味しいですー」

沙織とエリサの顔が、すぐに満足そうな笑顔になった。

本当に幸せそうだ。


チョコレートが人数分、残ってなかったら、かなりヤバいことになっていた。


(……今後は気をつけよう)

俺は、心の中で自分にちかった。



一息ついて、少ししたところで……


盆地の奥の山林から、魔物たちがあらわれた。それも大量に。

1000匹近くはいるかもしれない。

しかし、盆地にいた、300人ほどの冒険者や傭兵たちは、戦闘体制にならない。


見れば、1000匹近くの魔物たちは、人形ひとがただったり、四足のモンスターだったり、さまざまだったが、完全に統制されていた。軍のように規律がとれている。


魔物の中から、1人の人形ひとがたの魔物が前にでた。


人形ひとがたの魔物は、周囲によく通るような大きな声で言った。

「みんな、我が魔王軍の傭兵応募に、よく来たっス。俺が、今回あたらしく昇進して、ハヤハヤ城総司令官に任命されたムカツークっス。俺たちと一緒に戦って、国王軍を倒すっスよ!」

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