第15話 ハヤハヤ動力要塞、攻防戦 その4



魔王軍の軍事的重要拠点、ハヤハヤ城……

それは、自ら結界を張ることができ、しかも、極めて強力な魔素重砲を備えた、動力要塞である。

通路の自動開閉や、複雑な山岳地形のいくつもの渓谷に渡された掛け橋の上げ下げも、全て城の中央コントロール室で行うことができる。


ハヤハヤ城に動力の源となる魔素を供給しているのは、すぐ後方に存在する、ヴイ・ダンジョンであった。


ダンジョンの最深部には魔素を発生させるダンジョンコアが存在する。

ハヤハヤ城は、ヴイ・ダンジョンからその魔素を得て、稼働していた。


「ハヤハヤ城の鍵は、背後にあるダンジョンだ。普段は、城を陥落させない限り、行くことができない場所にあるが、抜け道となる山道が見つかったのだ」

「なんと……、」

バルス大将軍の言葉に、ゼーンは驚愕きょうがくの声をもらす。


「先日、幸運にも捕虜にできた、魔王軍のかなりの高い地位にいる幹部が漏らしました」

ナイフ大佐が言った。


おそらく、尋問じんもんに、薬や後遺症こういしょうが残る自白魔法、拷問などが、きびしく使用されたのだろう。

そのことくらいは、大城にもわかった。



ナイフ大佐が説明をつづけた。

「ヴイ・ダンジョンへと続く山道は、細くて狭い。そして、事前に攻略部隊が、敵に見つかって、妨害されないようにすることも必要です。そのため、一般冒険者に変装した、少人数の軽装部隊を投入する必要があります」


「そこでだ。大城殿に、その軽装部隊を率いていただきたい」

「なるほど……」

バロス大将軍の言葉に、大城はゴクリとつばを飲み込んだ。

自分が、どれほど重要な役目を担わされているのかは、大城にもわかった。



☆☆☆



軍からの説明を聞いた後、大城は、すぐに王都を出立することになった。第4次ハヤハヤ城攻略作戦において、大城のパーティは、きわめて重要な任務を負っていた。


大城のパーティの任務……

それは、ハヤハヤ城にエネルギーを供給しているヴイ・ダンジョンの攻略である。


新たにみつかった秘密の山道を通り抜け、ヴイ・ダンジョンを攻略して、そのダンジョンコアを破壊する。そうなれば、千早城は動力を失って、大幅に弱体化する。


鍵となるのは、素早い攻略だった。大城のパーティに与えられた日数は七日間。その間に、ダンジョンを攻略しなければならない。


王国軍の諜報による調査では、ヴイ・ダンジョン自体は、かなり低レベルらしかった。調査によると、最下層のラスボスは、ゴブリンロード1匹と、護衛のゴブリン数匹程度だという。


それが事実なら、ミノタウロスよりも遥かに弱い敵だ。


今回の大城のパーティでも、簡単に倒せるだろう。


問題となるのは、ダンジョンコア破壊までに、魔王軍に見つからないことだった。弱い敵なら大城のパーティでも対応できるが、さすがに数百匹の魔王軍相手だと勝てる見込みはない。


今は、『速度』が大切だった。


☆☆☆


大城のパーティは強化されていた。


大賢者の大城

剣士のジーン

弓使いのザック

盾使いのアンドレ

斧使いのオールトス


の5人編成である。



アンドレもオールトスも、王国軍では名高い戦士だった。実戦経験も豊富で、多くの敵武将を討ち取り、その名前は他国にまで知れ渡っていた。


剣士ジーンは、思った。

(アンドレとオールトスの能力に疑問はない。頼りになる仲間だ。しかし……)


大城とパーティを組み、戦ってきたジーンには、パーティの弱点がよくわかっていた。


『ぜひとも、専門のヒーラーをつけていただきたい』

王都を出立する前に、ジーンは、ナイフ大佐に直々に申し出ていた。

『ヒーラーは貴重だが……、考えておこう』

ナイフ大佐の返事は、あまり気のこもったものではなかった。


ヒーラー系の職業クラスはきわめて少なく、貴重だ。

ヒーラーは、どこも部隊でも取り合いだし、他に出したがらない。


結局、大城のパーティに、ヒーラーが加わることはなかった。。


代わりに、装備に回復薬を多めにもっていくことになった。瓶に入った回復薬はかさばって重い。持っていける量は限られていた。効果も大聖女が使える超高レベルの治癒魔法にくらべたら、あまりにも限られたものにすぎなかった。


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