第14話 ハヤハヤ動力要塞、攻防戦 その3




大城は、王国軍の会議室に招かれた。

会議室に入ると、巨大なテーブルの上に広げられた大きな地図を、軍人たちが取り囲んでいた。


それは、王国軍の上層部の面々だった。


王国軍トップの、バロス大将軍の姿もあった。

バロスは50代、肩幅の広いガッシリとした男だった。


「歓迎するぞ、大城殿」

大城の姿を見て、バロス大将軍が微笑んだ。

「これは……、どういうことですか?」

状況が飲み込めないでいた、大城がたずねる。


「それは、私の方から説明しましょう」

言って、ナイフ大佐が地図の一点を指さした。

そこには、城の絵が描かれていた。


「第4次ハヤハヤ城攻略作戦の発動を計画しています」

ナイフ大佐が、大城を見て言った。



ハヤハヤ城は、魔王軍の重要な軍事拠点の名前である。


ハヤハヤ城は、山岳地帯の丘陵に建設された大要塞で、地形が天然の要害となって、難攻不落を誇っていた。


これまで、王国軍は、3回の大がかりな攻略作戦を実施していたが、ことごとく撃退されている。


特に、第3次攻略作戦は、王国軍30万を超える大軍で攻撃を行った。それは、実に、ハヤハヤ城にこもる魔王軍の30倍以上の戦力であった。


しかし、城を攻略することはかなわず、王国軍は大損害を受け、撤退するはめになった。

歴史に残るような大敗北だった。


「なぜ、今このとき、大掛かりな攻撃なんだ? ワシは反対だ」

ゼーン将軍が口をはさんだ。


ゼーン将軍は、バロス将軍と同期の男で、細身のやや小柄な人物だった。王国軍の穏健派として知られている。

「魔王軍との戦いによる、敗北が続いている。何百という戦いを繰り返して、我が軍も、国家も、疲れて経済的に窮乏きゅうぼうしている」


「ですが、ゼーン将軍。勇者パーティの活躍は聞かれているでしょう」

ナイフ大佐が言った。

「聞いておるよ。たった4人で、見事なものだ」

「一方で我軍が、王国の民衆たちから、なんと言われているか、知ってますか?」

「ああ……、もちろんだ。『王国軍は敗戦続きで頼りにならない』『軍が弱いから魔物の跋扈ばっこを許した』『軍より警察隊や自警団のほうが頼りになる』、などとな」



「そう言われて、口惜くちおしくはないのですか? このままでは我軍は、ますます見くびられ、ひいては、不要な存在などと思われてしまいますぞ」

ナイフ大佐が言った。


「実際に国王陛下は、王国軍の大幅な縮小化を検討なされておられる。地方警備も、軍ではなく、警察隊や自警団にやらせようとなされている」

バロス大将軍が続けた。


「大将軍のおっしゃるとおりです。そうなれば、我々のような軍上層部も、軍以外の職に異動……、つまり、事実上左遷され、重要でない職につかされることになりますぞ」

声をたかめるナイフ大佐を、ゼーン将軍がにらみつけた。

「フンッ……。軍の個人の出世や名誉のために、国庫の大金をつかって大軍を動かすことなど、言語道断ではないか。攻城戦ともなると、数多くの死傷者も覚悟しなければならない。それでも、堅城が落ちる可能性は低い……」


ゼーンは、これまで何度も実戦で手柄を上げてきた歴戦の名将だ。実戦経験のないナイフ大佐は、その鋭い眼光に圧倒されてしまう。


そこで、バロス大将軍が、ナイフ大佐をフォローするように言った。

「しかし、勇者パーティは、いくら強いといっても、たった4人……。それでは大要塞は落とせぬ。魔王城に到達し、魔王を倒すためには、どうしても、まずはハヤハヤ城を落城させねばならんのは、ゼーンもわかっているはずだ」


バロス大将軍は、国王の従兄弟いとこであり、国内でも地位が高く、派閥の力も強い。


だが、同級生の幼馴染であるゼーンは、歯に衣を着せない。

「そうは言っても、あの城に対して、これまで3度も大規模な攻撃をしてきたが、びくともしなかったではないか。これまでの戦いで、血税が湯水のように投入され、多くの命が失われた……」


「しかし、ゼーンよ。状況が変わったのだ」

「どう変わったというのか?」

「城の背後にあるダンジョンに通じる山道が見つかった」

「なに?」

ゼーンは、驚きに目を見開いて、バロス大将軍を見つめた。


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