第16話 勇者の村(前編)


俺たちは、王国の北端近くまでやってきていた。

さらに北に行けば、魔王が完全に支配する魔王領になる。


パーティのレベルもあがり、気力も体力も充実していた。

起伏の大きな道で、いくら走り続けても、息一つあがらない。


……日が暮れかけてきた。


「あ、村があるよ」

最初に村を見つけたのは、パーティの先頭を進んでいた沙織だった。


小さな村だった。

入っていくと、村人たちの目線が気になった。


「なんだか、村の人たちの視線が刺さるように厳しいです」

エリサが、眉をしかめる。


どうやら、俺たちは歓迎されていないようだった。



通りすがりの村人の男にたずねた。


「あの……、一晩泊めてもらえそうな家はないですか? もちろん対価も払います。ベッドがなければ、馬小屋や倉庫でもかまいません」

「ふんっ。成金野郎の宿はあそこだ。金さえ払えば泊めてくれるだろうよ。相場より、かなり割高だがな」

村人は、嫌悪のこもった視線を俺たちに向け、吐き捨てるように言うと、行ってしまった。


「なによ、あれ? どうなってんの?」

「本当に、失礼しちゃうわね」

沙織と高田が、気分を害したように、去っていく村人の背中をにらんだ。



指定された宿屋は、小さな建物だった。

こんな小さな村に、宿屋があること自体に違和感があった。


入ってみると、1階が酒場、2階が寝室になっている、よくあるタイプの宿屋だ。


酒場には、すでに冒険者パーティが2組いて、酒や食事をとっていた。

外から見た明かりからして、上の階の寝室にも客がいるっぽい。こんな小さな村にしては、冒険者の数が多すぎる。


この近くに良質の狩り場でもあるのだろうか?


酒場にいた冒険者は、2組ともガラの悪そうなパーティだった。


俺たちを見て、すぐに冒険者パーティの男たちが、声をかけてくる。

「よお、姉ちゃんたち、美人揃ぞろいだな。そんなオッサンほっといて、こっち来て一緒に飲もうぜ?」

「そうだぜ。そんなオッサンのふにゃチンより、俺たちのほうがだんぜんいいぞ」

「「「ガハハハハ!」」」

パーティが、下品に大笑いする。


悪役のテンプレといっていいような、冒険者である。


高田が、ちらっと俺に視線を向けた。

「やっちまえ」

俺が小声でうなずく。


高田が前にでた。

「わたしに勝ったら、相手してあげるよー」


高田の声に、男たちが席から立ち上がる。

「それは、ベッドの上でも相手してくれるってことかい?」

「まあ、それは……、事の成行き次第かなあ……」

「ぐへへへ……、そのオッパイ、たまんねえぜ!」

「いただきー!」

男たちが高田に襲いかかるが、たちまちのうちに叩き伏せられてしまう。


まったく勝負にならない。



こういう男たちは、一番最初に力ずくでねじ伏せるのが一番だ。

脳筋が多いから、絶対的な力の差を分からせれば、大人しくなる。


俺たちは、冒険を続けるうちに、そのことを学習していた。



宿の店主は、30歳くらいの太った男だった。


宿代を聞いて、

「高すぎー。相場の3倍以上じゃない!」

高田が声をあげた。


「こんな、設備の少ない山中ですからねえ。食材の一つにしても、輸送費がかかっておりますから」

店主が、強欲そうな顔を下品に歪めて、愛想笑いをする。


「それにしても高いよー」

「わたしどもも商売でして。お支払いいただけないというのなら、どうぞお帰りくださいませ」


数日感、野宿が続いて、疲れが溜まっていた。

温かいベッドには変えられないので、結局、部屋をとる。


そのとき……


宿の入口から、小柄な1人の男が入ってきた。


杖をついた老人で、脚をひきずってる。表情も苦しそうだ。


どうやら、病気か何からしい。


「村長、どうしたんだ?」

「ふんっ、山菜採りに山にはいって、魔素にあてられて、ことのおりじゃ」

「村長も、ついに魔素にあてられたか。だから、あれだけ山に入るなって言ってたのに、聞かないから」

「お前と違って、こっちは山に入らないと生活がなりたたないんだ。話はいいから、回復薬を一本くれ」

「わかってるよ。こっちも商売だから、金さえもらえば、いくらでも売ってやるさ」


宿の店主が、回復薬の瓶をカウンターテーブルに置きながら、醜い顔を輝かせ、ニヤリと笑う。

村長は、薬の値段を聞いて眉をしかめた。


「あいかわらず、アコギな商売をしとるのう……」

「ウチで買うのが嫌なら、他で買えばいい」

「この村で回復薬を売ってるのは、おまえのところだけしかないのはみんな知っとるわ」

村長は、チッと舌打ちした。


「毎度ありー」

宿の店主が、回復薬の瓶をカウンターテーブルに置きながら、醜い顔を輝かせた。


「嫌なやつじゃのう。欲しくても、こんな貧乏な村の人間には、そんな金の余裕はない……」

村長は、踵を返して、とぼとぼと宿の出口へと戻っていく。


そこへ……


「あのー……」

エリサが声をかけた。

「わたし、回復魔法が使えますが……」

「ふんっ。お嬢ちゃん、若いのうー。いっぱしの冒険者なら、回復魔法で、魔素の毒が治らないことくらい知ってるはずじゃ」


「爺さん、エリサの回復魔法は特別だ。騙されたと思ってやってみな」

俺が話に割ってはいった。


「冒険者というのは、揃いも揃って、現実をしらない馬鹿ばっかりじゃ」

村長は、ぶつぶつ文句を言いながらも、エリスに言われて、そばにあった椅子に座った。

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