第5話 勇者パーティを追放された



「最低ですね、一輝さん」

沙織に抱きつかれてる俺を横から、咎めるようなジト目で俺を見ているのは、エリサだった。

「『ニコポ』だけでなく、『ナデポ』のスキルまで使いまくって、女の子たちをどんどん籠絡ろうらくしていっています。とんだヤリチンですぅ!」

童貞に向かってヤリチンはないだろ。


「仕方ないだろ。こっちの意思関係なく、勝手にスキルが発動するんだから」

「また、そんなこと言って。どうせ、裏ではエッチなこと考えているに決まってます!」

エリサが眉を逆立てる。

「一輝さんが、実は超エッチな人だってことを私は知ってるんですよ! どうせ内心では、二人のことを狙ってるんでしょ」

「人聞きの悪いことを言うな」

咎め立てするエリサに、俺は言い返した。

「本当ですか?」

「本当だ」


「じゃあ、わたしが一輝さんのことを見張っててあげます。じゃないと、絶対、女の子たちにエッチなことをするに決まってますから」

「勝手にしろ」

「じゃあ、見張っててあげるお駄賃ください」

「ん? 何だ?」

「わたしもナデナデしてください」

「おまえもかーっ!」

頭を差し出したエリサの脳天にチョップを食らわす。もちろん、力は十分に抜いている。


しかし、エリサは大げさに痛がる素振りを見せた。

「あーんっ、一輝さん酷いですぅー! どうして、わたしだけチョップなんですかぁーっ!」

「うるさい、おまえにはこれで十分だ。そもそも、おまえが俺の意思と関係なく効果を発動するスキルを俺によこすから悪いんだろ。こうなってしまって困ってるのは俺のほうだ!」


さらに追撃でチョップを食らわす。あくまで、力を抜いたチョップだぞ。

「やーんっ。痛いですっ!」

 エリサは、芝居じみた動きで頭を覆ったが……、

しばらくして、顔をあげた。


エリサの顔が嬉しそうにニヤついていた。

「でも、これはこれでいいものです……」

どうやら、叩かれることに快感を感じているようだ。

マゾっ気があるらしい。

マゾの女神。最悪だ。



「そろそろ時間だ。帰ろうか」

俺がパーティ仲間を促した。

これまで王の庇護下、3ヶ月間、俺たちは王都の近くにある魔の森でレベルアップをしてきた。

「明日から、いよいよ魔王討伐の旅に出発することになる。旅の支度もあるし、今日はきっぱりと切り上げて、ゆっくりと休んだほうがいいだろう」

「丸田さんは、気楽でいいですね」

俺が言うと、大城が刺々とげとげしい口調で言った。

こっちに来てから、大城は明らかに俺への嫌悪感が増した感じだった。


転移前から、俺のことを見下す様子があったが、こっちの世界では、さらにその態度が悪くなり、隠さなくなったような気がする。


しかし、それでも大城もパーティ仲間だ。これから、大城とも、仲良くやっていかなければならない。


俺は、大城に微笑みかけた。

ニコッ。

「なんですか、先輩。その引きつった笑顔、キモチワルイです」

大城は仏頂面ぶっちょうづらのまま言った。

やはり、スキル『ニコポ』は美少女にしか、効果がないようだ。

大城は、俺に、当てつけるようにため息を付いて、背を向け歩いていった。



☆☆☆



いよいよ、魔王討伐に旅立つ日が来た。


旅支度をし、王たちに別れの挨拶をして、俺たち5人は、王都の出口までやってきていた。

城塞都市の門を出ると、麦畑の間を石畳の道路がずっと森までつづいている。


そこに、行商人のものらしき荷馬車が走ってきた。

「大変だあ!」

走っていた馬車が俺たちの前で止った。乗っていた行商人のみなりをした男が慌てた口調で叫ぶ。


「どうかしたのか?」

大城が前に進み出てたずねる。

「ミノタウロスがでた!」

「ミノタウロス……。初心者向けダンジョンのボスレベルだ。普通はダンジョンの深い所にいるものだが、地面にまででてくるのはめずらしいな」

「俺だって、牛の頭に人間の身体を持っている化け物は話には聞いてた。でも、実際に見るのは初めてだよ」

大城の言葉に、行商人が、緊迫した表情で説明する。


「いったい、どこにでたんだ?」

「すぐそこだ」

行商人が森のほうを指さす。

「わかった。僕たちでなんとかするから安心してもらっていい」

大城が、さっそうと答えた。


俺たちのパーティは、すでに初心者用ダンジョンも3つほど攻略済みだった。ミノタウロスも数体は倒していた。

ミノタウロスは序盤のまだレベルが低い時点では、冒険者たちにとって、なかなかの強敵だ。しかし、今の俺達のパーティなら、普通に連携すれば、それほどの強敵ではなくなっていた。


……と、森の中から、身長5メートルほどのミノタウロスの巨体が現れた。距離は、まだ500メートルほどある。こっちに気づいたようだ。ゆっくりと近づいてくる。


「じゃあ戦うとするか……」

「待ってください、丸田さん」

一歩踏み出そうとする俺を大城が止めた。

「なんだよ?」

「丸田さん、あなたにはこのパーティを抜けてもらいます」

「え?」

俺は目をぱちくりさせた。

「だから、丸田さんにはこのパーティを抜けてもらいます」

「どういうことだ?」

端的たんてきにいえば、丸田さんは勇者パーティ追放です」

「なんでだよ!」

「なんでって……、わからないんですか?」

大城は、俺にあてつけるように、やれやれと肩をすくめた。

「丸田さんは、ぜんぜんパーティの戦力になってないじゃないですか」

「そ、それは……」


大城は、攻撃魔法、治癒魔法、おまけにバフもいくつか使えてしまう大賢者だ。ただの賢者でなく大賢者だから、攻撃魔法も非常に強力なものが使える。

一方で、俺は、ただの魔法使い。


つまり、攻撃魔法においてさえ、大城は俺の完全上位互換なのだ。

そのため、パーティの戦いでは、俺の出番はほとんどない。


「で……、でも、みんなで力を合わせて魔王討伐をしろって王様が言ったじゃないか」

「力を合わせるっていううのは、力がある人が言うことですよ。ところが、このパーティでの丸田さんの戦力は事実上ゼロです。0の戦力をいくら足しても、力を合わせることにはなりません」

「うぐっ……」

正論を突きつけられて、俺が口ごもる。


「ともかく、魔王討伐は僕たちが責任をもってやるので安心してください。もちろん、ミノタウロスも僕たちが責任を持って討伐します。丸田さんにはパーティを抜けてもらいます」

「同じ世界から転移してきたよしみだろ? ちょっと酷くないか?」

「全然、酷くないですよ。当然のことです」

固まる俺に、大城は冷たい視線をつきつけてくる。


「もうはっきりしたでしょ。大人しく王都ででも待っていてください。宿屋ででも、ゆっくりして、僕たちのことを応援していてくださいね」

大城の口元が、俺をあざ笑うように曲がった。


「あと、もうひとつ……」

「なんだよ」

「丸田さん、あなたとは、今後、もう関わりたくないので、しつこくついてきて、僕の前に現れたりしないでくださいね」

「そんなストーカーみたいな真似しねーよ。くそっ。こっちから出て行ってやるよ。こんなパーティ!」

「そうですか。では、みなさん、行きましょう」

大城は俺をその場に残し、ミノタウロスが向かってくる方向へと悠然ゆうぜんと歩いていったのだった。

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