第6話 パーティを追放されたが、たいして変わらなかった



しばらく、小高い丘の向こうに歩み去っていく大城の背中を見ていただろうか。

とりのこされた俺は、呆然となっていた。

しかし、すぐに俺はこれからの身の振り方を考えた。

こんなところにずっと立っていてもしかたない。俺は王都の中へと引きかえす。



勇者パーティを追放されたという事実は、俺を完全に負け犬の気分にさせていた。

打ちのめされて、とてもみじめな気分だった。

「ちくしょう! ふざけんなよ!」

地面を踏み鳴らし、一通り、感情を出しきる。


で……


すぐに心が落ち着いてしまった。

まあ、俺は失敗や挫折をしらないといったエリートからは程遠い。これまでもいろいろ辛い人生経験があった分、立ち直りも、すごく早いのである。


「ま、いいか……」



☆☆☆



新しくとった宿屋の部屋のベッドに寝転びながら思った。

パーティを追放されたということは、よく考えれば、魔王討伐の責任がなくなったということである。

今の自分を客観的に見れば、肩の荷が下りて、かえって、すっきりした気分になっていた。



「てきとーに生きる。よく考えたら、そっちのほうが気楽でいいな……。王様からは、そこそこ贅沢しても数年は行きていけるような支度金をもらってるし。魔王を倒す義務もない。存分にニートができるぞ!」

これで、PCとネット、そしてエロゲがあれば、魔王が倒されるまで、ずっと引きこもりニートをするところだ。


俺はベッドに仰向けに寝転んでいた。


「さて、どうすっかなー」

あらためて、今後のことを考える。

「楽しいことがいいなあ。自由気ままに、オープンワールドのゲームみたいに冒険の旅にでてみるのもいいかもしれないなあ……」

「そうですよ。楽しくやろーよ! 丸田さん!」

女子高生勇者の沙織が、俺の右腕にしがみつくように添い寝しながらに言った。

この少女は、結局、イケメンの大城じゃなく、パーティを追放された俺についてきていた。


「そうですぅー。楽しいのが一番ですぅー」

いつもの甘えるような喋り方で高田が続けた。

高田も、沙織と反対側から添い寝をするように、俺の左腕に大きなおっぱいを押しつけていた。

高田も、パーティを追放された俺についてきていた。


「楽しい冒険がいいですね。美味しいものとかもいっぱい食べられるのかなあ……」

元女神のエリサが、頭の上から俺を覗き込むように言った。エリサは俺に膝枕をしていた。

エリサも、同じように追放された俺についてきた。



すると……、

宿の部屋の扉の向こうでドタドタと駆け寄ってくる足音。

バタンッ!

大きな音がして、部屋の扉が開く。


「まてえええええええ……!」

見れば戸口に、息を荒げ、顔を真赤にした大城が立っていた。



「あ、大城っちだ」

「あ、大城さんだ」

「あ、眼鏡くんだ」

沙織、高田、エリサが、同時に間の抜けた声をだした。



「ゼーハー、ゼーハー、ゼーハー……」

一生懸命走ってきたのか、大城は苦しそうに息をしている。

大城は全身ぐるぐる巻きの包帯に、松葉づえだった。

どうやら、かなりの怪我をしているようだ。


「どうした、大城? ミノタウロスの討伐は終わったのか?」

俺が言うと、真っ赤な顔をした大城が、怒りに声を荒らげた。

「僕1人でどうしろって言うんですかっ!」

大城の目が血走っている。どうやら、よっぽど腹が立ってるらしい。


大城は、目を血走らせ、怒りにバタバタと床を踏み鳴らす。

そして、

「うっ……」

怪我がよほど痛むのか、大城は床を蹴っていたほうの脚を抱えて、うずくまってしまった。


どうやら、勇者パーティの女たちが、全員、俺についてきたせいで、大城は、1人でミノタウロスに立ち向かうことになってしまったようだ。

「たしかに、パーティでならそこまでの強敵ではなくなったとはいえ、1人でミノタウロスに立ち向かえば、大怪我はまぬがれないな」

「ぐぬぬ……」

大城が怒りに唇をかみしめる。



「で、大城。とりあえず、ミノタウロスは討伐したんだな? 自分の身を顧みず、そこまでの怪我をしてミノタウロスを討伐するとは、すばらしいぞ。大城、褒めてつかわす」

「大城さん、すごいです」

「大城っち、やったね! ブイ!」

「眼鏡くん、がんばったぁー」

沙織、高田、エリサの言葉が、俺の発言に続く。


「うっ…………」

大城が動きを止めて唇をかみしめた。

「どうしたんだ? 責任をもって討伐するとか言ったよな、おまえ」

「ぐぬぬ……」

「まさか、討伐できてないとでも言うんじゃないだろうな?」

「…………」

真っ赤な顔をした大城が黙り込んだ。どうやら、ミノタウロスを討伐するのに失敗したようだ。

やっぱり、ひとりじゃきつかったか……。

まあ、当然だけど。



☆☆☆



ミノタウロスは身長5メートルほどの巨体だ。小高い丘に登って見下ろせば、数百メートル先からでも、ミノタウロスの姿を確認できた。

ミノタウロスは、魔の森の中、巨木に背をあずけるようにして、休んでいる。


ミノタウロスは、王都から3kmほど離れたところにいた。

王都への侵入を試みたようだが、どうやら、王都を囲む高い城壁が超えられなかったようだ。


ミノタウロスからかなり離れたところに、王国軍のキャンプが確認できた。40人ほどの兵士たちが見えた。

おそらく、ミノタウロスを討伐するために編成された部隊だろう。ただし、かなりの怪我人けがにんがいるようだ。



とりあえず、王国軍のキャンプまで行き、状況をたずねてみることにした。



「どんな状況なんだ?」

「勇者パーティの大城殿と協力して、ミノタウロスを倒そうとしたのですが、このありさまでして」

俺の質問に、王国軍討伐隊の隊長が説明した。

隊長は、40歳手前くらいの黒ひげを生やした体格のいい男だった。王国軍共通の銀色の鎧とヘルムで身を包んでいる。


みれば、隊長をふくめ、40人ほどの兵士は、ほとんどがどこかを怪我している状態だった。


「ミノタウロスは、あまりにも強く、我々全員でかかっても、全く倒すことができませんでした。ミノタウロスのHPは3億ほどもありますから、われわれだけで削り切ることは不可能です……」

苦虫を噛み潰すように、隊長がくやしそうに言った。

でも、話しを聞いていると、かなりの攻撃は加えたっぽい。


「うっ……」

みじろぎしたところで、隊長が苦痛に顔をゆがめた。

ミノタウロスにやられたのだろう。隊長も肩に大怪我をしていた。


そのときだった。

「ミノタウロスだ!」

兵士たちが次々に叫ぶ。


森の木々の向こうから、ミノタウロスの巨体が現れていた。

キャンプ地が恐怖でパニックになる。

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